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人材育成会議のすすめ

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2017年05月05日

今回は、筆者が最近の人事制度構築の際に取り入れている「人材育成会議」について解説したい。

人材育成会議とは、人事評価の公平性を確保するとともに、社員の能力開発課題を明確化することで、人材を継続的に育成するための会議体である。

一般に、「人事評価委員会」などと称して、社長や役員、部長等の上級管理者が集まり、全社的な見地から評価の調整や最終決定の場を設けることがあるが、これをさらに発展させ、社員の能力開発に主眼を置いたもの考えればよいだろう。

その目的をあらためて整理すると次の4つが挙げられる。

① 次年度の能力開発課題を明確化・共有化することで、社員の継続的な育成を図る。
② 上司のスキルに左右されない育成システムを確立する。
③ 部門間の評価のばらつきを是正し、評価の公平性および納得性を高める。
④ 評価者の評価・育成スキルを向上させる。

①に関して、当会議は全社的に能力開発を推進するためのエンジンになるということである。「わが社は人材育成を大切にしている」と言いながら、実態は人事部門や上司に育成を任せきりの企業が目立つが、そうではなく、経営者が人材育成に主体的・具体的に関わっていくことを示せる。これにより、社員としても、よい意味でのプレッシャーを感じることができ、能力開発への意欲を高められる。

②は、人材育成を上司任せにすると、上司の意欲やスキルにより結果に大きな差が出てしまうリスクがあるため、その防止・低減機能を持たせるということだ。同時に、④にも関連するが、会議を通じて上司も能力開発課題の着眼点、設定の仕方、進め方など多様な意見を吸収し、人材育成スキルを向上させることができる。

次に実施の概要を説明しよう。

対象者(被評価者)は、全社員とするのがベストであるが、管理職のみ、一般社員のみという形で、自社に合った区分を設定するのもよい。

実施時期は、評価期間に合わせて設定する。つまり、評価が年1回なら1回、前期・後期に分かれているのなら年2回開催する。ただし、前後期の場合で、それぞれの開催が困難であれば年1回でもよい。

会議メンバーは、対象者にもよるが、社長、役員、部門長クラスおよび1次・2次評価者が基本となる。対象者が一般社員の場合は、担当役員、部門長クラスおよび1次・2次評価者というように適宜編成する。なお、1次・2次評価者は自身の部下に係る会議に参加する。
上記のメンバー以外に、意見を聴くことが有効と考えられる者や任意に参加したい者がいる場合は、出席できる仕組みを設けておくのもよいだろう。

会議の基本プロセスは次のとおりである。

① 1次評価者から評価内容、課題等を説明する。
② 2次評価者が補足説明する。
③ 不明点や疑問点など、質疑応答を行う。
④ 部門間の均衡、各評価者の評価特性、許容人件費などを踏まえ、全社的見地から最終評価を確定する。
⑤ 次期の目標や能力開発課題、行動課題、自己啓発課題等を確認する。

①の前に、「被評価者が自ら評価結果や今後の課題を説明する」という自己説明のプロセスを入れるケースもある。特に部長クラスなどには有効である。なお、会議に被評価者を出席させる場合は、今後の能力開発に前向きに取り組んでもらうために、本人を問い詰めたり、叱責したりしないよう留意したい。

また、スムースに進めるために、メンバーは会議前に対象者の評価結果を一覧しておきたい。この点は人事部門が周到に準備をしておくことだ。

会議後はフィードバック面談等を通じて、1次評価者などから被評価者に会議内容を伝達する。会議に被評価者自身が参加したのなら、このプロセスは省略して差し支えない。

人材育成会議は、評価の調整・決定に関する会議とは切り離して設置してもよいのだが、適正な能力開発は適正な評価が前提となることや、評価と能力開発の連動を意識すること、会議の時間確保の問題などから、評価会議と一体化させるものである。

人材育成会議の目的は最初に述べたとおりだが、より本質的な目的は、各人の成長に向けて全社が一体となることである。言葉を換えると、一人ひとりの社員が大切であることを全社員が共有することだ。これは、今後の企業の継続的な成長に重要なことである。人材育成会議はそのための基盤になると考えている。

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