「非正規社員にも退職金がある」という企業は少ない。独立行政法人労働政策研究・研修機構が、2019年に常用雇用者 10人以上の企業2万社を対象に行った『「パートタイム」や「有期雇用」の労働者の活用状況等に関する調査結果』によれば、非正規社員に退職金を支給している企業の割合は下記のとおりで、ざっくりいえば1割ほどである。
・有期雇用でフルタイム 14.8%(10.1%、15.4%)
・有期雇用でパートタイム 7.0%(5.9%、7.2%)
・無期雇用でパートタイム 12.1%(7.1%、12.3%)
・(参考)正社員・正職員 72.1%(87.6%、71.2%)
カッコ内は、左が大企業(300人以上)、右が中小企業(299人以下)の数値で、正社員は大企業のほうが支給割合が高いのに、非正規社員は中小企業のほうが高いのが興味深い。資料を細かく見ると、規模が小さくなるほど支給割合が高くなる傾向が見られ、小規模企業で重要な戦力となっている”パートさん”に、「長い間ご苦労さま」と金一封を支給するケースも含んでいるのではないかと推察する。
2020年10月の最高裁判決で、契約社員に対する退職金の不支給は不合理ではないとの判示がなされた(メトロコマース事件)。 留意しなければならないのは、これは次のような事実のもとでの判決なので、非正規社員の退職金不支給がすべて認められるわけではないという点だ。
①正社員と契約社員との間に、職務の内容に一定の相違があった。
②正社員と契約社員との間に、職務の変更の範囲にも一定の相違があった。
③正社員への登用制度があった。
言葉を換えると、上記のどれかが該当しない場合や「一定の相違」が小さい場合などは、不合理となる可能性もあるということだ。
不合理か不合理でないかの見極めは今のところ難しい。今後、判例が積み重なるなかである程度明らかになるだろうが、それまでは様子見という企業も多い(大半か?)だろうが、この機会に非正規社員への退職金支給を検討するのも一考に値する。
退職金というと、何百万円、場合によっては1千万円以上というイメージがあるので、及び腰になる気持ちはわかるが、当然のことながら、正社員とまったく同じ仕組みにする必要はない。また、1年・2年でやめてしまうパートタイマーにも支給するのかといえば、もちろんそのようなこともない。正社員の退職金は勤続3~5年以上というのが多いと思うので、それと同様に考えればよいのだ。
相場としては、給与が正社員の6~7割なので、退職金もこれに合わせるという手もあるが、一般には負担が大きすぎるだろう。少なくとも現状は、そこまでの必要はない。 たとえば、勤続年数には応じて、
・3年以上~5年未満 5万円
・5年以上~10年未満 10万円
・10年以上~ 20万円
といったものや、3年以上の勤続に対し「勤続年数×1万円」などの方式も考えられる。金額は労働日数や労働時間に応じて適宜設定する。
正社員の金額と比べれば見劣りするかもしれないが、何しろ今はゼロなのだから、非正規社員にとっては嬉しい話に違いない。とにかくまず退職金を支給するという形を整えてみてはいかがだろうか。法的なリスクを下げること以外にも、他企業ではゼロが多い中、人材獲得・維持のメリットも大きいはずである。