「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が、2016年4月1日に施行されます。
労働人口の減少で各企業が人材不足に頭を悩ませるなか、人材確保の新たなかたちを示した同法ですが、行動計画策定や状況公開を義務づけるなど、企業にとって軽くはない負担をかけることは間違いありません。
では、具体的に何から手をつけるべきでしょうか。
同法の概要と成立の背景、またすでに女性の働き方改革に取り組んでいる企業のケースをご紹介しながら、各企業の担当者が取るべき施策のヒントを探ります。
女性活躍推進法では、事業主の義務として以下の項目が定められています(常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主に対しては義務、同300人以下の事業主については努力義務)。
1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
2. 課題分析を踏まえた行動計画の策定・社内周知・公表
3. 行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届け出
4. 女性の活躍に関する情報の公表
あわせて申請により、企業規模と行動計画達成度に応じて「女性活躍加速化助成金」が支給されるほか、取り組み状況が優良な企業は厚生労働大臣が定める「認定マーク」をWebサイトや印刷物で利用することができるようになります。
<助成金の概要>
助成金は2コースに分かれる。各コースとも都道府県労働局雇用均等室へ申請
・加速化Aコース
行動計画上の「取組目標」を達成した中小企業事業主(常時雇用する労働者が300人以下の事業主)に30万円を支給
・加速化Nコース
行動計画上の「取組目標」を達成したうえで、「数値目標」を達成したすべての事業主に30万円を支給
<認定マーク付与の条件>
「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」のうち1つ以上の項目で基準を満たし、その実績を厚生労働省のWebサイト上で毎年公表のうえ都道府県労働局へ申請すること
このほど開かれた「女性活躍推進法セミナー」<共催:「ビズリーチ・ウーマン」運営事務局(株式会社ビズリーチ)、株式会社Waris>
では、一億総活躍国民会議で民間議員をつとめる少子化ジャーナリスト・白河桃子氏が登壇。法制化の背景には、労働人口減少によって「女性の働く意味」に起こった変化があると指摘しました。
働く女性に対する支援は、従来は育児をしながら働くことを可能にするためのいわゆる「両立支援」が中心。育休制度や時短制度の導入など、特定期の女性をターゲットにした制度を中心に強化を図ってきました。ところが、制度の普及が進むにつれ労働条件に制約のある女性社員が増加し、他の社員にタスクが集中。企業内で労働力不足が発生し、社員全体のモチベーションが低下しました。この状況が育休・時短制度の活用を困難なものとし、かえって女性の離職率増加を招く結果に。労働人口が減少するなか人材獲得に知恵をしぼる企業にとって、悩みの種となっていました。
女性活躍推進法は、このような状況を踏まえて「特定期の女性」だけを対象とした支援から、「男女共通」で働き方改革を促す方向にかじを切ったと評価できます。同法が企業に報告を求める4つの基礎評価項目のなかに法定時間外労働や法定休日労働時間の状況が含まれることが象徴しているように、「全社員」の働き方について企業に改革を迫るものなのです。
さらに、女性の活躍状況について、Webなどでの公開を義務づけたことも大きなポイントです。公開された情報は求職者が企業を選択する際の重要な指標になります。女性が活躍しやすい環境であることが企業のブランド価値を左右し、優秀な人材の確保や企業の競争力にも関わると考えられます。
名称から「女性」だけが対象のようにも思われる「女性活躍推進法」。実は男女を問わず、働き方をめぐる企業イメージや採用ブランディングに関わる問題でもあるのです。
では、具体的にどのような手を打てるでしょうか。
女性活躍推進法が定める各企業が把握すべき基礎項目は、「採用者に占める女性の割合」「男女の平均継続勤務年数の差異」「管理職に占める女性労働者の割合」など。各項目とも、短期的に数字を上昇させるのは難しい項目ばかりです。すでにダイバーシティ(人材の多様化)対策で実績を挙げている企業の事例がヒントになるのではないでしょうか。
<Before>
・女性管理職比率は0%(2008年)
・グローバルな事業展開に向け、世界レベルのダイバーシティ実現が望まれる
<対策>
・社内有志による「ダイバーシティ委員会」の設置
・「シスター制度」、ダイバーシティ講演、認定やアワードへの応募
・女性社員の声を集めた動画を使い、経営陣にプレゼンテーション
<After>
・女性管理職比率が3.9%に(2015年)
・女性活躍推進をきっかけに女性や外国人など多様な人材が活躍できる風土づくりの意識が社員に浸透
グローバルに事業を展開している日清食品ですが、2008年時点の女性管理職比率は0%。世界基準のダイバーシティを達成しようと、2015年5月に「ダイバーシティ委員会」を設置しました。
社内唯一の女性部長を委員長に、9人の委員全員が他の職務と兼務しています。兼務とすることで現場感覚にフィットした施策を打てるほか、活動に興味を持つ人材が自発的に参加しやすい組織が実現しました。
委員会は全社員を対象とした意識改革の施策を一斉にスタートしました。社員へ向けては「働き方」に関するアンケートを皮切りに、地方勤務経験のある女性社員が同じ立場の後輩を指導する「シスター制度」の導入や講演会の実施を通じて意識づけを図りました。
