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「説明会で話す現場社員が知っておくべきこと」―行き当たりばったりでは効果半減! 思いがけないリスクも―

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2016年03月25日

※本コラムは株式会社リクルートキャリアが外部有識者に依頼・執筆いただき、掲載しております。

小宮 健実

≪コラムニスト プロフィール≫
小宮 健実 (こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。
人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの
講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。
2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、
企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。
2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、
企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを
実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

◆イントロダクション

 

皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

採用担当者の皆さんは、応募者と説明会などで直接、学生と接触する機会が
増えていることと思います。
応募者も机上の企業研究だけでは知ることができない社風や
社員の様子を知るための活動、すなわち企業セミナーへの参加がピークを迎えます。
この時期の企業、応募者双方の活動が、実際に選考の場で再会することになるか否か
に通じているといえます。

今回お話ししようと思うのは、そのような直接接触の場における、
現場社員の対応についてです。

現場社員と書いているのは、具体的な仕事や職場環境の話などをしたり、
質疑応答に対応したりしてもらうために説明会に参加してもらった、人事ではない
現場の社員のことを指しています。

私が採用担当者をしていたときにも、現場で働く社員に、説明会に参加してもらいました。
私は現場社員への依頼として、「現場の様子を自由に話していただいて構いませんよ」
と言っていました。
そのスタンス自体は今も変える必要はないと思っていますが、
昨今の採用活動においては、現場社員の担う役割は私のころよりも明確化し、
戦略的で重要なものになっていると感じます。
また学生のネットリテラシーの高まりを受け、コンプライアンスの観点などからも
注意しておかなくてはいけないことが増えています。

そこで、説明会などで応募者に話をすることを任された現場社員が
知っておくべき基礎知識について、整理してお話ししたいと思います。
リクルーター研修などでお話ししている内容の一部ですが、
現場社員の方へのガイドラインの補足としてお役に立てればと思います。

◆説明会において現場社員が伝えるべきこと

まず一番大切なことですが、現場社員が説明会において応募者に伝えるべきこととはなんでしょうか。

それは疑いようもなく、一人ひとりが持つ個別具体的な仕事体験です。

仕事体験を語るコツは、自らの伝えたい仕事の場面をありありと思い浮かべ、
何が大事な要因であったかを事前に整理し、とことん具体的に話をすることです。
大事な要因には、仕事の目的や期待、責任、お客さま、仲間、仕事環境のよさ、
会社としての強みなどがなり得ると思います。

応募者は昨年からの就活を通じて、抽象的なPR表現に慣れています。
既に飽きているといってもいいかもしれません。
そのようなところに、自分の体験を一言で綺麗な言葉にまとめて伝えても、
共感したり、魅力を感じたりすることは期待できません。
では応募者の心に響くのは何かというと、極めて個別具体的でリアルな仕事体験、
つまり一人ひとりのストーリー(物語)なのです。

ストーリー(物語)で語るというのは、共感を得る際にとても大切なことです。

例えば、昔話というのは物語ですが、それを箇条書きにして
大事な要点を説明調で話していたとしたら、人の共感を呼ぶことはできず、
語り継がれることもなかったでしょう。

それと同じように、「お客さまへの感謝が大切」だと言いたい場合には、
過去の仕事場面をストーリーとして語り、聴き手が自ら共感し理解することが
大切なのです。
それを省略して言葉だけ綺麗に繕っても、共感を得ることはできないのです。
そして、そのストーリーの延長線上に、自分はこの働く場で
どんな価値を社会に提供したいと思っているのか、応募者と
将来を共有することが大切です。

それ故、説明会に参加してもらう社員には、
準備なく行き当たりばったりの状態で会場に来てもらうのではなく、
事前に時間をとってきちんと自分のストーリーを組み立ててもらっておくべきです。
また同時に、人前で話す練習も十分に行った方がよいでしょう。

正直なところ、仕事として普段人前で話すことがない職種の社員に、
いきなり応募者の前で上手に話せと求めることは無理があるように思います。
自分の組織ひとつとっても、それがどのようなことをしている組織なのか
分かりやすく説明することができず、自己紹介の段階で早速
応募者の期待を損なってしまうケースも、何度となく目にしてきました。

特に技術系職種の場合には、気を付けないと専門用語を用いてしまったり、
予備知識がないと分かりづらい展開になっていたりすることに
自分が気付いていないといったことも多くあります。
そのようなことにならないためにも、事前に内容をチェックしたり、
伝え方を練習したりすることが必要となるのです。

当然社員に負担はかかりますが、社員と応募者との直接のコミュニケーションは、
今までの採用広報活動を全部リセットさせてしまうほどの影響力があることを
認識しておくべきでしょう。逆にいうと、ここですべてを逆転することも可能です。
毎年報告される内定者調査において、企業選択の理由の上位に「社員が魅力的だった」
という項目があることをあらためて指摘するまでもないでしょう。

さて、話す内容以外にも、現場社員が会場で気を付けなければいけないことが
たくさんあります。
人事として、あらかじめガイドしておかなくてはならないことだといえます。

 

