育児休業を終了して職場に復帰しようとする際、組織変更で職場がなくなっていたり、既存の人員で業務が回っていたりして、原職場への復帰が困難となる場合がある。このとき、どのような対応をするのがよいかポイントを整理してみたい。
育児介護休業法では、育休終了後における就業が円滑に行われるよう、労働者の配置その他の雇用管理等に関して必要な措置を講ずるよう事業主の努力義務を定めている(22条)。必要な措置の具体的内容は育休法「指針」に示しており、その7(1)で、育休後においては「原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮すること」を求めている。
したがって、原職復帰が困難であれば、まずは「原職相当職」への復帰を検討することになる。「原職相当職」について、厚生労働省の「育児・介護休業法のあらまし」というパンフレットでは次のように説明している。
「原職相当職」の範囲は、個々の企業又は事業所における組織の状況、業務配分、その他雇用管理の状況によって様々ですが、一般的に①休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、②休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと、③休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であること、のいずれにも該当する場合には、「原職相当職」と評価されます。
組織変更に伴って新職場に就いてもらう場合などはこれに該当するだろう。
「原職相当職」がなければ、他の業務への配転を考えなければならない。このとき注意しなければならないのは不利益変更である。育休法第10条では、育児休業の申出又は取得をしたことを契機として、不利益取扱いが行われた場合、原則として、法違反となることを定めている。そして、不利益取扱いには、「不利益な配置の変更を行うこと」も含まれる(指針11(2))。
どのような場合に不利益な配置の変更となるか、同パンフの解説は次のとおりだ。
配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものですが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、その労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、これに該当します。
ただし、パンフによれば、以下に該当する場合は、法違反とはならないとしている。
<例外1>
○業務上の必要性から不利益取扱いをせざるをえず、
○業務上の必要性が、当該不利益取扱いによりうける影響を上回ると認められる特段の事情が存在するとき
※不利益取扱いや契機となった事由に有利な影響が存在する場合は加味します。
<例外2>
○労働者が当該取扱いに同意している場合において、
○当該育児休業及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が、当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて、事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき
先述した、原職場で業務が円滑に行われており、復帰の余地が少ないようなケースは、業務上の必要性があると考えられる。このとき、配転予定の部署が人員不足である等の事情があれば、必要性はさらに高まる。
一方で、不利益取扱いによる影響と考えられるのは、主に次の2つである。
① 職場や業務内容が変わることへのストレス
② 勤務場所が変わる場合の通勤時間の増加
したがって、これらに留意し、なるべく復帰者の負担を少なくするような配慮が必要となる。たとえば、これまで事務作業に従事していたのなら、配転先も同様の事務作業にする等である。また、育児時間の確保のために、残業時間が比較的少ない部署や労働時間の変更に融通が利く部署を検討するのもよいだろう。受け入れ側が、指導やサポートを十分に行うとともに、人事としてしっかりフォローしていくことも大切となる。
これらを丁寧に説明し、納得してもらうことが重要だ。どうしても、復帰者が納得しなかったり、①②の点で高い不利益が生じたりするようであれば、原職場に欠員が生じたときには最優先で戻ってもらうことを約束するのもよいだろう。
なお、前提として、育休規程に「原則として原職場に復帰させるが、会社の事情により、他の職場に配置転換させる場合もある」ことを明記し、取得の際にしっかりと説明しておくこともトラブル防止には大切である。「育休から戻ってきたときには、現在の職場に戻れますよ」など、軽々しく口にしないよう留意したい。