電通総研 「若者研究所」研究員 西井美保子
“ゆとり世代”から派生し、若者層を指すキーワードとして定着しつつある“さとり世代”。「高望みをしない」「車やブランド品などの高級品を欲しがらない」「気の合う人たちとだけ付き合う」「恋愛に淡泊」などといわれていますが、彼・彼女らはどんなアルバイトを選ぶ傾向があるのでしょう? その心に響く求人広告とは? 定着してもらうための環境作りの方法って? さとり世代の特徴と働き方について、若者の動向に詳しい「電通若者研究所」の研究員・西井美保子さんに伺いました。
いまやメジャーな言葉になりつつある “さとり世代”。語感から“さとり世代”とも混同されがちですが、“さとり世代”とは、もっと広義の言葉で“さとり世代”を含む若者層を指します。つまり、アルバイト界を担う若いスタッフたちはこの世代に該当するのです。
彼・彼女たちは「堅実で、高望みせず、恋愛にもガツガツしない」など、まるで悟っているような意識を持っているため、さとり世代と呼ばれています。では、アルバイトに関するさとり世代の特徴には、どんなものがあるのでしょうか。彼・彼女たちの育った背景とともに見ていきましょう。
この世代が生まれたのは、時代が昭和から平成に大きく変わった時期です。物心がついた時には、すでにバブルが崩壊。その後もITバブル崩壊、リーマンショックと続く長い不況のさなかで育ちました。家庭でも親の財布のヒモは固く、限られたお金や物で楽しまざるを得なかった世代です。
そのため、さとり世代は将来への不安を強く感じています。2013年の電通による調査では、大学生のおよそ80%が将来について「不安」だと答えています。目先の大学受験より、大学卒業後の就活が不安だという声もあり、一歩先より、二歩先、三歩先を見据えて動く傾向があります。
「ゆとり教育」が完全移行した2002年、学校はつめこみ型の偏差値教育を避けるべく、テスト結果や成績ランキングなどの公表を伏せるようになりました。大学の入試状況も推薦やAO入試が増えるなど、競争のハードルは著しく下がっています。
こうして競争の少ない環境で育ったさとり世代は、「競争」が苦手です。また、叱られ慣れていないため、ちょっと叱責されただけでもショックを受けてしまいます。
一方で、人とのつながりに喜びを感じ、和を重んじるため、協調性はバツグン。特に自分の居場所(=「内輪」)を大切にしています。さらに、所属するグループをいくつか持ち、グループに合わせて「自虐キャラ」「突っ込みキャラ」など、自分のキャラクターを悪意なく使い分けます。「内輪」と「それ以外」を明確に線引きして行動するのも、さとり世代の特徴の1つです。
生まれた時、もしくは物心ついた時からインターネットがある環境で育ったさとり世代は、日々ネット上で更新される膨大な情報を目にしながら生きています。そのため、彼らはその情報が自分にとって必要か不要かをスピーディに判断しています。
また、スマートフォンの普及も手伝って、検索で答えに辿りつくのに慣れており、ファストな正解を求めがち。「選ぶからには間違えたくない」という意識が強く、「自分探し」より「正解探し」を重んじる人が多いようです。
自分の選択が「正解だった」と感じられるのは、例えばFacebookやTwitterなどのSNSで、多くの人から「イイね」と認めてもらえた時。いつでもどこでもつながれるSNSの世界で、自分をステキにアピールしたり、友人たちに面白いネタを提供したりして「イイね」と認めてもらいたい。つまり、人一倍他人に「承認してほしい」というマインドを持っているのです。
すでに述べた通り、さとり世代は将来への不安を強く感じています。そのため、アルバイトにも「自分の将来に生かせるかどうか」を見定めたいと考え、「就職活動の自己PRで使える」「自分のキャリアにプラスになる」など、将来的なメリットを感じられるものを選ぶ傾向があります。
また、膨大な情報をスピーディにさばくため、長文を読み飛ばす人が多いと考えられています。さとり世代をターゲットにして求人広告を出す場合は、長々と文章で説明するのは避けましょう。一瞬でどんな仕事かがわかるキャッチコピーと画像で、端的に見せるのが得策です。