◆現場社員が説明会会場で気を付けるべきこと

以下に、現場社員が説明会の会場で気を付けるべきことを記したいと思います。

・応募者は必ず対等な相手として扱うこと

こちらが応募者を選んでいるように、応募者は企業を選んでいます。
その立場はあくまで対等なものです。
そして、社員が応募者と直接コミュニケーションをとる場は、
最も応募者から企業評価を受ける場でもあるのです。

・応募者の目の前に立ったときから、情報発信は始まっている

頭で理解する言葉の意味情報よりも、耳から入る情報の方が強く影響し、それよりも
さらに目から入る情報の方が、強く影響することが分かっています。

つまり楽しさを伝えるときに、「楽しい」という意味の言葉が使われていても、
耳から聞こえる様子が楽しそうでなければ楽しいとは受け取られず、
さらに目から入ってくる情報が楽しいと感じられなければ、結局言葉は
空回りしてしまうということです。
それ故、自分の話が応募者にどのように聞こえ、またどのように見えているか、
常に意識を持たなくてはいけません。

・応募者一人ひとりとよい関係構築をする

最終的に入社しないかもしれない応募者であっても、説明会で目の前にいる全員と
よい関係を構築するように努力しなくてはいけません。
応募者は皆やがて社会人になるのであり、目の前の応募者との関係が
一過性に終わらない可能性があるからです。

・専門用語は置き換える

専門用語はなるべく避け、分かりやすい言葉に置き換えましょう。

・スペックではなく価値を説明

自分のつくっているものを説明する時は、スペックや仕様を説明するのではなく、
その製品が誰にどんな価値をもたらしているかを説明しましょう。
例えば、というかたちで応募者に分かる例をたくさん出しましょう。

・立ち居振る舞いには意識を払って

相互に観察される場では、意識的に立ち居振る舞いをコントロールすることが求められます。

例えば、立ち姿や座り姿が横柄に見えると、会社の社員がみな横柄だと受け取られ、
そのような社風であると理解されます。
腕を組む、ふん反り返る、頭を傾ける、足を組む、相手の話を遮ってしまうなど、
基本的にしない方がよいことや、挨拶をする、視線を合わせる、
(特定の人だけと話さず)全員と話すといった、行った方がよいことを意識しておくとよいでしょう。

◆質疑応答にはリスクがいっぱい

現場社員と応募者の質疑応答のやりとりは、
稀に思いがけない展開になることがあり、ある程度のリスク管理をしておく必要があります。
質問に対して何を答えてよく、何は慎重に対応しなくてはいけないか、
事前に共有しておく必要があるのです。

・質問に答えてよいこと

基本的に答えてよいことは、事実に即して正しいことです。

  • ・自社の情報として正しいこと (企業情報、採用情報など)
  • ・一般知識として正しいこと
  • ・自分の経験に基づく事実 (自分の経験と断って伝える)
・安易に答えてはいけないこと

価値観や、人の興味嗜好に関するものなどについては、自分の考え方を
応募者に押し付けないようにする必要があります。
説明会の場で、解の特定が難しい個人的な内容を質問(相談)されたりする可能性もあります。
そのような場合に安易に解を提示してしまうと、
思いがけない展開になってしまう可能性があります。

例えば、地方のプロジェクトの経験談から住まいの転居の質問を受け、
思いがけず独り身の親がいた場合の対応に会話が及んだことがあります。
そのような場合に、こちらが安易に「親御さんも分かってくれると思います」
というような発言をしてしまい、それが会社の公式な見解として
独り歩きしてしまいそうになったケースが実際にありました。

・否定ははっきりと

会社に関する間違った情報や認識などがあった場合には、はっきりと否定します。

「忙しくて自分の時間が無いと聞いたんですけど」
 ○ 「それはないですね」

 × 「うーん、どうなんでしょう。そんなことはないと思いますよ」

仮にこのような対応をとると、逆に勘ぐられ、
どうやら自分の時間なんてなさそうだと噂が広がってもおかしくありません。

・回答は常に当事者意識をもって

応募者からは、目の前で話している社員が会社の代表として見えています。
あたかも他人事のような当事者意識のない発言は、
応募者の心が離れていく原因になります。

 ○ 「確かに〜〜な意味では、当社の現状は必ずしも理想ではないのかなと思っています。

そういった現状を受けて、私たちは〜〜な考えを持って、〜〜に向けて、……しています」

 × 「当社はそういう面は正直ダメなんですよね。なかなか変わらないのが現状ですね」

 × 「今度担当者に言っておきます」

・聞いてはいけないこと

一般的に面接者が学ぶことですが、応募者に対して聞いてはいけないことがあります。
質疑応答などの流れの中でうっかりこちらから問いかけてしまわないように、
一度確認しておく必要があります。例を記しておきます。

  • ・出身地 「出身はどちらですか?」
  • ・家庭環境 「お父さんはどんな仕事をなさっていますか?」
  • ・思想信条 「普段どんな本を読んでいますか?/今の政治についてどう思いますか?」
  • ・差別的思考 「○○職は基本的に男性(女性)の仕事なんです。/国籍はどこですか?」

さて、今回は説明会で話す現場社員が知っておくべきことについて書いてきました。

特に事前の準備を促すことは難しいと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、
社員の話が何よりも強力な採用広報の手段であることは疑いようのない事実です。
本稿がその対策の一助となれば幸いです。

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