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信賞必罰を徹底した会社の末路

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2024年07月05日

このところ業績が頭打ちとなっているA社は、社員にカツを入れることにした。元々、信賞必罰を重視していたが、それをさらに徹底させるというのだ。具体的には、成果を上げた社員とそうでない社員とで、賞与で10倍もの差がつくようにした。実際、最高評価のBさんの賞与額は100万円で、最低評価のCさんは10万円となった。

賞与査定のベースとなる評価には、100%業績評価を用いる。これまで50%は能力評価も用いていたが、利益に直結する業績評価だけで査定をするようにした。

当初、社長は、最低評価の場合は賞与ゼロにしようとしたが、人事担当の役員から「さすがにそれはマズイ」と言われ、寸志程度は支給することにした。

もっとも社長は納得していない。賞与額を決める経営会議で社長は、「Bさんは会社に利益をもたらしているのだからこれに報いるのは当然。逆にCさんは会社の利益を奪っている。本当は、Cさんには罰金を払ってもらい、その分、Bさんの賞与を増やしたいくらいだ」と言い放った。

「そんなことをするとCさんは辞めてしまいますよ」と他の役員が言うと、「辞めてもらって結構。いや、はっきり言って、辞めてほしい。また、新たに人を入れて、その中でBさんのような人が出てくればいい」と社長の放言は続いた。

このような方針で2年が経過した。実際、Cさん、というか低評価の人はほとんど退社した。その分、新たに人を入れた。採用にカネはかかるが、それは必要経費であり、仕方がない。

入ってきた人には、既存社員が仕事を教えることになるが、あまり丁寧には教えない。教えても自分の業績評価がよくなるわけではないからだ。なかには親切に教える人もいたが、どういうわけかそのような人は業績評価が低く、既に会社を去ってしまっている。

このため、入ってもすぐに辞めていく人が多い。ただ、社長としては、それはそれでOKである。早期の退職ならば、人材紹介会社に手数料を払わなくてよいからだ。もっとも、そのようなA社には、人材紹介会社もいい人材を紹介しないようになってきているが。

この2年で社員もずいぶん入れ替わり、組織風土も様変わりした。以前は和気あいあいとした雰囲気もあったが、現在は何か殺伐としている。他人にはかまわず、自分の仕事だけをしていればいい、そして唯一最大の関心は「とにかく稼ぐこと」という社員が多い。

ただ、中にはそうでない人もいた。A社のエース社員、Bさんもその1人だ。元々、Bさんは仕事そのものにやりがいを感じるタイプ。いわゆる内発的動機づけの高い社員だった。しかし、高額のインセンティブに麻痺した現在、「稼ぐこと」が目的となっている。

肝心のA社の業績だが、頭打ちは続いており、前年度は大きな減益となった。賞与の原資が減り、最高でも50万円しか出せなかった。今季も回復の望みは薄い。

業績評価の高かった社員は一斉に辞めてしまった。多くは高収入が得られたから働いていたのだ。それが期待できなければA社で働く必要はない。その中にはエースのBさんもいた。外発的動機づけに慣れてしまったBさんには、カネのないA社はもはや魅力のない会社となってしまったのである。

主力の社員が一斉にいなくなったA社は、崖から転がり落ちるようにさらに業績が悪化していった。

…以上はフィクションである。ただ、どこかに似たような会社があるかもしれないが。

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