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持続する組織は「未来投資」を続けている

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2014年07月30日

今回は持続する組織に共通する「育成」についてお話します。会社によって時期の差はあるものの4 月に入社する内定者の教育やフォローまたは新年度からの教育準備を進めている頃と思います。

 

◆「育成」こそが企業の成長をもたらす生命線に

まず逆説的に「育成」は必要なのか?という点について考えたいと思います。

現在,多くの企業の中核を担っているのは,団塊から団塊ジュニアといわれる60~30代です。この世代は自身が若い頃にあまり教育を受けていないといわれています。理由は日本経済の成長や異常景気(バブル)と共に企業が引っ張られるように成長した時代だったからです。誤解を恐れずに言えば,さほど育成や教育を受けなくとも業績が伸びた時代だったのです。

しかし,今は違います。消費者ニーズの多様化,少量多品種などが進み, 1 つのヒット商品で長く業績を維持できる時代ではなくなりました。また,人口減少や物余りによって内需が縮小するなかでグローバル競争にさらされています。このような状況下で「昔は良かった……」「今の若い者は……」とボヤいていても何も始まりません。今や“一緒に働く仲間をどれだけ成長させられるか?”が企業の生命線といっても過言ではないでしょう。

 

「未来投資」を削減する企業に明日はない

ただ実態は,業績が低迷すると教育費を含めた「5 K」といわれる「未来投資」が削減されがちです。5 Kとは,①研究開発費,②厚生費,③給与(人件費),④(人財)確保費,そして⑤教育費の5 項目の頭文字Kを取ったものです(図表)。

これらは,予算を投下してもすぐには企業利益としてリターンされない項目です。だからこそ不景気を理由に削減の矢面に立たされる項目でもあります。ですが「持続可能な組織」では,業績や景気のいかんを問わず,これら未来への投資を削減することは一切しません! それどころか閑散期ともなれば忙しかったときにはできなかった教育をはじめ,優秀な人財の確保,次の商品開発や市場調査,慰労や働きやすい環境の整備などを怠ることなく,それらのために喜んで投資をしています。

対照的なのは業績が悪いからといって給与の削減やリストラをする企業でしょう。補足すると給与には2 種類あり,現在進行形で企業へ利益をもたらしている社員への給与と,今は半人前でも将来は自社を牽引してくれる社員への給与です。ここでいう未来投資とは,後者への給与のことであり,削減やリストラの対象になるのも後者です。一緒に働く仲間は必ず見ていますから,一時的に利益をもたらさない社員の給与を削減したり,リストラしたりすれば,「明日は我が身か……」と戦々恐々して,明るい未来はないでしょう。

 

持続する組織の人事が自負する共通点とは?

先に紹介した5 つの「未来投資」のうち,研究開発費を除く4 項目は多くの場合,人事部門が管轄しています。違う言い方をするならば,人事部門はこの4 項目を推進するための部門なのです。そして驚くことに持続する組織の人事の方は,この4 項目に触れるとき,間違っても「費用」や「経費」とは言いません。共通して「投資」という表現を使います。

私も幾度となく稟議や社内会議の場に立ち会いましたが,経費削減のあおりを受け「未来投資」の縮小が議論されると,毅然とした態度で投資継続の必要性を訴えている姿勢も共通しています。なぜなら持続する組織の人事は,自分たちが自社の10年先・20年先・30年先の盛衰を握っていると自負しているからです。

 

「教育費」の指標をどこに求めるか?

では,どれだけ育成や教育のために投資をしたらいいのでしょうか?

ここでは,代表的な3 つの考え方「1 人当たり年間教育金額」「年間総労働時間に対する教育時間割合」「総売上に対する全従業員の教育金額割合」をご紹介します。

まず各指標の最低ラインとしては,「1 人当たり年間教育金額」であれば最低10万円,「年間総労働時間に対する教育時間割合」であれば0.3%,「総売上に対する全従業員の教育金額割合」であれば1 %です。

旧来の「見て盗め」といった乱暴なOJTは「教育」とは言えません。そして今ご紹介した3 つの指標で最低ラインを下回っている状況では,成長機会も低いでしょうし,実態の伴わない形骸化された教育が疑われます。冷静に考えれば1 年間にたった1 回( 1 日)の教育を実施することでこれらの最低ラインはすべて超えます。

誤解のないよう言い添えると,これらすべてをクリアしてくださいという意味ではなく,自社が教育を行う際のモノサシをご紹介しているに過ぎませんので,これに限らず自社に合わせた指標で教育を実施する参考にしてください。

 

積極的な未来投資を続ける2社の事例から

ここで持続する組織がどれだけ積極的に教育へ投資しているかをご紹介したいと思います。

神奈川県に本社を置き,鉄道や防災など社会的ライフラインの監視制御システム開発や情報システムを手掛ける設立21年のA社では,社員60名に対して1 人当たり年間80万円の研修を行い,少ない社員でも年間最低150時間(月13時間計算)は教育の時間に投資をしています。しかも総売上に対する全従業員の教育金額割合は7.5%以上になります。

実施内容を少しだけご紹介すると,業務に直結した技術的な教育はもちろん,仕事力や人間力の向上など多岐にわたっています。さらに,ランチタイムやティータイムには社員が自主的に集まり近況や情報を共有したり,忘年会,社員旅行(年2 回)など厚生費にも積極的に投資をしています。

また都内に本社を置き,印刷業を中心に企画・編集・制作を行う創業66年のB社では社員95名に対して行う年間の教育回数が全部で204回を数えます。昨年入社した3 名に対しては半年間かけてそれぞれに433時間の教育を行い,全社員の年間教育時間も平均101時間投資していました。

こちらの会社も直接的な業務以外の教育を行い,しかもキャリアパスアンケートによって個人の成長支援を真剣に考え最大化する取り組みもしていました。

ご想像の通り,この2社の業績は好調であり,好調であるから投資をしているのではなく,投資をしたから好調であることを強調しておきたいと思います。そして共通して,この2 社を支える要となっているのが人事部門であることも加えておきます。

ぜひ,人事の皆さまには教育を未来への投資として,自社を導いていってもらいたいと思います。

 

※本記事は2013年4月時点の記事の再掲載となります。

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