面接の質を高めるために人事担当者が取り組むべきこととは? ダメな面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウをお伝えする好評連載「ダメ面接官の10の習慣」。第5回のテーマは「ダメ面接官は人材紹介会社を業者扱いする」です。
採用業務全体を見渡すと、その工程は、候補者集めと選考の2つに大別できます。人材紹介会社や求人広告会社など、人材採用ビジネスの大半は前者を取り扱います。最終的な意思決定を含む後者は採用担当者(面接官)が担います。
人材紹介会社は面接官にとって外注先でありますが、このように分けて考えると、自社の採用力を左右しかねない重要な存在であることも理解できるでしょう。つまり本来、面接官と人材紹介会社は「採用成功」という同じゴールを共有していなければならない大切なパートナーなのです。
ところが、ダメ面接官は両者の関係性を正しく認識していません。お金を支払う・受け取るという関係のみを見て、人を紹介するだけの業者のように扱ってしまうのです。
たとえば、人材紹介会社からの提案の扱い一つにもその意識は表れます。面接官が発注時に設定した人材要件に対して、人材紹介会社は要件を多少満たさなかったとしても、「チャレンジ提案」としてポテンシャルが見込める人材も提案するものです。しかし、この提案に対してダメ面接官は「オーダーと違う」と単純に非難してしまいます。
私も企業の人事で採用責任者を務めていたとき、「良い人を落としてもいいから、合わない人を採用するな」とメンバーに言っていたくらいですから、ダメ面接官がそうしたジャッジをする気持ちもわかります。例えば母集団形成にしても、極端な例ですが、業界未経験者を含めずに経験者だけで形成したほうが採用のミスマッチは起こりにくいものだからです。
しかし、人材要件を完全に満たした候補者だけに絞り込んでしまうと、候補者が少なくなり、採用というゴールになかなかたどり着けないという状況に陥ることも少なくありません。人材紹介会社はその点を見越して「チャレンジ提案」をするのです。この提案をある程度は許容できるようでなければ、「あの会社には人材を紹介しても通らないから工数をかけて紹介するだけムダだ」と思われ、まったく提案されなくなる可能性もあります。つまり、人材紹介会社に対してダメ面接官がとる態度は、「知らぬ間に自社の採用力を下げている」かもしれないのです。
ダメ面接官に「業者扱い」の態度を改めさせるには、人材紹介会社の「チャレンジ提案」を受け入れることによって増加する面接への意味づけが必要です。とくに、「人材要件を満たさない=不採用の可能性が高い」候補者との面接に対する意味づけが重要となります。
そこで私は、不採用の可能性が高い候補者との面接を「うまい断り方を磨く場」と意味づけることをおすすめします。
不採用の可能性が高い候補者であっても、お客様として再び出会うことがあるかもしれません。しかし、不採用の可能性が高いからといって失礼な態度をとり、候補者が心証を害してしまっていたら、未来のお客様を逃してしまうことにもなります。人材紹介会社を業者扱いするようなダメ面接官は、採用できないとわかった時点で候補者をぞんざいに扱いかねません。つまりダメ面接官の態度によって「人材紹介会社」と「未来のお客様」のいずれも失ってしまう可能性すらあるのです。
そうならないためにも、人材紹介会社の「チャレンジ提案」を受け入れ、たとえ不採用の可能性が高い候補者との面接が増えてしまっても、その面接を候補者に「いい会社だった」と思ってもらえるような「うまい断り方を磨く場」にすることをおすすめします。
人材紹介会社とパートナーとして付き合えるようになると、自分たちだけではなかなか気づけない客観的なアドバイスを得られます。面接官は当然、自社の事業や組織、成員の状態、どんな人が自社に合うのかについて、詳しい情報を持っています。その半面、「労働市場にどんな人がどれだけ存在するか」「自社を採用競合と比較したときの相対的なポジション」などについては、意外とわからないものです。
かたや人材紹介会社は、労働市場全体が見える立場にいます。それによる知見を生かし、「御社の採用にはこういう特徴がある」といったレベル感や質などに関する助言や、採用要件の改善提案など、面接官にとって価値の高い情報を与えてくれます。
ところが、そういう視点を持たずに「自社の採用はイケてる」と思い込み、人材紹介会社の助言を謙虚に聞けないダメ面接官では、人材紹介会社がさじを投げたとしてもそれを非難することはできないでしょう。採用力を上げるためには、面接官は人事と連携して人材紹介会社と良いリレーションを築く必要があるのです。
求人数は多いが候補者は少ない現在の売り手市場では、「提案をまったく受け入れない会社」に、あえて採用支援をしようとする人材紹介会社は少ないでしょう。人材紹介会社から見れば、提示された人材要件に沿って提案したにもかかわらず、結果が出ない責任をなすりつけられるかもしれませんので、当然の流れだと思います。
自社の要望を簡単に曲げろとは言いませんが、「こちらの言うことをちゃんとやってくれさえすればいいんだ」とばかりに人材紹介会社を業者扱いするのではなく、きちんとパートナーとして真摯な態度で接することが大切です。人材紹介会社をうまく活用すれば採用力は上がるのです。面接官も自社の採用力向上の一翼を担っていることを認識し、人材紹介会社と上手に付き合ってください。
著者プロフィール: 曽和 利光 氏
リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも異なる3社の人事を経験。現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングを請け負う株式会社人材研究所の代表を務める。
編集:高梨茂(HRレビュー編集部)