※本コラムは株式会社リクルートキャリアが外部有識者に依頼・執筆いただき、掲載しております。
≪コラムニスト プロフィール≫
曽和 利光 (そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、
クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、
不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。
現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
どのように会うのがベストなのか、お話ししたいと思います。
数多くの企業の初期接触のあり方を見て思うのは、「皆さん、まじめにやりすぎているなぁ……」
ということです。
一般的に初期接触は、会社説明会などの形式を取って、きちんとした挨拶から始まり、
会社や事業、仕事内容の説明があり、働く人の日常を見せ、最後は質疑応答
という流れで行われることが多いようです。
初期接触の場は学生の大事な時間をいただいて行う貴重な機会ですから、
ここぞとばかり、自社の情報を提供しようとするのも分かります。
しかし、もう少し学生の気持ちを考えてみると、もっと適切な初期接触の方法が
あるのではないかと思うのです。
上記のような一般的な初期接触の方法は、たとえていうなら、初対面の人に対していきなり、
つらつらと長時間にわたり自己紹介をするようなものです。
自分の生育史から始まり、好きな物事、現在置かれている環境、悩みや不安、将来の展望を、
出会った瞬間から一方的に話されたとしたら、皆さんはどう感じるでしょうか。
もちろん、既に興味を持っている人であれば、あなたからの情報のシャワーは大変うれしいことでしょう。
しかし、問題は、「そういう人が初期接触の段階でどれだけいるか」です。
おそらく、最初からあなたに、特別に興味を持っている人は、そんなにいないのではないでしょうか。
学生の側から見ると、企業研究は大変に骨の折れる作業です。
企業という複雑な存在をきちんと理解しようとするならば、1社あたり
優に10時間以上は費やすことになるでしょう。
ところが、現在のような、多くの企業の内定率が1%〜数%という状況から逆算すれば、
学生は、平均的に数十社を受験していてもおかしくありません。
ですから、志望企業のすべてを詳しく研究することができるかというと、かなり難しいことは明白です。
私の提案は、初期接触の段階では、「学生は皆さんの会社に、興味を持っていない」
という仮説を前提に考えるということです。
「説明会に来ているのに、興味を持っていないなんて」と思われるかもしれません。
もちろん、まったく興味がないわけではなく、「長々と身の上話を聞いて喜ぶほどには興味がない」
ということです。そう考えれば、学生との初期接触における「出会い方」は、今までとは
ずいぶん異なるものになるのではないでしょうか。
初期接触では、多くの学生が喜ぶ「一般的なもの」を提供する
では、どういう考え方で、初期接触=最初の出会いを演出すればよいのでしょうか。
それはずばり、自社の固有の情報ではなく、多くの学生が喜ぶような「一般的な」コンテンツや情報を
提供するということです。これを満たしているものであれば、
初期接触のネタは、本当に何でもよいと思います。以下に、いろいろな具体例を挙げます。
まず、まじめなところから始めると、候補者は「就活学生」なのですから、
以下のような就職活動の支援となるようなコンテンツを提供するのがよいでしょう。
自社の説明は最小限にして、上記のような「一般的な」テーマの説明会やセッション、
あるいは個別面談などを行うのです。
私も、これまで何度も、自社やコンサルティングをしているクライアント企業で、
上記のような「一般的」テーマでのセミナーを行ってきました。
過去に在籍した生命保険会社では、採用HPに、経営者が今後の社会の未来予測をする
という、直接的には自社に関係ない内容の動画を載せて、保険業界に興味のないような学生も
たくさん集めました。
また、今ではクライアント主催で、私が面接に関する講座を受け持つ、
というような座組みでさまざまなイベントを行っています。
このような一般的なネタで引きつけることの最も素晴らしい効能は、
アンテナの高い(しかし自社には興味が薄い)層がやってくることです。
また、不思議に思われるかもしれませんが、
セミナーの内容と自社に直接的な関係がなかったとしても、
漠然とした好感度や親近感は必ず上がります。
上述の私のセミナーを目当てにやって来た学生が、主催したクライアントとの懇親会に臨み、