また、さとり世代は「内輪でネタになるか」という視点も持っていますから、「地味な会社だけど、こんな派手な仕事もしている」などの意外性があれば、そこをアピールするのも手。さとり世代の食いつきが高まる可能性があります。
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さとり世代は競争の少ない環境で育ったため、「選ばれる」ことが苦手。面接は選ぶために行うものですが、「選ぶ側」「選ばれる側」という上下関係を作りすぎると、警戒して素を出さなくなってしまいます。さらに、面接の段階で会社に対してネガティブな印象をもってしまい、採用しても長続きはしない可能性さえあります。
意識したいのは、「会話を楽しむ」ことです。例えば「こんなケースでは、あなたはどう行動しますか?」「こう行動します」のような一問一答形式で進めていくと、彼らは「回答」を口にするだけで、なかなか会話のキャッチボールが成立しません。
ならば、時おり「こういう場合、私ならこうするけれど、あなたはどう行動する?」というような変化球を織り交ぜてみましょう。彼らは「こちらを目下だと切り捨てずに意見を聞いてくれる」「同じ目線で話してくれる」と感じるでしょう。無事に採用となった場合も、自分を理解してくれる雰囲気の職場だという印象を与えることができます。
さとり世代のアルバイト定着率を高めるためにはどうすればいいのでしょう?
そのコツは、彼らにアルバイト先を「居場所」だと思ってもらうこと。つまり、「内輪」だと感じられる仲間や環境、雰囲気を作ることです。具体的には、誕生日会をしたり、みんなで食事をしたり、サプライズイベントを企画したりするのが有効。短期間で辞めてしまうスタッフが多いアパレル業界でも、こういったイベントを行うことで勤続するケースが多いそうです。
たとえ大きな部署であっても、4~5人単位の小さなチームを作り、その中でチーム会やチーム旅行などを企画して、内輪感を演出している会社もあります。
内輪の感覚はプライベートを共有することで生まれますが、「嫌がられるかな?」と臆せずに、ぜひ踏み込んであげてください。彼らは「認められたい」「愛されたい」という承認欲求が強く、気にかけてもらえるのはうれしいことなのです。
20代前半の方が、20代後半よりも飲みの誘いに乗ってくる率が高いというデータもあります。いわゆる“飲みニケーション”のような“戦略的おせっかい”も効果的でしょう。だんだん心を開き、素に近いキャラクターを出してくれたり、本音を話してくれたりして、より絆を強めることができると思います。
常時アクセス可能なスマートフォンがあるので、さとり世代は一人でいる時間をも「みんなと一緒にいる時間」と捉える傾向にあります。お金と同じく、時間に対しても「やりくりするもの」だと考えている人が多いようなのです。
だからこそ、アルバイトに費やす時間も、自分にとって貴重な時間を割くのに値する内容かどうかをシビアに見ています。長く働いてもらうためには、「ここは自分の居場所だから時間を投資したい」というモチベーションを持ち続けてもらうことが欠かせません。
まずは、先述した内輪的な環境作りが必要不可欠。そして、「いつもありがとう」「君がいてくれるから、こんなに助かっている」などと日ごろから声を掛け、「自分がここにいる意味」を実感してもらうといいですね。
一方で、彼らを叱る際は要注意です。叱られ慣れていない彼らは、場合によっては職場に来なくなってしまったり、仕事を辞めてしまったりするケースも……。甘えと思われても仕方がないのですが、一緒に楽しく働いていくためには、いつまでもネチネチと叱り続けないよう配慮しましょう。
ある会社では、叱る際はスタッフらの面前ではなく、2人きりの場所を選び、叱った後はスッキリと笑顔になるよう心がけているそう。“お叱りタイム”とそれ以外をきちんと区別しているんですね。これは、さとり世代のみならず、あらゆるスタッフが働きやすい環境を作る上でも有効だと思います。
★モチベーションアップの言葉
「君がいるから助かっているよ!」「いつもありがとう!」
→自分の存在の意味、アルバイトの価値を実感させる
★モチベーションを下げない叱り方
「はい、お叱りタイムはおしまい。引き続きがんばろう」
→叱る時間とそうでない時間のメリハリをつける