新型コロナウイルスをきっかけにテレワークが一気に普及した。コミュニケーションの悪化や生産性の低下などの理由で元に戻す企業も見られるが、規模や頻度の縮小はあるにしても、継続する企業が多いのではないかと思う。ちなみに8月にリクルートキャリア社が実施したアンケートでは、コロナ禍を機にテレワークとなった就業者のうち、5月の緊急事態宣言解除後に通常出勤に戻ったのは3割程度だった。
揺り戻しはあるものの、テレワークという働き方が、今後、常態化するのは間違いない。当然、仕事の仕方も大きく変化することになる。どのように変化するか、人事労務の視点からいくつか指摘してみよう。
1.上司の部下管理の仕方
これまでのように、漠然と仕事を与え、職場で気づいたときに声をかけ、仕事の進捗状況を確認していくという管理手法はではなく、部下のレベルや仕事内容に応じて明確な指示を出すとともに、適切なタイミング、手段、回数でコミュニケーションをしていくことが求められる。そのためには、部下の仕事内容はもちろん、性格や資質、プライベートの状況などをしっかり把握しておく必要がある。前提となるのは部下との信頼関係だ。信頼関係の有無が今まで以上にマネジメント成果を大きく左右する。
ただ、信頼関係といっても飲みニケーションによるウェットな関係でなく(それも否定しないが)、仕事を通じて構築していくことが基本である。「きちんと意思決定をする」「情報共有する」「部下を信頼して任せる」「責任を取る」など、上司として信頼される言動を示すことがあらためて重要となる。
2.評価の仕方
評価対象が能力・態度・行動評価から成果重視になるのは間違いない。「何となく頑張っている」といったあいまいな評価から、目に見える具体的な成果が追及されるようになる。そこで必要なのは、成果とは何かの議論だ。組織目標や顧客満足、利益の獲得に向けて、どのような成果を積み上げればよいか。ただ、成果を過剰に細分化し、それぞれマイクロ・マネジメントをしていくようなやり方は、上司・部下双方の負担となる。ほどよいバランスを目指して試行錯誤が繰り返されるだろう。
3.時間管理の仕方
当面、通常の時間管理をする企業が大半だろうが、上記の通り、マイクロ・マネジメントは避けたいので、「事業場外労働みなし制」が進むのではないだろうか。ただ、この制度も制限が多い。今般の働き方改革では葬られた裁量労働の規制緩和が、再び議論の俎上に乗ることが予想される。「在宅勤務型」といった新たな裁量労働制が出てくるかもしれない。
4.できる社員、できない社員の変化
できる社員、できない社員が違った面ではっきりしてくる。テレワークで成果を上げるには、強い自己管理力や柔軟性、達成志向などが求められる。従来の働き方でも、これらに秀でた人は“できる社員”が多いと思うが、テレワークによりその特長がさらに活きてくる。また、組織・部署の中で自分の役割は何なのか、その役割を果たすために何をすべきか、何を変えないといけないかといった本質的な思考力も重要となる。それができる社員は、会社でやっていたことをそのまま在宅でもやろうとする社員とは大きな差がつくに違いない。
一方で、社員それぞれの住宅事情や家族事情など、仕事環境の違いもある。どんなにテレワーク向きの適性があっても、環境要因が不向きであればパフォーマンスは低下せざるを得ない。社員個々の適性、環境要因によりテレワークに向かない人は、会社で働いたほうがよいだろう。企業としては、そういった選択をできるようにすることも大切である。