あわせて、トップの言葉が社員の意識も変えるとにらんだ同委員会は、女性活躍推進の方法を探る経営陣に向けたプレゼンの準備に着手。社員に向けてダイバーシティの考え方を浸透させつつ、現場の声を拾い集めて4分ほどの動画を制作し、経営陣へのプレゼンに臨みました。
現在は女性活躍推進法の施行に向け、全社の女性採用比率目標を30%に設定。女性の登用が進んでいない営業や生産などを中心に、部門ごとの配置目標の検証を進めています。
同社は女性活躍推進をきっかけに性別のほか国籍・年齢・障がいの有無をこえて働きやすい環境の整備を予定しており、今後の施策に注目すべき企業の一つといえそうです。
ケース2:東急リバブル株式会社~2つのワーキンググループの新設と3期にわたる段階的な施策で「東京労働局長優良賞」受賞~
<Before>
・女性管理職(課長クラス以上)2名(2012年)
・女性総合職採用比率5.2%(2012年)
<対策>
・経営陣への提言を手がける女性営業職と管理職層からなる「委員会」と、現場社員で課題を抽出する「カウンシル」の、2つのワーキンググループを設置
・2013年から2018年までを3期に分割。各期にテーマを設け、施策を実施
・2013年から2014年は、社員を支える制度(育児両立支援など)を中心に導入
・2013年から2015年は、女性社員・管理職の意識変革を狙う施策を実施
・2015年から2018年は、「働き方」と「職場風土」の改革に乗り出す予定
<After>
・女性管理職(課長クラス以上)6名(2015年)
・女性総合職採用比率23.6%(2015年)
・2015年均等・両立推進企業表彰「東京労働局長優良賞」受賞
東急リバブルでは、経営陣号令のもと行われた2012年の「ポジティブアクション宣言」からダイバーシティ対策がスタートしました。
掲げた目標は「2018年までの女性管理職比率10%達成」。営業職での女性社員の活躍を企図して、女性営業職と管理職層の各グループで経営陣への提言を行う「委員会」と、現場社員で構成し、委員会の提言を営業現場の視点からさらに深掘りする「カウンシル」の二段構えで施策を練りこみました。
各施策の実施にあたっては、2013年から2018年までを3期に分割。
第1期は育児両立支援を中心とする期間として事業所内休日保育所「リバブルキッズルーム」の開設などに注力。
第2期は女性社員にキャリアデザインの意識を持つよう働きかける期間と位置づけ、職掌転換制度やメンター制などを導入。
各期で施策の目的を統一して効果の浸透を図る狙いがあたり、2015年には女性総合職採用比率が2012年比で4.5倍に増加するなど成果を挙げ、「東京労働局長優良賞」を受賞しています。
2015年から2018年の第3期では、柔軟な働き方への取り組みとして時差出勤の運用開始を予定しているほか、テレワーク制度の全社導入も視野に入れ、より時間意識を高める多様な働き方への変革を図るとしています。
ケース3:サイボウズ株式会社~「制度」「ツール」「風土」の変革で、女性社員比率40%・離職率4%を達成~
<Before>
・離職率28% (2005年)
・グループウェアの開発・販売などを手がける企業ながら、自社のチームワークに問題あり
<対策>
・「100人いれば、100通りの制度があってよい」を人事制度の方針に掲げ、働き方の多様化を推進するための「制度」「ツール」「風土」づくりを開始
・【制度】在宅勤務・育児休暇・人事評価・副業など
・【ツール】情報共有クラウド・遠隔会議など
・【風土】多様性重視・公明正大・議論・個性の尊重など
<After>
・女性社員比率が40%に増加
・離職率は4%に低下
「100人いれば、100通りの制度があってよい」を人事制度の方針に掲げるサイボウズ。最大6年間の育児休暇や、働く場所と時間を選べる「ウルトラワーク」、退社しても再入社可能な「育自分休暇」など、ユニークな働き方の導入でダイバーシティを実現しています。しかし、同社にも女性の働き方を筆頭にワークスタイルのあり方に頭を悩ませる時期がありました。
約10年前、同社の離職率は28%でした。社員が辞めるにつれ悪化する社内の雰囲気と、離職が離職を呼ぶ悪循環を断ち切ろうとはじめたのが、ワークスタイル変革への取り組みです。変革に必要だったのは、休暇制度・人事評価などの「制度」、情報共有クラウドなどの「ツール」、そして制度を活用するための「風土」でした。
同社がとりわけ強調するのは「風土」です。人事制度は社員が自発的に提案し、草案づくりから携わります。制度を遠慮なく活用する雰囲気と、それにともなう責任感が生まれるといいます。さらに経営者の率先も重要。同社社長自身も、3人の子供が生まれた際、それぞれ育児休暇を取得し、社員にも育休の取得を奨励しました。
現在、同社の女性社員比率は実に4割にのぼり、離職率は4%に低下。2014年には女性初の執行役員も誕生しました。
女性が働きやすい企業は職場全体の離職率も低いことが実証されたかたちで、まさに「女性」を端緒に「全社員」の働き方について見直しを迫る、女性活躍推進法の趣旨にかなう施策のモデルケースといえそうです。
ご紹介したケースはあくまで法施行前の事例ですが、女性活躍推進法のもとでも参考にできるものばかりです。行動計画策定の義務化は、企業のブランド力・採用力向上に取り組むチャンスです。上記の事例が貴社の取り組みのヒントになるはずです。
文:西田 哲郎
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