マーサー ジャパン株式会社 年金・財務リスクコンサルティング 川口 知宏
“若者はなぜ3年で辞めるのか?” 企業内の年功序列とその根底にある価値観の弊害を滔々と語る2006年出版の同書*は、そのタイトル自体が企業内部の人々の疑問や苦悩を代弁していたからであろうか、当時各所で話題を呼んだ。最近の若者は~という枕詞は、まだ20代の若い身としては哀しい哉、洋の東西を問わず今も昔も健在である。
*「若者はなぜ3年で辞めるのか」 城繁幸 著 光文社新書
日本企業におけるダイバーシティへの問題意識は、その一般的な議論の詳細および具体的な事例や方策の説明は弊社共著の書籍**に譲るが、性別や国籍をその軸とする場合が多い。だが、外的な属性だけでなく、内的な特性への関心は十分だろうか。同書では「オピニオン・ダイバーシティ」と称しているが、個性を具体的に発現させることへの許容度や積極性こそが肝心である。
** 「個を活かすダイバーシティ戦略」 マーサー ジャパン with C-Suite Club 著 ファーストプレス
例えば、あんな仕事をやらせろとかこんな制度を作れとか、突拍子も無いと感じる意見でも、それを口にした当人にとっては大きな関心事であろう。出る杭にも各々の意志や考えがあるわけで、頭ごなしに打ちつければ失望し、組織を去るかもしれないし、彼もしくは彼女を目指したであろう優秀な後輩をも失いかねない。企業とその事業が適切に運営されることが大前提ではあるが、新しいアイデアがしばしば既存の枠の外から生まれることは歴史が証明済みだ。目の前の一見おかしな若者も、もしかしたらその一例に化ける存在かもしれない。
“新入社員教育は、新入社員の入社ごとに、古参社員が受けるべきである” 城山三郎氏の著書***の一節だが、本当に新入社員教育を受けるかどうかはさておき、新入社員を受け入れるための真摯な準備を既存社員は怠ってはならない、という意味だと私は理解している。年齢も経験も違うのだから、同じ企業に属するというだけで何もせずに分かり合えると期待するのは、土台無理な話である。
*** 「猛烈社員を排す」 城山三郎 著 文藝春秋
馬鹿げた提言だと感じられる方も少なからずおられると思うが、こうした姿勢の違いに、私が学生のときに感じた相対する社員の方々への尊敬や失望の念の一因があった気がしてならない。それに、ご自身のそれまでの常識の外にあった歩み寄りが、職場の若者だけに限らず、異質な相手を理解するのに有効であったご経験はないだろうか。
ダイバーシティ自体は真新しい概念ではないが、英語の必要性と似ていて、日本人にとっては、その重要性を分かってはいても変化を起こしづらい苦手分野のようである。文化的、社会的な要因も大いにあるとは思うが、それはそれとして必要な企業そして個人の努力は果たされなければならない。ちなみに、先に引用した文章は1980年代に書かれたものである。氏の言及が今も示唆に富むものだとしたら、その先見の明が優れているのか、問題の根が深いのか、あるいは・・。
さて、私の場合はどうかと言うと、就職活動の中で縁あって弊社に拾われ、礼を失しないよう心がけてはいるが、思ったことは率直に言わせてもらえていると感じる。メンバーの経歴や専門性、性格は様々で、ロールモデルの選択には事欠かない。先のことは正直よく分からないが、3年で辞めなければどうなれるのか、当初の問いも氷解するような前向きな展望も持てているので、3年の壁は何とか越えられそうである。
と、少々手前味噌のきらいはあったが、社内向けにもしっかり点数を稼げた所で、好き勝手なことを書きなぐってきた筆を置かせて頂きたい。社外の先達に対しても、おそらく礼を失してはいないはずだと言い聞かせながら・・。
※本記事は2012年9月時点の記事の再掲載となります。
マーサーにおいて国内外企業の退職給付債務計算や退職給付制度改革、M&Aデュー・デリジェンスのプロジェクト等に参画。また、健康保険組合やストックオプションに係るコンサルティングでの分析も担当。