2014年04月11日
私が就職活動を行っていた1980代の中頃、学生アンケートによる人気ランキングの上位にはコンピューター・メーカーがひしめいていた。理系のアンケート結果では上位5位を独占していたほどだ。ところが今はどうだろうか。2013年2月27日の日経新聞に掲載された人気企業ランキングでは、はじめて40位にNTTデータが顔を出す。売上で国内トップの富士通は100位以内ギリギリの95位。かつて上位の常連であった日本IBMやNECは100位圏外である。1980年代に一世を風靡したIT業界の人気は、この30年ほどで地に落ちてしまった。
学生人気だけではない。『IT人材白書2013』では、2011年度の実績としてIT企業全体における離職率10%以上の企業が10.2%となっている。これは言い換えると、1年間に社員の1割が退職するという企業が、IT業界の1割以上を占めるということだ。
『Wikipedia』では“IT業界離れ”という言葉が掲載されているのをご存じだろうか? ITの”3K”をご存知の方は多いと思うが、そこにはITの”7K”たるものが記載されている。きつい、帰れない、給料が安い、規則が厳しい、休暇がとれない、化粧が乗らない、結婚できない。詳しい出どころまでは存じ上げていないが、もう5年以上も前からこんなことが言われているらしい。今のIT業界には長時間働いても給料が安いというイメージが定着してしまっているようだ。これには、労働基準法の遵守に尽力されているIT業界の読者のみなさんは納得がいかないだろう。ここ数十年の社会の発展や企業の成長は、ITを抜きにしては成し得なかったことを考えると私も非常にさびしい思いがする。しかしながら冷静になって考えると、これは労働時間管理や給与体系に関して、改善の余地が多くあるというメッセージとも受け取れる。
前述の『IT人材白書2013』でIT技術者2,900人に行ったアンケートでは、休暇の取りやすさ、労働時間に対して不満があるのはそれぞれ全体の38%程度にとどまっているが、給与に対する不満は過半数の53.4%となっている。これは仕事にやりがいさえ感じていれば、多少の長時間労働は覚悟の上だということだろうか? 私の知りうる限り、ほとんどのIT企業は残業手当をきっちり払っている。それでも給与に対する不満が多いのは、そもそも時間に対して支払われていること自体が不満なのではないか?当サイトにご協力いただいて実施した管理職向けのアンケートでは、48%の方が賃金は労働時間より成果を優先して支払われるべきとご回答いただいているが、社員の立場から見るとまだまだ納得がいかないということなのだろう。
そもそも日本企業では、成果主義という考え方があまり受け入れられていない。
年功序列型人事評価が深く根付いており、個人の業績をあまり重んじる文化にない。これは戦後の高度成長期を支えた昭和一桁の世代や、バブルの中核を担った団塊の世代の方々が深い愛社精神をもって会社を引っ張って来たからに他ならない。これらの世代の方々がリタイヤを迎え、新人類と呼ばれる世代が中核をなす会社の雰囲気は、かなり様変わりしている。一昔前ならば皆が楽しみにしていた社員旅行は、「海外は行きたくない」、「できるだけ短めに」、「旅行に行くくらいなら現金で欲しい」などと言い出す若手社員が多くを占める。世代交代とともに愛社精神や会社の一体感は薄れ、より個人の評価を強く意識する傾向が強くなっている。これらのメッセージは、単に「会社のため、みんなのために頑張ろう!」と言うだけではなく、ある程度は会社の業績と切り離して、個人の業績に応じた報酬を取り入れていかなければ、優秀な社員を引きとめることは困難であることを物語っている。
だからと言って安易に成果主義に走っては、失敗した2000年初期に逆戻りである。報酬は業績に応じて適正に還元しつつ、人事評価は業績以外にもあらゆる角度から公平・公正に行われるべきである。単年度の業績は絶対評価、企業の時代を担う社員の人事評価は相対評価で行うということである。外資系のインセンティブと日本企業の年功序列型人事のいいところをうまくバランスをとることで、企業内の多くの人材の活性化が可能となる。年功序列型人事では管理職のポストに在りつけなければ、給料は頭打ちになり窓際に追いやられる。しかし、インセンティブを取り入れることで、管理職になれないベテラン社員も成果を上げれば管理職並みの報酬を手にすることができるので、現場も活性化するということだ。
もちろん働き方も変えていかなければならない。いままでのような働いた時間だけ時間外手当を支給するようなやり方では成り立たない。長時間働くことよりも、短時間でより成果を上げる働き方にシフトしていく必要があるということだ。そこで私はIT業界を中心に、裁量労働制とインセンティブ(成果給)の導入をお薦めしている。別々のアプローチではハードルの高い裁量労働制とインセンティブも、同時に導入することで多くの相乗効果を生み出し、導入のハードルを数段下がるのである。
次回は裁量労働制の導入状況についてお伝えしたい。
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