地図を片手にリクルートスーツ姿で就職活動をしている若者を多く見かけるこの季節,皆様の会社の取り組みはいかがでしょうか?「この春までが勝負!」とばかりに血眼になっている担当者も少なくないと思います。そこで,今回は「持続する組織人事の共通点」のうち“人財確保”についてお話します。
人事が担う仕事はすべてが重要ですが,そのなかでも持続する組織の人事が一番力を入れて取り組んでいるのが“人財確保”いわゆる採用活動です。
中小企業にとって“人財確保”が死活問題であることは語るまでもありません。しかし,“人財確保”が重要であることを分かっていながら,当の人事(採用)担当者が大変消極的だったりします。「なぜ採用しないのですか?」と聞けば,「うちのような中小企業へ入社したい人なんていませんよ」「募集しても人が集まらない」「優秀な人は大手へ行ってしまう」と口を揃え,半ば諦めている方もいます。果たして本当にそうでしょうか?
1969年(昭和44年)から実施されている新入社員の「働くことの意識」調査の最新データが発表されました(図表)。ご覧の通り平成23年度の新入社員が会社を選んだ理由は,「自分の能力,個性が活かせるから」(36.8%)と「仕事が面白いから」(26.8%)が群を抜いています。しかも「自分の能力,個性が活かせるから」という選択理由は年々上がり,今回の結果では過去43回実施したなかで一番高いポイントを示しました。
逆に「一流企業だから」という理由は,2.6%に留まりました。昨今の景況感や雇用不安によって公務員や大手指向が高まっていることは否めません。ですが,この調査結果を裏付ける出来事として私自身が2011年入社に向けて活動していた就活生への講話やセミナーで数百名と接してきた実感値でも,企業規模の大小を問う学生は多くいませんでした。
都内でモバイル広告を手がけているA社には,入社希望の学生が年間4 万人以上もエントリーします。この会社の社員数はわずか50名ですから驚くほかありません。また,横浜市にあるシステム構築を行っているB社は社員数60名ですが,新入社員の大半が東大や東工大の卒業生です。こういった大手企業も羨むような“人財確保”に成功している中小企業は全国にあります。
少なくともこのA社・B社は,学生目線でいうところの「自分の能力,個性が活かせるから」と「仕事が面白いから」を満たしている会社であることは間違いありません。そして中小企業だから人財確保ができないというのは言い訳に過ぎないことを教えてくれます。
ここで持続する組織が“人財確保”に成功している7 つの共通項目を紹介します。
①「人財確保を人事の最重要事項と考えている」
その分かりやすい現象は採用の専任者がいるかいないかです。もしくは兼任だったとしても採用担当者がいることです。「社員全員が採用担当者です」という会社もありました。
②「不況・好況に関係なく毎年採用を行っている」
不況になると定期採用を控えて,好況になると大量採用を行う会社は少なくありませんが,これは人を労力でしか見ていない証拠でしょう。ある不況知らずの会社の経営者は「不況のときに採用を止めるから会社が良くならないし,いざ好況になってから採用をしていたのでは世の中の流れについていけない」と語っていました。
③「中途採用ではなく新卒採用を重視している」
即戦力という意味では中途採用は無視できませんが,驚くことに持続して成長する組織は新卒採用を重視しています。先のA社は中途採用を行っていませんし,B社も採用のメインは新卒です。
④「採用費をかけている」
採用にかかる金額を計る指標はいくつかあります。例えば1 名当たりの採用費や地域別・専攻科目別などです。しかし,意思を持って採用に取り組んでいる企業の姿勢が分かる指標は「売上比率の割合」です。年間売上の0.2%以上を採用費として投資している企業は本気で“人財確保”に取り組んでいる証拠といえます。
⑤「会社のリソースを最大限に活かしている」
例えば,会社説明会で他部署に協力してもらうこともありえます。中小企業の魅力を「人」と考えるある会社では,全社員に会ってもらい企業理解と併せて一緒に働く仲間の魅力を伝えています。裏を返せば全社員が面接官ということなのです。
⑥「採用担当者が経営者の映し鏡になっている」
そもそも経営者がどれだけ熱心に採用に関わるかは重要なことです。そして経営者が“人財確保”に熱心であることを前提に考えた場合,採用担当者は外部に対しては会社の顔となり,経営者の映し鏡である必要があります。創業時の想い,一緒に働きたい人物像,会社のビジョン,理念,風土,文化など…まるでそこで話をしているのが経営者であるが如く同化することが,“人財確保”の質に関わる大切なポイントです。
⑦「積極的な情報発信をしている」
ひと昔前と違い,近年では企業情報や採用情報を発信する手段が増えました。一見,情報過多に思われる現代において様々な情報発信を行う理由は,情報をキャッチする求職者の側が多様化していることにあります。時間・予算・スタッフの人数の限界もあるでしょうが,“人財確保”に向けた積極的な取り組みが有効です。
最後に持続する組織の人事(採用)担当者とお話をしていて感じた印象があります。それは「目の前にいる人を見ている」ということです。表現が難しいのですが,国籍や性別や様々なバックボーンに関係なく,目の前にいる1 人の人間を尊重した上で採用に臨んでいるのです。例えば,持続する組織の人事の方は,名刺の肩書きや本社所在地を気にしません。持続する組織の人事の方は「門田さんの苗字って珍しいですね」とか「どうして今の仕事をされているんですか?」といった会話が多いのが特徴です。実はこの部分が根っ子の共通点かもしれません。皆様はいくつの共通項が当てはまりましたか。
※本記事は2013年2月時点の記事の再掲載となります。