※本コラムは株式会社リクルートキャリアが外部有識者に依頼し、執筆いただき、掲載しております。
≪コラムニスト プロフィール≫
小宮 健実(こみや・たけみ)1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。
今回は、ちょっと変わった切り口で、エントリーシートの設計について考えてみたいと思います。
考えてみたいのはエントリーシートを書かせる際の、「文字数の設定」 についてです。
エントリーシートの文字数については、250字や800字など様々です。
もちろん、そこに込められる意図も様々だと思います。
そのような中、今回は最も一般的と思われる 「400字」 という文字数に焦点を当てて考察をしたいと思います。
原稿用紙1枚、多くの学生が練習する文字数といってよいでしょう。 ?
400字という字数を考察することにより、エントリーシートで応募者の何が分かるのか、
何を見なくてはいけないのか、理解を深めていただければと思います。
では早速、400字のエントリーシートを一緒に評価してみましょう。
まず、「学生時代にがんばったこと」 というテーマを課したと想定して、こちらのエントリーシートを読んでみてください。
私はディベートサークルの幹事長を務めています。 時事問題について情報を持ち寄り、
ディベートをすることが主な活動ですが、社会人の方を招いた講演会や、テーマを決めて読書会も行います。
社会人の方と実際に接することも多いので、社会人的なマナーやルールを
日頃から自分達で学び実践することも心がけています。
昨年の文化祭では、○○会社社長の○○さんの講演会を行いました。先輩の資料をもとに準備を進めたのですが、
実際やってみると難しく、開催できるか最後まで不安でした。
会場もなかなか決まらずに苦労しましたが、どうにか実現にこぎつけ、
文化祭当日は1000人以上の入場者がありました。これは文化祭の講演会では一番盛況でした。
アンケートでもとても高い満足度を得ることができ、○○さんのブログでも紹介されました。
この経験で学んだことは、最後まで意志を貫くという事です。
仲間と協力して最後まで頑張った結果が成功につながったと思います。 (400文字)
いかがでしょうか?
「結構大きなことを行って自社にとって望ましいようにも感じるが、何かが物足りない」
そのように感じた方が多いのではないでしょうか。
もっとも、読み易く書けてはいるので、合格になることもあるでしょう。
それでは、このエントリーシートの物足りなさがどこから来るのか、考察をしてみたいと思います。
まずは、1文ずつに分けてみましょう。
このエントリーシートは、10の文で構成されています。
400字の文章は大概8〜12程度の文で構成されているものですし、1文65文字とやや長めな文もありますが、
おおむね平均的な構成だといえます。
では、これら10の文がそれぞれ何を説明しているのか、さらに詳しく見てみましょう。
こうしてみると、物足りなさの理由は明らかです。
このエントリーシートは、「作者が個人として結局何をしたのか」
ということについての情報提供がなされていないのです。
実に10の文のうち4つ、400文字のうち180文字までを、サークルの説明に費やしています。
5番目の文で、少し準備が大変だったことを述べていますが、次の6、7、8番目の文では
もうイベントの成功の話になり、まとめになってしまっています。
「自らが何をしたのか」 が分からないわけですから、自社にとって望ましい人材かどうか
見極めるのはもちろん難しいということになります。
では、本来のバランスはどのようにあるべきなのでしょうか。
エントリーシートには、必ずストーリー性があります。
場面や状況の説明があり、そこで何かがなされ (成し遂げられ)、その結果や、学んだことなどが
述べられるというパターンがその代表です。
これを400字で表現しようとした場合、10前後の文により構成することになりますが、典型的な雛形はこのような感じです。
上記の雛形の構造を、文の役割ごとに整理すると以下のようになります。
●背景説明
●行動事実
●結論主張
ここで実は、「背景説明」、「行動事実」、「結論主張」 のバランスがとても重要になってきます。
特に 「行動事実」 は、結論をもたらす論証の役割を果たしており、
ここがしっかりと語られていないと、読み手が 「結論主張」 に飛躍を感じることになるのです。
例えば、「主張結論」 として、「私は粘り強い性格です」 とか、
「私はこの経験により、課題発見力を得ることができました」 などと述べられているようなエントリーシートで、
「行動事実」 が脆弱だと、 「この程度でどうして粘り強いといえるの?」
「この程度でどうして課題発見力が身についたといえるの?」 という突っ込みを入れたくなるわけです。
このようなことは、多くの方がご経験されているのではないでしょうか。
最近の学生は当たり前のようにエントリーシート対応をするようになっていますが、
特にこの点は、最も学生の対応スキルが表面化してくるポイントだといえます。
400字の場合には、文の数は大体10前後、単純に割り振っても、
「背景説明」、「行動事実」、「結論主張」 にそれぞれ3文ずつあてがうことができます。
つまり、文字数ゆえに 「文の数」 にゆとりがあるので、あまり意識していなくても、
ある程度きちんと行動していれば、それなりに 「行動事実」 が語られる、
「書き手に優しい」 文字数だといえるのです。
では、これが300字になったらどうでしょうか。
300字にしたところで1文の文字数が少なくなるわけではないので、一般的には、400字の場合より
2〜4文少なくなると考えられます。つまり、6〜9文程度です。
その場合、400字の時と比較して 「背景」 の部分を削ると、自分の状況がうまく伝わらなくなってしまい、
行ったことの 「大変さ」 が伝わりづらくなります。
また、「結論主張」 の部分は、学生としては最も自己PRしている部分なので削ることには抵抗があります。
そこで何を削るかというと、400字の時に「しかし」 という接続詞を使ったエピソードの展開や、
「例えば」 という接続詞を使って具体的に実施したことの例示をした部分が削られることが一般的です。
つまり300字では、「行動事実」 の部分が脆弱になってしまうのです。
量的に1文程度しか 「行動事実」 説明に割り当てられない場合も多く、表現の仕方も、具体的な説明ではなく、
「あきらめずに頑張った」、「仲間の期待に応えたい一心で最後まで続けた」
などと抽象的なものになる傾向があります。
抽象的な表現になるということは、それだけ読み手が誤魔化されやすくなるともいえます。
実際には行っていないことであっても、耳触りのよい表現を知っていれば書けてしまうので、
それによって読み手が騙されるという具合です。
このように考えてみると、300字よりも400字のエントリーシートのほうが、応募者がバランスよく
「行動事実」 を含めて主張を展開できるはずですし、採用担当者も、
応募者を適切に見極めやすいと考えることができます。
もちろん、例えば学業のテーマに限定するなど設問に工夫を行えば、「行動事実」の充実は
そのままに文字数を少なくするなどのコントロールも可能でしょう。
さて、今回はエントリーシートの文字数に焦点を当てて考察をしてきました。
是非、今回のコラムをきっかけに、自社のエントリーシートの設計を振り返っていただければと思います。