適正な評価の実現を目指して、評価者研修を実施する企業は多いと思う。ただ、評価の適正化には、評価者の評価スキル向上だけでは限界がある。被評価者にも、評価に関する基本的な知識・理解が求められるからだ。
かつては、上司が一方的に部下を評価し、結果も部下には知らせないというスタイルが一般的であったが、現代では、人材育成を主眼に、自己評価や評価結果のフィードバックを取り入れる企業も多い。評価は上司が独自に行なうものではなく、部下との共同作業となっているのだ。評価に関する知識に一方に偏りがあれば、作業に支障が生じるのは当然だろう。
たとえば、自己評価の際、評価のことをよく知らない部下が、自分の思いのままに評価をすれば、上司評価と大きなギャップが生じてしまうのは容易に想像できる。上司は、その差を説明し、納得してもらうことに多大な労力をかけなければならない。そうして納得してもらえればまだ救いはあるが、そもそも、話し合いのベースとなる評価知識に大きな差がある中で、納得してもらうのは難しい。あたかも異なる言語でコミュニケーションを取っているかのようだ。真面目な上司ほど一生懸命に説明をし、そして真面目な上司ほど徒労感も強くなるだろう。
一方、被評価者から見れば、訳の分からない評価をされたという印象だけが残り、評価制度に対する不満、さらには上司に対する不満が募るばかりとなる。
そういった事態を避けるためには、被評価者にも評価に関する一定の知識を持ってもらう必要がある。評価の目的、制度の仕組み、評価の方法、ルール等である。マニュアル等があれば、それを読んだり、視聴してもらったりするのもよいが、全員に最低限のレベルに達してもらうには、やはり研修の機会を設けたい。
ところで、中には、被評価者が知識を持つと、評価者が優位に立てなくなって上司、引いては評価への信頼性が低くなるという理由から、実施をためらう経営者や人事担当者もいる。実際、そのような事態が発生しないとはいえないが、一部の情けない上司の保護のために被評価者を切り捨てるのは本末転倒である。何のために評価をするのかをあらためて考えてほしい。
被評価者に評価知識を持ってもらうことは、上司にも大きなメリットがある。次のような面で上司の負担は軽くなると考えられる。
まず、自己評価の精度が高まる。部下からの自己評価の説明にも、これまで以上に納得できるはずだ。また、日常の業務遂行においても、評価との関連を意識していれば、注意や賞賛が受け入れられやすくなる。さらに、結果のフィードバックにおいても、相互理解があれば進めやすくなり、効果も高くなるはずだ。
被評価者に評価に関する基本的な知識を持ってもらうのは、共通の言語で同じ舞台に立ってもらうことを意味する。
そのために、被評価者研修の重要性を再確認していただければと思う。特に評価制度を導入したり、見直したりした場合は、評価者研修はもちろん、被評価者研修も必須と考えるべきである。
2021年にパーソル総合研究所が100人規模以上の企業に実施した「人事評価制度と目標管理の実態調査」によると、被評価者・考課者研修の実施率は16.9%と低いのが現状だが、適正な評価の実現に向けて、この数字をもっと高めてほしいものである。