今回は企業にとって降格の是非を考えてみたい。降格制度は必要かどうかということである。
降格とは、資格等級制度において下位の等級に下がることをいう。広義には、部長から課長になるなど、役職が下位に下がることもいうが、厳密にはこれは降職である。ここでは、等級の引き下げの意味で話を進めるが、降格と降職はセットになっているケースが多いので、降職をイメージしていただいても構わない。
企業が社員を降格させるケースには大きく2つある。1つは人事権行使として降格で、所属等級に期待される能力を満たしていないとか、役割を果たしていないとかの理由によるものだ。もう1つは、何らかの懲戒に該当する行為を行った場合の懲戒処分として降格であるが、今回テーマとするのは前者の人事権行使としての降格である。
企業が降格をどれくらい実施しているか統計データを見てみると、上場企業等を対象にした2015年の労務行政研究所の調査では、降格制度のある企業が59.8%で、うち75%が実際に降格者がいるとのことだ。また、降格制度の有無にかかわらず、実態として降格者がいる企業は58.2%である。
ただ、上記調査はどちらかといえば大企業で、中小企業では制度に基づかず、ワンマン社長の鶴の一声で降格というようなケースもよく見られる。
まあ、大まかな目安として、企業のうちの半分は降格を実際に行っているとみてよいと思う。
ところで、企業はなぜ降格を実施するのだろうか?
2005年の労務行政研究所の調査では、降格制度導入のねらいとして回答が多いのは、「資格・職務と成果のギャップの是正、公正な処遇の実現」が最多で、以下、「人事考課の公平性・納得性の向上」「従業員の意識改革、職責の自覚の醸成」と続く。
ひと言でいえば、仕事と報酬のかい離ということだろう。これはさまざまな問題を引き起こす。
たとえば、課長ポストからは外すが等級は下げない(したがって、給与は基本的に役職手当がなくなるだけ)という運用の仕方では、上位等級の滞留者が増えてしまって人件費増加が避けられない。
役割等級制度や職務等級制度を導入している場合は、「役割(職務)=等級」という原則に反する運用となり、制度の形骸化につながる。
もう1つ、やはり組織が成長していくには新陳代謝が不可欠であり、それを促す仕組みとして降格制度が必要という点もある。定年制や役職定年制だけでは、近年の環境変化のスピードについていけないのだ。
一方で、降格制度で最も問題となるのは、降格対象者のモチベーションである。降格制度を導入しようとすると、「本人のモチベーションが低下してしまうので、原則として降格は避けるべき」という反論が必ず起きる。
もっともな理屈なのだが、ここで見過ごしてはならないのは、他の社員のモチベーションである。明らかに管理職に求められる仕事をしていない社員が、ぬくぬくと居続けることが、どれだけ周囲に悪影響を与えるかも考えなければならない。その人のせいで昇格できないと、会社に見切りをつける優秀な若手社員がいるかもしれないのだ。
そう考えると、降格は企業にとって必要な仕組みといえるだろう。
もちろん経営者の思い付きで降格させたり、部長から一気に平社員に引き下げたりするような懲罰的なやり方はNGで、社員が納得できる合理性のある仕組み・ルールが求められる。
たとえば、人事評価で連続して低評価を受け、次回も低評価であれば降格対象となるとの警告を与えたうえで、上司が指導を行い、それでもダメな場合に降格させるといった仕組みである。
ある企業では、一定の評価基準を満たさなかった社員に対して、本人を含め、所属部長、人事部長、全役員との話合いの下で降格の決定をしている。その際、単に降格を通告するのではなく、今後の能力開発課題をともに考え、奮起を促すようにしている。社員を切り捨てるのではなく、これからも期待を続けるとのメッセージを全役員から発することで、納得感を高め、モチベーションの低下を防いでいる。
もう一つ大切なのは、敗者復活ができる仕組みである。大相撲では大関から陥落しても、次場所で10勝以上を挙げれば復帰できるようになっているが、例に挙げた企業でも、降格後に一定の人事評価を得れば再昇格できる仕組みを設けている。
降格というと、どうしても負のイメージがあるが、「役割交替」として社員の理解と納得を得られるようになるのがベストである。適材適所のポジションに異動するというイメージだ。そのような流動性のある組織ができれば、人材競争力を高められるはずだ。困難な理想には違いないが、そこに近づく努力は非常に重要と考える。