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「成功のキャリア」から「健やかさのキャリア」へ

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2018年12月07日
これまでビジネスパーソンの間では、「成功を目指すキャリア」観が主流だったように思います。「キャリア」という言葉にどこかしら出世や有能さを伴ったニュアンスがあるのもそのためではないでしょうか。しかし、その反動として「自己防衛のキャリア」というものが生じてきました。しかし、人生100年を考えたとき私は、第三の構え方となる「健やかさのキャリア」が必要になってきていると思います。今記事のテーマはそんな「人生100年時代に求められるキャリア観」です。
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「いまどきの若い社員は、とかくプライベート優先で……」「仕事を自分ごとにすることを避けて……」「打たれ弱くて……」「労働条件のよいところを選り好みするように簡単に転職していくので……」。

「いまどきの若い世代は●●●で……」というフレーズは、いつの時代にも先行世代が口にするものですが、キャリア形成意識に関わる研修を受託する私が昨今、企業の人事育成担当者から耳にするのもこのような言葉です。
もちろん個人差はあり、こうでない若い世代もたくさんいるでしょう。ですが、全体的にはこうした傾向が強まっているのが現実かもしれません。

私は、こうした一種の保守化傾向はある面からながめて当然のことだと感じています。つまり、戦後の高度経済成長期からバブル経済崩壊を経てもなお、ずっと「成功のキャリア」というものが称揚されてきました。社会も企業も、そして個人の大多数も、この「成功のキャリア」観によって、勤労意欲を燃やしハッピーになれた時代は確かにありました。が、これが行き過ぎると当然、反動も生まれてきます。
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みながこぞって経済的価値のものさしにそって、単線的に上昇していくことだけを善とし、自分が有能に見られたいという「成功のキャリア」観になにか違和感を持つのは、ゆとり世代として育った感受性の強い若者なら当然です。また、ビジネスの現場がますます競争、成果、スピードを求める流れに、心身はこれ以上ついていけなくなっているのでしょう。どこかで生物的な保存システムのスイッチが入り、生命個体を守るためにも、「怠けろ」「逃げろ」という信号を出しているのかもしれません。いま、振り子の逆側に「自己防衛のキャリア」観が生じつつあるのだと思います。
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振り子の一端に「成功のキャリア」があり、また別の一端に「自己防衛のキャリア」が生じる。しかし私は、この2つの極の間の適当なところで折り合いをつけていくというのではなく、両者を止揚したところに「健やかさのキャリア」があると思っています。そしてこの「健やかさのキャリア」こそ、次代の大切なキャリア観として育まれるべきものだと感じています。

人生100年時代を迎え、私たちが長きキャリアのマラソンを走っていくために大事なことは心身の健康です。「成功のキャリア」を目指すことは、ややもすると、心身を痛めつけながら戦うことにもなりかねません。20代や30代前半までなら、成功へのあこがれや、旺盛な自己承認欲求に支えられてがんばることもできますが、30代後半からはそれがしんどくなってきます。実際、それで心身を病む人や、一見栄光を手にしている人でも途中で燃え尽きてしまってつらい40代、50代を送る人もいます。

また、健康が大事だからといって、「自己防衛のキャリア」に閉じこもってみても、心身は鍛えられることなく、ぜい弱なまま歳を重ねることになります。中高年になって、いざ何か重い試練が降りかかったらそれを乗り越えていけるでしょうか。
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「健やかさのキャリア」は、“well-being”の状態を目指します。自分という存在をよく(良く・善く・好く)開き、よく保っていこうという態度です。

すなわち、仕事生活において、
●「在り方」にまなざしを置き、そこから理想像を描いている
●その実現に向かう負荷やリスクを悠然と受け入れられる
●働く意識を他者・社会に開いていて、
共創的・貢献的な「やりがい」という内発の力を湧かせている
●その結果、大きな健康を得て、強い安定の状態にある

「健やか」という価値は、普通すぎて面白くないと感じる方もいるかもしれません。しかし、それはひとつの強さであり、在り方のもとに生き生きとすることであり、実現はそう簡単ではありません。むしろ経済的尺度によって単純に勝ち負けを決める「成功のキャリア」よりもはるかに複雑で奥が深いものといえます。

心身の健やかさという観点で「働くこと・生きること」をながめるとき、そこには3つのフェーズがあるように思います。

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まず大前提として「身体・生活の維持」があります。そのためにお金がいる。だから私たちは稼ぐために働く。これがフェーズⅠです。この地球上にはこのフェーズⅠを維持するだけでも大変な人たちがいます。発展途上国や紛争地域に生まれた人びとは、何かしら仕事を見つけ、食事にありつき、命を1日1日持たせることが人生目的になっています。

しかし、平成ニッポンの世に生まれた私たちは、幸運にも、少しがんばることでフェーズⅠは満たすことができます。そこで目指すところは、「もっと持ちたい」「快適でいたい」というフェーズⅡの活動です。たしかにこのフェーズでの生活は穏やかであり、健やかだといえます。しかし、この状態は言ってみれば「小さな健康」でしかありません。物質的な所有に支えられた生活、快に寄りかかる心は、実はぜい弱で安定しません。

実のところ、「成功のキャリア」にしても「自己防衛のキャリア」にしても、それによって到達できるのは、このフェーズⅡの小さな健康です。

成功や自己防衛を超えて、フェーズⅢの大きな健康を得るためには、創造や貢献に軸足を置いた活動に邁進することです。そして自分という能力的存在が十全に開いているなと感じられるとき、それが最も強く安定した状態であり、長きキャリアの道のりを渡っていける源泉力となります。

このように「健やかさのキャリア」という観点は、これからの時代にとても大切になってくるものだと思います。健やかであるとは、なにも成功や自己防衛を否定するものではありません。何か自分の満たしたい価値や在り方があって、その実現に邁進する過程で、結果的に成功が手に入ってくる、あるいは、自然のうちに心身が鍛えられ自分を守ることにつながってくる、そういうとらえ方です。

事業経営の分野においても、まさに「健康経営」が叫ばれています。企業が長足の成長をしていくためには、個々の従業員に「成功のキャリア」をけしかけるより、「健やかさのキャリア」をともに考え促していくほうが賢明である時代にきているように思います。
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「健やかな就労観が健やかな仕事・キャリアを生み出す」という考え方から書いた著書です。
『働き方の哲学』(村山昇著)
働き方の哲学

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