求人サイトを運営するアトラエという会社では、勤続3年以上の全社員に、3年勤務するごとに連続1ヶ月の長期有給休暇を付与している。年次有給休暇とは別の制度で、取得目的も問わないという。
このように長期勤務者に対して1ヶ月以上もの長期休暇を与える制度は「サバティカル休暇」と呼ばれるもので、欧米企業で導入が増えている。日本では、一般に長期休暇といえば、永年勤続の褒賞として与えられる場合が多く、たとえば勤続20年で5日間といったものだ。アトラエ社の制度は勤続要件、期間ともに桁外れである。
制度の狙いはリフレッシュによる労働生産性や定着率の向上とのことだ。確かに、3年ごとに1ヶ月の休暇が取れるのは、就労の大きなインセンティブとなるに違いない。定着率は確実に高まるだろう。
サバティカル休暇の効果は社員のリフレッシュだけでなく、以下の3つが考えられる。
1つは、業務の標準化と改善である。自分が休みを取る間、担当業務を他の人にやってもらうためには、属人化していた部分を標準化したりマニュアル化したりする必要が出てくる。あらためて業務のプロセスや方法を確認する機会となり、ムダな作業、効果・効率の低い作業の廃止・削減が期待できる。さらに業務を代替した他者の視点から、自分では気づかなかった問題が見つかり、業務改善につながる可能性もある。
次に、メンバーのスキルアップだ。 1ヶ月もの間、休暇取得者のフォローをしなければならないので、その業務を本格的に担当することになり、否が応でも仕事の幅を広げられる。これは仕事のやりがい、引いては定着率の向上につながる。取得者だけでなく、他者の定着にも好影響を与えるということだ。 また、多能工が増えるため、多忙なときの支援ができ、労働時間の平準化にも寄与するだろう。
3つ目は、助け合いの風土を醸成できることである。 休暇取得により他者に負担をかけることになるのは事実だが、それはお互い様であり、困ったときは互いに助け合うとの職場風土ができる。実はこれが一番大きなメリットかもしれない。
アトラエ社では、社員だけでなく役員にも付与するとのこと。このとき重要なのは、上記の効果を発揮するために社員全員が取得することだと思う。同社がどのような運用の仕方をするのかは不明だが、役員が率先して取るなどして、全員取得を目指してほしいものである。特に3つ目の効果は、全員が実施してこそ得られるものだ。
アトラエ社がこのようなメリットまで考えて制度設計をしたかはわからないが、効果は着実に現われるはずだ。もちろん、業務の部分的な停滞や取得者の“休みボケ”などのデメリットも出てくるだろう。その点は、今後の運用課題とすればよいことだ。
こういった制度の導入は大企業では難しい。動きの軽快なベンチャー企業や中小企業ならではの特権ともいえる。今日、優秀な人材の確保と囲い込みは、最重要の経営課題となりつつある。思い切った人事制度は、その有力な差別化要因となることを認識すべきである。