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裁量労働制を適正に運用するには

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2018年05月04日

裁量労働制の拡大を巡って国会が紛糾した。経営側の意向を受けた与党が推進の立場に立つのに対し、残業代なしでの長時間労働を懸念する野党が反対の立場に立つというのが大まかな構図である。

当初、働き方改革法案の中で関心を持たれていたのは高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)の方だったが、厚生労働省のデータ不備などもあって、専ら裁量労働制が注目を集めることとなった。結果としては、法案から削除され、今国会での改正はなくなったわけだが、次期以降に復活する可能性は残っている。

後でも述べるが裁量労働制は適用企業が少ないことから、一般の社員にはなじみがなく、制度も複雑で、世間的に理解を得られているとはいえないのが実状である。そのせいか、マスコミやネットの記事では、一部の事例に偏った感情的な意見も見られた。本稿では、一度冷静になって、裁量労働制の必要性の有無や、どうすれば適正な運用が可能となるかを考えてみたい。

まず、裁量労働制とは何かをあらためて確認すると、労働者が自己の裁量で進められる業務に関して、その労働時間を一定の時間労働したとみなす制度ということになる。「一定の時間」は労使の話し合いで決めるわけだが、たとえば、1日9時間と決めたら、実際の労働時間にかかわらず9時間の労働をしたことになる。

労基法では、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2つがあり、専門業務型が導入されたのは昭和63年(1988年)のことである。労働者のホワイトカラー化が進み、単純に労働時間だけをもって仕事の成果をとらえることができなくなったことが背景にある。

その後、平成11年(1999年)に企画業務型が追加されたが、両制度ともに対象業務が限定的なことや導入要件が厳格なことから、導入は進んでいない。平成29年就労条件総合調査によると、採用企業割合は「専門業務型」が2.5%、「企画業務型裁量労働制」はわずか1.0%に過ぎない(参考までに「事業場外みなし労働時間制」は12.0%)。

情報技術の進展とあいまって、労働時間=成果という等式がますます成立しづらくなるなか、今般の法改正は、「企画業務型」の対象者の拡大を目指そうとするものであった。このように裁量労働制の趣旨は、現代の仕事環境に合致しており、制度自体の必要性が高いのは間違いない。

問題は運用ということになる。運用の仕方を誤ると、際限のない長時間労働に陥りかねず、現にそういう状況にある労働者もいる。それは、裁量労働制が長時間労働を引き起こす性格を持っているからといえる。

会社としては、どれだけ働かせても追加の残業代を支給しなくてもよい(※)のだから、長時間労働を止めようというインセンティブは働きづらい(※一般には裁量労働手当という形で固定の残業代相当分を支給する)。

労働者の方も、

・“成果”を求められるので、少しでもよい仕事をしようとする
・一方で、成果が出たからといって、他の社員よりも早く帰るのはためらわれる
・成果自体があいまいなケースが多いので、結局は労働時間で判断されると考え職場に居残る

といったことから、結果的に長時間労働となってしまう。

なお、企画業務型を適用するには社員の同意が必要だが、実際に断ることは難しいだろう。不同意者への不利益取扱いは禁止されているとはいえ、断れば昇進昇格など今後の処遇に響くと考えるのが自然だからである。

このような運用上の不具合を防止するには、

①経営者が制度を理解し、関心を持ち、適正に運用できているかをチェックすること
②上司が制度の詳細まで理解すること
③人事部門がそれらの支援をすること

の3点が不可欠である。要は労働時間の束縛(呪縛?)から逃れ、成果だけにフォーカスするということだ。

さらに、法的な要件として、高度プロフェッショナル制度と同様の、一定の休日数確保や勤務間インターバルなどの健康・福祉確保措置の義務付けはもちろんのこと、不適切な運用に対しては、運用中止命令や社名公表の措置、さらには一定期間遡って時間外割増賃金を支給させるなど、それなりの覚悟をもって導入してもらう仕組みが必要と考える。

適正に運用できる企業であれば、特に厳しい要件ではないはずだ。逆に、残業代削減のためなどに安易に導入しようという企業には高いハードルとなるだろう。

ところで、企業が新たな人事制度を導入する際には、試行期間を設けて事前に課題を見出すことがよくあるが、新規に法制化する制度に関して、そのような仕組みはないものだろうか。まずは厚労省の内部で試験的にやってみるとか、それが無理なら、特区でやってみる、あるいは賛同企業を募ってやってみるなど、方法はいくらでもあると思うのだが。

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