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「働くこと」基礎概念講座1-1 ~「目標」と「目的」の違い

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2014年05月19日

◆目標は単なる「しるし」・目的は「意味」を含んだもの

日ごろの仕事現場で、よく口にする「目標」と「目的」。両者の違いは何だろうか?

まず目標とは、単に目指すべき状態(定性的・定量的に表される)、あるいは目指すべきしるし(具体像や具体物)をいう。そして、そこに意味(~のためにそれをする)が付加されて目的となる。簡単に表せば───

目的=目標+意味

1-1a 目標と目的

 


次の有名な寓話「3人のレンガ積み」で考えてみよう。

 中世のとある町の建築現場で3人の男がレンガを積んでいた。
 そこを通りかかった人が、男たちに「何をしているのか?」とたずねた。

 1人めの男は「レンガを積んでいる」と答えた。
 2人めの男は「食うために働いているのさ」と言った。
 3番めの男は明るく顔を上げてこう答えた。
 「後世に残る町の大聖堂を造っているんだ!」と。


このとき、3人の男たちにとって目標は共通である。つまり、1日に何個のレンガを積むとか、何ミリの精度で組み上げるとか、何月何日までに終えるとか。しかし、目的(=意味を含んだもの)は3人ともばらばらだ。

一人めの男は、目的を持っていない。
二人めの男は、生活費を稼ぐのが目的である。
三番めの男は、歴史の一部に自分が関わり、世の役に立つことが目的となっている。


1-1b 目標と目的

 


目標は他者(組織や上司)から与えられることが十分ありえる。しかし、目的は他者から与えられない。意味は自分で見出すものだからだ。何十年と続く職業人生にあって、他者の命令・目標に働かされるのか、自分の見出した意味・目的に生きるのか―――この差は大きい。

仕事の意味はどこからか降ってくるものではなく、自分が意志を持って、目の前の仕事からつくり出すものである。さらには、意味のもとに仕事をつくり変え、キャリアという名の物語を編んでいくことである。こうした意味や価値の次元において、みずから評価、判断、創造、行動できるのが、真の意味での「自律性」ということである。

 

◆経営者や管理職は「意味・価値」次元でどれだけ語れるか

昨今の職場には、「(数値的)目標は溢れるが、目的がない」

だから多くが「目標疲れ」を起こしてしまう。組織にとって目標は不可欠だが、その目標の先にある目的は何か、を誰も語らない。経営層は「我が社を取り巻く市環境はいっそう激しさを増し・・・、いまこそイノベーションを起こして生き残りをかけるべく・・・、そのために今期の売上目標は・・・」などと社員に危機感をもたせ、発破をかける。ただ、これは状況説明であって、目的を語っているわけではない。その組織が事業を通じて実現したい価値、届けたい理念、満たしたい意味、自分たちがこの世に存在しなければいけない意義。そしてそれが、個々の社員たちの働く意味とどうつながりを持つのか。また、管理職においては、経営トップが発信した理念を、それぞれの部署にどう適応させて翻訳し、部下にどう語っているのか。───これらがほとんど欠けているのではないか。

「強い組織」とは何か? 能力のあるヒトを集めれば強い組織ができるのだろうか。能力や資質はあくまで人間の付属物のようなものである。その付属物を生かすも殺すも、伸ばすも伸ばさないも、その人の「自律性」が決める。自律性はその人の存在にかかわる次元から湧き起こり、能力や資質を司るものだからだ。したがって、意味や価値の次元での「律」をしっかりと肚に据えた「自律した強い個」が、強い能力を継続的に開発し、強い仕事をする。そして、そうした人財が集まって、強い組織をつくる。強い組織は強い事業を行う。

 

◆意味を探し当てたとき人間は幸福になる

「人間とは意味を求める存在である」―――こう言ったのは、第二次世界大戦下、ナチスによって強制収容所に送られ、そこを奇跡的に生き延びたウィーンの精神科医ヴィクトール・フランクルである。

フランクルが凄惨極まる収容所を生き延びた様子は、著名な作品『夜と霧』で詳細に述べられているが、彼自身、なぜ生還できたかといえば、生きなければならないという強い意味を持ち続けていたからだという。

彼は収容所に強制連行されたとき、間近に本として発表する予定だった研究論文の草稿を隠し持っていた。しかし、収容所でそれを没収され、燃やされてしまう。そのとき彼には、なんとしてでもここを生き延びて、その原稿を再度書き起こし、世に残したいという一念が湧き起こった。

彼はその後の著書『意味への意志』の中で、「意味を探し求める人間が、意味の鉱脈を掘り当てるならば、そのとき人間は幸福になる。しかし彼は同時に、その一方で、苦悩に耐える力を持った者になる」と書いた。

急激な市場変化、厳しいコストダウンや生産性向上への要求、売れる商品開発へのプレッシャー、グローバル化への対応……そうした事業戦争の現場で、意味や価値を問い、みなで共有できる目的を考えるというのは、いかにもナイーブで、曖昧模糊として、面倒で、生産効率性から遠い作業に思える。しかし、こうした一人一人の「働く心の根っこ」を見つめなければ、ほんとうに強い個と強い組織、強い事業は生まれない。目標を課し、うまくやれば高い報酬を出すという仕組みで人を働かせることはできる。しかし、それで回し続けることがほんとうに賢明な、いや、それ以上に、美しいやり方なのか。人事担当者は経営者とともに、その点を熟考すべきだろう。


ところで、先の「レンガ積みの3人の男」のその後を、私が想像するに……
一人めの男は、違う建築現場で相変わらずレンガを積んでいた。

二人めの男は、今度はレンガ積みではなく、木材切りの現場で
「カネを稼ぐためには何でもやるさ」といってノコギリを手にして働いていた。
そして三人めの男は、
その真摯な働きぶりから町役場に職を得て、
「今、水道計画を練っている。あの山に水道橋を造って、
町が水で困らないようにしたい!」といって働いていた。

 

 

【一般社員への問い】
□他者からの目標をこなすことだけに忙しくしていないだろうか?
□目標に自分なりの意味を与えている(=目的をつくり出すことをしている)だろうか?
□組織の事業目的は何だろうか? 自分個人が働く目的は何だろうか?
 組織と個の目的はどのように重ねることができるのだろう?
□自分が働く目的は、パンを得るレベルのことだろうか、
それとも町の大聖堂をつくるレベルのことだろうか?

【経営層・管理職・人事の方々への問い】
□働き手に、もっぱら「目標」だけを課していないか?
 目標の先に「目的」はあるか? それを自分の言葉で社員・部下に語れるだろうか?
□組織が持つ事業の目的と、働き手が持つ仕事の目的を重ね合わせることの支援をしているだろうか?
□あなたの組織の事業目的は、パンを得るレベルのことだろうか、
それとも町の大聖堂をつくるレベルのことだろうか?

〈グループ記事〉
○1-1:「目標」と「目的」の違い
○1-2:「目的」のもとに「目標」がある
○1-3:「組織の事業目的」と「個人の働く目的」

 


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