面接の質を高めるために人事担当者が取り組むべきこととは? ダメな面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウをお伝えする好評連載「ダメ面接官の10の習慣」。第8回のテーマは「ダメ面接官は人と会うことを面倒くさがる」です。
「いかに効率良く求める人材を探し出すか」は、採用に携わるものにとって永遠の課題です。「理想の採用とは、1人の募集枠に対して、求めている人材要件にぴったり合致する1人が応募してきてくれて、そのまま入社にいたるものだ」ともいわれます。
近年は、このような優秀な人材の一本釣りも可能とする、新たな採用手法として、「ダイレクト・リクルーティング」が注目を集めています。ビズリーチのような転職データベースやLinkedIn、Facebookなどが提供しているSNSを活用し、そこで見つけた優秀な人材に企業側からスカウトを送信し、返信が来て、面接し、採用へいたるという流れで採用活動を行います。特に転職データベース分野においては2015年11月に「DODA」や「an」を運営する株式会社インテリジェンスも同社が保有する転職データベースから人材を検索、スカウトできるサービスを開始しました。このように「ダイレクト・リクルーティング」は、候補者からの求人応募を“待つ”のではなく、企業側があらゆる採用手法を用いて優秀な人材へ積極的にアプローチする“攻め”の採用手法といわれています。
採用手法は多様化しているとはいえ、採用は確率論ですから、採用における各プロセスの「確率」を高める努力はどんな採用手法でも重要であり、各プロセスで扱う「量」については「多ければ多い方がよい」という考えは変わりません。転職データベース上で多くのレジュメを見ることで、良い候補者を多く発見できる確率は高まりますし、スカウトメールもより多く送ることで、実際に候補者と会う回数が増え、最終的に良い人材に多く入社してもらえる確率が高まるわけです。
これを採用においてはよく「裾野広ければ、山高し」といいます。できるだけ少ない人数と会うことが「効率採用」ではありません。確率を高める努力をした結果、それ以前よりも相対的に少ない人数で良い人を採用できるようになる、というだけのことなのです。
このあたりをはき違えている、もしくは確信犯的にできるだけ人と会わないようにしようと考えている人事は、会社の採用力を下げてしまうダメな面接官(採用担当者)だと私は思います。
どんなところが問題かというと、まず採用活動を「採用最適」(自社の採用にとって何が一番良いか)ではなく、「採用“担当者”最適」で考えてしまっていることです。もっといえば、「自分がいかにラクになるか」で採用方法を検討しているのです。確かに、面接は大変気苦労の多い疲れる業務です。応募者のさまざまな側面に目を光らせて観察する必要があり、かなりの集中力と体力を要します。ですから、これを本能的に避けてしまうのもわからないでもありません。しかし、それが結果的に会社の採用力を下げるのです。
面接数を少なくするということは、たくさんの選考基準を持ち、それをすべて満たす人のみを通すということです。しかし、「効率化」の名の下で書類選考や適性検査の合格基準を厳しくする人は要注意です。誰が見ても良い経歴の持ち主のみを面接に上げていると、そういう方は引く手あまたで辞退率も高いためなかなか採用できず、結局は「経歴は立派だが、中身はそれほどでもない」という応募者を採用することが多いからです。
本来は、他社が見逃しそうな「原石」を発見することこそが採用担当者の介在価値であると思います。そのためには、一見合格基準には満たないような候補者でも可能性があればできるだけ会うことが重要ではないでしょうか。
きわめて労力のいる面接を多数こなすにはどうすればよいでしょうか。「人事は人の一生を左右することもある、大変重要な仕事なのだから、使命感や責任感でやりましょう!」と言いたいところですが、人事も当然ながら人間。根性や忍耐だけでは長続きはしません。
ですから、「面接を楽しめるようになる」というのが、面接をたくさんこなせる採用担当者になる一番の近道だと思います。つらいと思うから会いたくなくなる。しかし、楽しいことであれば、多少大変だとしても、むしろ率先してやりたくなるものです。
面接を楽しめない採用担当者の最大の特徴は、「人を見るときの解像度が粗いこと」です。本来は無限のパターンがあるはずの人間を、まるで4パターンしかない血液型占いのように決まったパーソナリティーに当てはめてしまう。このような固定的な人の見方をしていると、「なんだか同じような人ばかり来て、同じような話をするなあ」「面接はなんて退屈な作業なんだ」という感情が湧いてきて、できるだけ人と会うことを避けるようになっていくのです。
採用担当者は、人を見るフレームワーク(枠組み)を増やすことが大事です。フレームワークは言い換えると、「人を表現する言葉を増やす」ということです。「青」という言葉しか知らない人は、藍色も群青色もライトブルーもスカイブルーも全部同じに表現するしかありません。人についても同じことで「コミュニケーション能力が高い」「地頭OK」といった表現しか使えないようだと、個々人の持つ細やかな特徴について認識することはできません。「はじめに言葉ありき」「言葉こそが世界」です。基本的には、言葉にできることが認識できる、意識できることなのです。
人を表現する言葉を増やすには、性格心理学を学ぶなどさまざまな適性検査を受検してその概念を学んだり、伝記やノンフィクションなどの人物伝を読んでみたり(特に近現代史が生々しくリアリティーがあっておすすめです)することに加え、日々の面接業務において、他の採用担当者に同席して、同じ応募者についてどう表現するかを聞いて学ぶことなどが大切だと思います。
人を見る目が肥えてくれば(解像度が高くなれば)、面接の面白さは一変するはずです。毎回が特徴あるパーソナリティーを備えた人との一期一会の場となります。そのように捉えられれば、面接を面倒くさがってなるべく会いたくないなどとは思わなくなるのではないでしょうか。
著者プロフィール: 曽和 利光 氏
リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも異なる3社の人事を経験。現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングを請け負う株式会社人材研究所の代表を務める。
編集:高梨茂(HRレビュー編集部)