コンサルティングを行っていると、会社業績や部門業績などの組織業績を、給与や賞与などに反映させたいという要望をよく聞く。
そのような企業の中には、体系的な評価制度や報酬制度を整備していないところもあり、社員が納得できる形で組織業績を反映させるのが困難なケースも見られる。
そこで、本コラムにて、人事制度が未整備の企業が組織業績を反映させる簡単な手法を紹介したい。もちろん、制度が整備されている企業でも活用できるものである。紹介するのは一時金として支給するケースだが、給与として支給するのなら、その額を12分割するなど適宜応用すればよい。
組織業績は大きく、会社業績に応じるものと部門業績に応じるものとに分けられるので、まずは会社業績に応じて支給するものから説明する。
1.会社業績に応じて支給するもの
(1)個人評価を考慮しない場合
個人評価を考慮しない場合とは、同じ等級や役職であれば、同じ支給額にするという方法である。人事評価制度を導入していない場合や、とりあえず簡素なやり方で支給したい場合に適切である。
支給額は次の計算式により算出する。
支給額=原資×等級別係数÷等級別係数計(社員の等級別係数の合計)
原資は、会社があらかじめ決定しておく。最終利益が確定した段階で、その一部を原資に充てることなどが考えられる。
等級別係数は、資格・等級・役職等に応じて設定するが、ここでは役職に応じたものを下記に例示しておく。
役職 | 部長 | 課長 | 主任 | 一般 |
係数 | 1.0 | 0.8 | 0.6 | 0.5 |
●計算例
原資:100万円
役職分布:部長2人、課長3人、主任5人、一般10人
このときの課長職の支給額を計算すると、
100万円×0.8÷12.4(1×2人+0.8×3人+0.6×5人+0.5×10人) =64,516円 となる。
(2)個人評価を考慮する場合
続いて、個人の人事評価を考慮する場合である。人事評価を実施しているのならば、こちらによる方が納得性は高い。もちろん、その人事評価が一定に機能していることが前提となる。
ところで、人事評価には「能力評価」(あるいは「行動評価」など)と「業績評価」があるのが一般的だが、ここは組織業績の査定なので「業績評価」の結果を用いるのが妥当といえる。
計算式は次の通りで、計算の仕方は(1)と同様である。
支給額=原資×等級別評価別係数÷等級別評価別係数計(社員の等級別評価別係数の合計)
ここで用いる等級別評価別係数は、下記のように設定する。
評価 | 部長 | 課長 | 主任 | 一般 |
S | 1.4 | 1.1 | 0.8 | 0.7 |
A | 1.2 | 0.95 | 0.7 | 0.6 |
B | 1.0 | 0.8 | 0.6 | 0.5 |
C | 0.8 | 0.65 | 0.5 | 0.4 |
D | 0.6 | 0.5 | 0.4 | 0.3 |
等級別評価別係数の設定でポイントとなるのは、管理職が低評価のときの係数をどうするかである。会社業績に対する責任は重いとして、極端に低い係数を設定する考え方もあるが、一般職並み、あるいはそれ以下にしてしまうのは、管理職のモチベーションのうえでどうかと思う。少なくとも、最高位職(例では部長)であれば、最下位職(例では一般)のB評価以上の係数を設定すべきではないだろうか。
2.部門業績に応じて支給するもの
組織業績を報酬にどのように反映させるか、続いて部門業績に応じて支給する場合を考えてみる。基本的な考え方は、1の会社業績に応じる場合と同じである。
(1)個人評価を考慮しない場合
支給額の計算方法は以下となる。
支給額=原資×部門別係数×等級別係数÷部門別等級別係数計(社員の部門別係 数×等級別係数の合計)
このとき、部門別係数は次のように定める。
評価 | S | A | B | C | D |
係数 | 1.2 | 1.1 | 1.0 | 0.9 | 0.8 |
等級別係数は、「会社業績に応じて支給するもの」(1)にて示したものと同じである。
ここで課題となるのは、部門評価をどのように行うかである。
部門評価の仕方は大きく2つあり、1つは、部門目標の達成度を評価するものだ。売上目標や利益目標、コスト削減目標その他の数値目標の達成率で見たり、定性目標の達成度合いをあらかじめ設けた基準により評価したりする。
もう1つは、業績結果を前年(あるいは過去3年の平均)などと比べて評価するものである。
どちらにしても、管理部門など数値目標が設定しづらい部門は、全社(あるいは部門平均)の業績で評価することもある。
(2)個人評価を考慮する場合
支給額の計算方法は以下となる。考え方はこれまでの手法とまったく同様である。
支給額=原資×部門別係数×等級別評価別係数÷部門別等級別評価別係数計(社員の部門別係数×等級別評価別係数の合計)
部門業績に応じて支給する場合は、部門業績の評価がカギとなる。成長段階にある企業では部門により業績格差が激しい場合もあるし、ベンチャー企業の投資部門などでは、当面は赤字も仕方がない部門もあるのが普通だ。
そのような企業で単純に売上・利益目標などを設定すると不公平感が生じる。 評価の仕方に不公平感があると、低評価部門の社員の不満は当然に高まる。部門業績に大きな責任を有する管理職はともかく、一般社員の納得は得られないだろう。
そこで、規模が小さく部門業績が安定しない企業や、発展段階で投資部門がある企業などは、まずは1にて説明した会社業績をベースに支給をするのが適切である。そして、何年か経過後にシミュレーションを行い、社員の納得性が得られると判断されたなら、部門業績ベースに移行するのがよいだろう。