人事制度の構築は大変な労力を要するもので、制度が完成するとしばらくは何もする気が起きないという担当者もいる。制度の構築や改定は、10年に一度あるかないかのことで、そこには大きなことを成し遂げたという達成感も含まれていて、心地よい疲れというのもあるだろう。
でも、本当に大切なのはこれからだ。人事制度は骨格を造ったに過ぎない。これに筋肉をつけるか贅肉をつけるか、はたまた骨抜きにするかは一重に人事の力量にかかっている。
制度構築後の人事部門の役割は大きく2つある。
1つは制度の着実な運用である。その中でも、力を入れなければならないのは制度の定着支援だ。
具体的には、説明会の実施、運用状況のチェック、評価者・被評価者研修の実施、個別の質問受付、苦情処理等である。
特に運用状況のチェックは、定期的なアンケート調査などもよいが、社員からの声を直接耳にすることが大切だ。それも公式的な面談によるヒアリングとかではなく、職場に立ち寄ったときのついでとか、昼食時や休憩時に一緒になったときとか、ざっくばらんな雰囲気の中での情報収集を大事にしてほしい。現場の実態に根ざした本音が聞けるからだ。経営者から一般社員や非正規社員まで、広くナマの声を収集したい。
人事制度というのは、いってみれば人事部門が社員という顧客に提供する商品だ。それゆえ、顧客を訪問し、その意見を聞くのは商品の改善につなげるために当たり前のことだ。
直接声を聞くことには、社員の側で理解が不足していることや誤解していることを、その場で補足・修正ができるというメリットもある。理解者が増えれば、その分確実に制度は機能するようになる。
また、これらの声を踏まえて評価者・被評価者研修などを行えば、現場の問題を反映した研修として実践的な効果も高められる。
2つ目の役割は制度のメンテナンスである。
運用ルールやフォーマットの不備など、不具合は必ず発生する。社員からもいろいろと指摘してくるはずだ。これらに迅速に応じることが制度の信頼性を高めていく。
もちろんすべての意見を反映させるのはムリだし、その必要性もない。しかし、反映はさせなくとも、反映できない理由を答えるのは大切だ。特に新人事制度の目的やコンセプトに関係するものであれば、しっかりと説明をし、少しでも理解を得ることである。関心を持ってくれた「顧客」には、できるかぎりの礼儀を尽くしたい。
新人事制度がうまく流れに乗るかどうかは、このような地道なフォローをどれだけ実践していくかにかかっている。
得てして、制度の構築を終えると、その勢いで社内公募制度とか360度評価といった新たなものに取り組み始め、制度のアフターケアを片手間に追いやってしまうものだ。
これは会社・上司の認識不足も起因している。つまり、制度作りは終わったのだから、当然、次なる別の課題に取り組むべきという認識である。担当者からすると、新たな課題にチャレンジしないと自分の評価が悪くなってしまうのだ。制度導入後のケアを真面目に取り組んでいれば、新たなことを本格的にやる時間はないはずなのに。
苦労して作り上げた制度を実らせたいのであれば、構築後の最低2年間、できれば3年間は土台を固めることに注力をしてほしい。地味ではあるが、非常にチャレンジングな仕事でもある。