営業とは何ですか?――
こう聞かれたら、皆さんは何と答えるでしょうか。
「営業」という言葉をインターネットや辞書で調べてみると、次のような定義が掲載されています。
「営利の目的で同種の行為を反復継続すること」(コトバンク)
「利益を得る目的で継続的に事業を営むこと」(大辞泉)
「営利を目的とした事業をいとなむこと。営利を追求して同種の行為を反復継続する活動」(大辞林)
それぞれ言い回しの違いは若干ありますが、ほぼ同じような定義づけがされています。これらの定義を読んで異を唱える方は、そういらっしゃらないでしょう。
しかし、私の周囲のビジネスパーソンに同じ問いかけをしてみるとどうでしょう。その回答は、千差万別でした。
「営業は、物を売る行為のことです」
「営業は、お客様の課題を解決して対価を得ることです」
「営業は、会社の売上げを支える存在です」
「営業は、お客様の問題解決をする存在です」
それぞれ異なる角度から営業を捉えていて、各ビジネスパーソンの価値観や仕事観が反映されているようにも感じました。
また、営業という仕事の“価値の捉え方”に著しいばらつきがある、という観点でも興味深い回答だと感じました。
なんだかこのテーマだけでも営業研修ができそうですね。
私が思う「営業」については後述させていただきますが、個人的には、営業という仕事は極めて価値の高い仕事ではないかと考えています。営業職が元気になれば日本が元気になる、と本気で信じているほどです。
そう言いながらも、私が営業職について興味を持つようになったのは20代半ばを過ぎてからでした。きっかけは、新卒入社した株式会社ファンケルでのこと。当時の社長からの言葉が今でも忘れられません。
ある日、大勢の社員を前に社長が訓示を行う場面のことでした。その時の社長の講話内容は要約すると以下の様な内容だったと記憶しています。
「会社は常に“倒産”に向かって進んでいる。
未来永劫続く事業などない。
だからこそ私たちは新しいことに挑戦し続けなければならない。
そのためには、新しい情報に対する感度を高めていかなければならない。
これからのファンケルの従業員には、世の中の情報に対する敏感さを求める」
今となればとても良い話なのですが、この時の私は社長の金言を何となく聞いているだけでした。ましてや、その直後に“個人的な危機”が訪れるなどとは夢にも思っていませんでした。
社長の話の区切りがついた次の瞬間です。
大勢の中の一人だった私に社長が目を合わせ、強い口調で話しかけてきました。
「そこのキミ!! そう、体格のいいキミだ。名前は何というんだ?」
状況が呑み込めない私は、心臓が止まりそうになりながら答えます。
「はいっ! ……高橋です」
すると社長は言いました。
「そうか、高橋君か。キミは世の中の新しい情報に対してアンテナを立てているか?」
もはや、この状況で許される答えは1つだけです。
当時の私でも、そのくらいの状況判断はできます。
「はい!!」
どうかこれで終わってくれ、と願いながら私は答えました。
すると、私の願いもむなしく、社長はたたみかけるように問いかけてきます。
「そうか、じゃあ高橋君は具体的に何をやってるんだ?」
もう私は頭の中が真っ白です。
思わずこんなことを口走りました。
「はい! ……日経新聞を読んでいます!」
するとその後、社長はニヤッと笑っていいました。
「そうか、日経新聞か。
それはそれで良いことだから続けてくれればいい。
でもな、世の中の最新の情報は日経新聞の紙面にもテレビのニュースにも出てこないから覚えておくんだぞ」
ポカンとしている私を無視して、社長は続けます。
「我々は多くのお取引先に支えられている。
世の中の最新情報は取引先の優秀な営業担当者が持ってくるんだよ。
だから取引先とは共存共栄しなければならないんだ。
優秀な営業担当者を大切にしろよ」
当時の私にはその言葉の意味が半分も分かりませんでした。
しかし、その時の社長とのやり取りは今でも強烈に覚えており、営業職種に強い関心を持ったきっかけにもなった事件となりました。
今思えばあの時の言葉の中に“営業が目指すべき姿”が示唆されていた気がします。
ここまでの話を踏まえつつ、「営業とは何か」という問いに対する私なりの見解を記してみたいと思います。
営業担当者が自社の事業を支える存在であることは当然です。
そのうえで、ファンケルの社長が仰っていたように“新しい情報こそがお客様の新事業を創り上げる種”だとすれば、営業とは“お客様と一緒にお客様の事業を創り上げる存在だ”ということになります。
この考え方は、昨今わたしたちの業界で注目を集めている“インサイトセールス”と似ているように思います。
インサイトセールスは、お客様が抱えている目先の問題を解決するだけではなく、お客様のニーズを先回りして情報提供や提案をする営業スタイルです。
いかにお客様のビジネス環境の変化を先取りできるか。
そして、お客様の経営理念実現につながる情報提供ができるか。
こういった動きこそが、これからの時代に営業パーソンがしなければいけないことではないでしょうか。
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※この記事は『アルヴァスデザインHP メンバーズ・コラム』に掲載された内容を転載しています。