在宅勤務については、通勤や人間関係ストレスの軽減などのメリットが挙げられる一方で、様々なデメリットも指摘されている。その一つが労働時間の増大だ。
連合総研の第 40 回「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」調査によれば、在宅勤務・テレワーク時における問題として、「通常勤務よりも長時間勤務になった」を挙げた人が45.3%となった。「休憩時間が取れない」も42.9%で、在宅勤務で労働時間が増えた労働者が多くいることがうかがえる。
ここでは、その要因と対応策を整理してみよう。まず、要因としては次のものが考えられる。
(1)仕事の進め方
①何をどこまでやるか、上司との連携がとりづらい。
②不明点があったときなど、質問や相談がしにくい。
(2)仕事環境
①情報機器や通信環境が整備されていない。
②仕事に専念できる部屋がないなど仕事環境が適切でない。
③仕事に必要な情報・資料を入手しづらい。
(3)プライベートとの兼ね合い
①育児・介護・家事などプライベートの作業が入ってくる。
②会社にいるときに比べてメリハリがつけづらい。
ざっくりと言えば、(1)は会社でコントロールすべきこと、(2)は会社・労働者双方でコントロールすべきこと、(3)は労働者自身でコントロールすべきことである。それぞれ対応策を考えてみよう。
(1)仕事の進め方
①は、基本的に上司の指示がポイントとなる。部下の経験と個性をつかみ、マネジメントをしていく必要がある。求める成果が何かを事前にしっかり話し合うことが肝要だ。話し合いは一度やればよいというわけではなく、適切な状態を目指し、繰り返し行う必要があるだろう。
②は、まずは質問や相談はウェルカムという姿勢を職場で共有しておくことが大切だ。気軽に質問等ができる雰囲気がなければ、必要な質問がためらわれ、仕事が停滞してしまう恐れがある。ただ、「いつでも、何でも」では受ける方が困るので、基本的なルールは必要だろう。すぐに回答がほしい質問、急がないが一定期間までに回答がほしい質問、考えておいてほしい質問、の3つに分けるなどだ。
③については、1週間に1度程度、メンバー全員で雑談のような形で話し合いの機会を設けるのもよいと思う。
(2)仕事環境
①②は基本的に労働者の問題だが、本来、プライベートの場である自宅に職場環境を求めるのだから、会社として何らかの配慮が必要だろう。情報機器の貸与、サテライトオフィスの設置のほか、在宅勤務手当も検討する必要がある。月5,000円程度でもよいので、支給することで社員のモラールも高まる。通勤手当に比べればコストも安く済むはずだ。
③は在宅でも入手できるよう会社が電子化を進める必要がある。ただ、急には無理と思われるので、必要ならば出勤してもらうことも考えなければならない。この辺は柔軟に対応したい。
(3)プライベートとの兼ね合い
これまで経験のないことで、不慣れな面がかなりあると思う。本人の適性の問題もあり、ノウハウが確立されていないのが実情だろう。会社として、社員の相談にのり、労働時間のフレキシブル化など、制度上サポートできることをする。もう1つ、これもやはり、悩みや不安を相談しあう場を設けたい。具体的な解決案が得られる以外にも、社員間の一体感を醸成し、在宅勤務そのものへのモチベーション向上につながるはずだ。
参考までに、厚生労働省が3月25日に公表した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法として、次の5つを挙げている。
①勤務時間外のメール送付の抑制等
②勤務時間外のシステムへのアクセス制限
③時間外・休日・所定外深夜労働についての手続の明確化
④長時間労働等を行う労働者への注意喚起
⑤その他(勤務間インターバル制度)
このうち、①と②は物理的に仕事を制限するもので、抑制効果は高いと思われる。特に①はルールを設けるだけなので導入のハードルも低い。
在宅勤務については、多くの企業で試行錯誤の状態が続く。今回は長時間労働を防ぐための方策を整理してみたが、これをやれば大丈夫という正解はない。原因を踏まえ、企業の特質に応じてできることを検討していただきたい。