長時間労働の削減に向けて、政府では労働時間法制の見直しを進めている。
法的な枠組みを変えるのはもちろん重要だが、各企業において、残業許可制やノー残業デーなどの施策をとることも必要である。ただ、これで十分かといえばそうではない。これらだけでは表層的な対策に留まり、隠れ残業が発生したり、新たな抜け道を見出したりする可能性が高い。また、肝心の業績が低下したりしては元も子もない。もう1つ忘れてはならないのは、マネジメントの仕方そのものを変えることだ。
これに関し、厚生労働省の「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」において、長時間労働の是正ために「マネジメント、業務プロセス、人事評価等の改革」の必要性が指摘されている。資料に述べられた次の4点は非常に重要と思われるので、ここに示しておきたい(以下、太字箇所)。
1.全社的に長時間労働の是正を図るためには、経営者自らが率先して改革を推し進める必要がある。
長時間労働は日本企業の社員にしみ込んだ体質である。好むと好まざるにかかわらず、大半の社員にとって長時間労働は当たり前のことだ。そのような強固な行動規範は、トップが本気で取り組まなければ絶対に変わらない。
2.時間外労働が生じる要因としては、業務量の過多や業務の繁閑が多く挙げられるが、マネジメント能力の低さ、“誰も読まない議事録の作成”や“過度に凝った資料の作成”などに代表される過剰品質を求めるマネジメント、職場の意識改革不足も指摘されている。長時間労働を是とするような企業の業務プロセスや、人材育成・評価の在り方を含めた人事制度を変える必要がある。また、働く側も、効率的に働くことが自らの健康や生産性の向上に資する旨、意識する必要がある。
最近、労働時間削減の観点から、「過剰品質」が注目されるようなったのは喜ばしいことだ。典型的なのは、高額な対価を得ているわけでもない飲食店や小売店が、高級店のようなサービス・マナーを提供するケース(もちろん、それを求める消費者に根本原因がある)だが、それはまあ対顧客のことなのでひとまず置くとして、少なくとも社内での過剰サービスは控えようという提言には大賛成である。“誰も読まない議事録の作成”というのは、うなずく方も多いのではないだろうか。
3.無駄な作業を削減し、効率的に仕事を行うためには、現場で指示・監督をするマネージャーの力量に因るところが大きい。また、上司である現場マネージャーが長時間労働を是とする場合、部下にも長時間労働が強いられる可能性がある。このため、各企業における現場マネージャーの育成と組織的なサポートが必要である。
マネージャーの意識・行動改革が重要になることも間違いない。これまで残業の少なかった部署が、部長が変わったとたんに残業が増えたというのはよく聞く話である。
効率的マネジメントを促すのが組織的サポートであるが、1つはロボット化やIT化、外注化などによる作業効率化である。ハードワークで知られる日本電産が、こういった時短投資により残業ゼロを目指すとしたのは記憶に新しい。中小企業には困難な面もあるが、社長以下、全員が知恵を出し合うことが大切だろう。
4.より短時間で効率的に働いた人が評価されるよう、時間当たり労働生産性を人事評価の指標として盛り込むなど、企業の人事制度改革を促すべきである。その際には、効率的に働くことで時間外労働を削減した場合、削減によって浮いた原資を労働者にどのように還元するか等、各企業において工夫が求められる。
3の実現を人事制度の観点から担保しようとするものだ。マネージャーの思考・行動様式を改めてもらうために、人事評価等でチェックするという仕組み作りである。筆者もワークライフバランスに関する目標達成度合いを、業績評価指標として設定することがある。最近は、減らした残業代を手当や賞与で還元することで、時短のインセンティブを高める企業も増えている。
1~4は、取り立てて目新しいことではない。見方を変えると、長時間労働削減のためのマネジメントの王道であり、必ずチェックしておかなければならない事項といえる。これらを意識し、各企業にあった具体策に展開していくことが残業削減には不可欠だろう。