そこで話がはずんで信頼関係が生まれたことをきっかけに、最終的に入社にまで至ったケースは
枚挙に暇がありません。最初は、その会社に「まったく」関心がなかったのにもかかわらず、です。
その他の学生に役立つコンテンツの例を挙げます。
これは世の中のありとあらゆるイベントで行われている手法ですが、
採用イベントにも、もちろん当てはまります。
学生がその人の話を聞きたいと思うような著名人をとにかく招いて、
講演をしてもらうのです。テーマは自社に関係があってもなくても構いません。
その後の流れで、「第二部」として、本題の自社の話をしてもよいですし
(第一部だけで帰ってしまう人もいると思いますが、意外に多くはないものです)、
さらに前ページのような就活生に役立つコンテンツを提供してもよいと思います。
○一般的なテーマについての他社との共同セミナー
私が主催している学生支援のコミュニティで、昨年度開催したテーマの例としてですが、
大手総合商社・大手メーカー・ITメガベンチャーの3社で「グローバル人材とは何か」
についてのセミナーを行いました。
他にも、「ベンチャーで働くとは」「外資系コンサルティング会社の仕事」などの
テーマを掲げて、複数社の人事の方々にお越しいただき、パネルディスカッションを行いました。
まず、テーマが一般的で学生にとっても関心があること、
さらには複数社で開催することで、会社や業界ごとのカラーの違いが分かり、
企業選択上、大変価値ある情報が手に入るということで、学生さんたちもとても喜んでくれました。
一般的なテーマでのコンテストや懸賞ものも有効な手法です。
しかし、「ビジネスプラン」コンテストはかなりの数行われているために、
実施するのであれば何らかの差別化や工夫が必要です。
「報酬がある」「高額賞金」「優勝者にシリコンバレーツアー」「優勝者は内定(or高次選考からスタート)」
などのインセンティブがなければ、よほどの人気企業でなければ人は集まりません。
また、コンテスト系は、集まる学生の質によってレベルが変わってきますので、
望ましい人が集まるような仕掛けをしておかないと、「あのコンテストはしょぼい」
と学生にいわれてしまうのがオチです。
今から始めるのであれば、「ビジネスプラン」以外のコンテストを
考案する方がよいかもしれません。自社の事業に間接的に関わる一般的なテーマ
(例えば、ハウスメーカーであれば「近未来の街づくり」についてなど)
の論文やプレゼンなどもありえます。
また、あくまで「ビジネスプラン」で行くのであれば、「リアル性」は大事な要素です。
リアルな課題に対してトライしてもらい、実際にその提案を受け入れたり、予算をつけて
実行してもらったりするなどの「リアル性」があれば、それは学生にとっては価値ある経験となり、
集客ができるかもしれません。
身もふたもないと思われるかもしれませんが、企業側が食事会を提供すれば、
喜んで来てくれる学生は多いものです。
しかも、それが大学近辺で開催されるとなれば、友が友を呼んで
数十人規模になることすら少なくありません。
「『学生にはちょっと敷居が高い、大学近くのあの店』で、
食事会や懇親会を開催するから、友達を誘って話を聞きに来てください」
とプロモーションすれば、学生は違和感を持つことはありません。
ただ、この場合、「いきなり説得」なんてことのないようにしなければなりません。
まずは、仲よくなってからです。
特に食事会の場合は、皆さんの会社への就職意欲の低い人が来ることもありえますので、
ご注意ください(そういうことがあったとしても、集客費用はおそらくどんな手法よりも低いはずです)。
以上、なんということのないアイデアばかりだったかもしれませんが、
冒頭に述べたように「まじめにやろう」とし過ぎると、
つい見過ごしてしまうものばかりではないでしょうか。
出会い方は「なんでもいい」のです。
まずは、自社が学生の役に立つような、どんなことができるかを考えてみてください。
そして、学生に役立つことを提供できれば、人には「返報性」という心理があり、
何かをしてもらった相手にはお返しをしないといけないと思うものです。
もちろん、そのお返しが即、「入社」とは限りません。
しかし、「いいことをしてくれている会社だ」「きちんと話を聞いてみよう」
とは思うはずなのです。
「いいものは持っているのだが、あまり関心を持ってもらえない」
というような企業であれば、今回の方法は大変よい方法です。
情報を提供したからといって、相手に聞いてもらえるかどうかは分かりません。
まずは「聞く耳」を持ってもらえるように、相手のほしがるものを与える、
というのが鉄則なのです。
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