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専門職制度の留意点

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2017年11月02日

専門職制度とは、高度の専門性や豊富な経験を持つ社員をライン管理職のスタッフとして置き、組織の競争優位性を高めようとするものである。専門職は原則として部下を持たないが、ライン管理職と同等の役割発揮が期待されるため、給与をはじめとする処遇もライン管理職と同等のものとなる。

専門職を置くメリットは主に次の3つである。

① マネジメント力は不足するが、高度の専門性を有する社員を処遇できる
プレーヤーとしては優れているが、部下の管理や指導は苦手という社員は少なからず存在する。そのような社員を管理職に登用すると、本人はもちろん、部下も本来のパフォーマンスを発揮できなくなる可能性が高い。
と言って一般社員のままだと、せっかくの才能を評価されずに、やる気をなくしたり、退職したりしかねない。専門性を高く買い、それに見合った処遇をすることで、企業・本人双方がメリットを享受できる。

② ライン管理職から外れる社員を、管理職として処遇し続けることで、モチベーションの維持が図られる
管理職として大きな問題はないものの満足もできない。つまり、降格とまではいかないが、ライン管理職からはいったん外れてもらった方がよいというケースがある。このときのポジションとして有効ということだ。ただし、この後指摘するように、運用を誤るとデメリットと化す。

③ 若手の抜擢や高度技術者の中途採用・処遇が可能となり、組織の活性化を促進することができる
企業にとって有能な若手が育つというのは大切であり、喜ばしいことだ。伸びてきた社員には、より大きな役割を与えたくなるが、すでにポストが埋まっているという理由で登用できないのは、組織にとって重大な損失である。専門職があれば、管理職への登用が柔軟にできるので、組織の新陳代謝を進めやすくなる。

一方、主な問題点は次の3つである。

① スタッフとして高度の専門性を発揮してもらうという本来の趣旨を失い、ライン管理職を外された社員の“溜まり場”になってしまう

② 以前は専門性を有していたが、技術が陳腐化してしまって専門職と呼べない社員が残ってしまう

③ ①②により、期待される役割と実際の成果に乖離が生じ、人件費の高騰や社員(特に若手)のモラールの低下を招く

このような事態を避けるためには、以下の方策が考えられる。

① 専門職としての働きぶりの厳密にチェックする
専門職にふさわしい能力発揮や役割を果たしているかを審査し、努力や成果が見られない場合は降格(あるいは降職)する仕組みを設ける。そして、実際に該当者が出たときには降格(降職)させる。このチェックは、できれば社長をはじめとする役員が、人事評価等のデータを基に行うのがベストである。

② ライン管理職と専門職とで役職手当に差を設ける
原則として、専門職はライン管理職のスタッフの位置づけであるから、役職手当はライン管理職よりも低額にすべきという考え方である。したがって、ライン管理職から専門職に移った場合は、基本的に給与は下がることになるが、役職手当の変更によるものであれば社員も受け入れやすい。

専門職制度は、職能資格制度の下で降格が困難な日本の企業において、“元ライン管理者のプールの場”として使い勝手のよい制度であった。しかしながら、そのような古き良き時代の運用の仕方は難しくなってきている。

本来の趣旨どおりの運用をするには、基本的には、高度な技術が中核能力となる企業が利用すべきであり、適用対象も研究開発など真に専門性が求められる部門に限るべきである。安易に営業部門や管理部門の社員に適用するのは避けたほうがよい。どうしてもということであれば、上記のように専門性や成果を経営層が厳密にチェックする仕組みが必要だろう。

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