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素直さと人の成長

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2014年09月16日

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事変革コンサルティング部門  伴登 利奈

子供の成長を傍らで見ていると、その素直さや真剣さに感動することもあれば、その反対に、「もっと素直に言うことを聞いてくれれば、伸びるのになあ。」と我慢や忍耐を強いられることもある。
先日、小学2年生になる娘のピアノの発表会があった。発表会前は、「初めて発表会に出るのだから、とりあえず練習しておこう。」という「従順」な態度でピアノを練習するか、または、うまく弾けない部分を繰り返し練習するのを拒んで「反抗」するか、さらには、「私はこういうふうに弾いた方がかっこいいと思うの。」などと音符を正確に読み取らずに自己流を主張するか、ということが多かった。

  半年にわたる、このような練習を経て、発表会に臨み、発表会での演奏はうまく弾け、親としてはほっとしているのだが、発表会を機に、娘のピアノを練習する態度に変化が現れた。一言で言えば、「素直」になった。つまり、自ら練習に取り組み、ピアノの先生や親のアドバイスを真剣に聞き、難しい曲にもチャレンジするようになってきたのである。
ピアノの発表会を機に、なぜ「従順」や「反抗」といった態度から「素直」な態度へと変わったのだろうか。私は、以下のような理由ではないかと思っている。
1.発表会で上級生や先生の演奏を聴いて、「自分はまだまだだ」、ということがよくわかった。
2.ピアノの練習を通じて発表会の曲の完成度が少しずつ上がっていく過程を経験し、また、舞台で披露できたことで、自分もやればできるという自信が生まれた。
3.次回の発表会で自分が演奏している姿や自分が弾きたい曲を具体的にイメージすることができた。
 
人が成長し続けるためには、子供も大人もまずは「素直さ」が不可欠であると思う。また、人が持っている能力を最も引き出せる条件は「素直さ」ではないかと思う。ただし、この「素直さ」は、人の言うことに従うという「従順」とは異なるし、また、子供であれば先天的に素直かというとそんなことはなく、誰しも後天的に、かつ継続的に身につける資質であると思う。親たちはみな、自分の子に対して、「どのようにしたらこの子は素直に育つのだろう」とか、「素直な子になって、自分の才能を伸ばしてほしい」とか真剣に願うものであるが、自分(親)の「素直さ」が未だ不十分であることを(特に子供の前では)往々にして忘れている。また、親の「素直さ」が不十分なのだから、その指導を受ける子の「素直さ」を培うことは容易ではないということも忘れている。「素直さ」について数々の著作て強調している松下幸之助氏によれば、「素直な心とは、私心なくくもりのない心というか、一つのことにとらわれずに、物事をあるがままに見ようとする心」であり、素直な心になったならば、「強く正しく聡明になる」と繰り返し訴えている。また、日々素直な心が働いているかをふり返り、そのような心を少しでも養うよう精進を積むことを続けて、「約三十年を経たならば、やがては素直の初段ともいうべき段階に到達することもできる」とも述べている。(松下幸之助著「素直な心になるために」から引用)会社のような組織においては、社員一人一人が「素直さ」を培い、成長していくことなくして、組織全体としての成長もない。にもかかわらず、社員一人一人の成長エネルギーの源泉である「素直さ」をうまく引き出せている組織は少ないように思う。例えば、新たな中期計画を実施しようとするときや、何らかの改革をやり遂げようとするときなど、「従順」(=Yesマン)な社員は、「何やら新たなことがはじまりそうだから、言われたことだけをやっておこう。」と思っているかもしれない。また、「反抗」的な社員は、「どうせうまくいかないに決まってる。」と思っているかもしれない。そして、社員の「素直さ」に基づく純粋なエネルギーをうまく引き出せないまま、頓挫してしまう計画や改革は多い。

娘のピアノ練習を通じて気づいた上記1~3をヒントにすると、社員(=大人)一人一人から、「素直さ」に基づく成長エネルギーを引き出すためのポイントは、以下のようになると思う。
1.現在の「自分」の能力を客観視できる機会を得る(そこから、何らかの教えを得ようとする謙虚さが生まれる)。
2.「自分」の能力、または成長のポテンシャルに自信をもつ(そのためには、小さなことでもよいので成功体験を重ねる)。
3.近い将来の「自分」をできるだけ具体的にイメージする。

上記の「自分」を「会社」や「所属組織」といった言葉に置き換えてみてもよいと思う。そうすると、会社や組織の構成員一人一人が、自分の属する組織の現状や問題点を直視しつつ、その成長の可能性も信じながら、組織の将来のあるべき姿に向かって主体的に行動できるようになるのではないだろうか。

ただし、「素直さ」に基づく成長エネルギーを「一時的に」引き出せたとしても、それを「継続的に」燃やし続けることはさらに難しい。松下幸之助氏も述べているように、常に自分で素直な心になりたい、素直な心で成長したい、と願うことが大切で、それを意識しないと、どうしても我が出てしまう(もちろん私の娘も例外ではない)。素直な成長エネルギーを燃やし続けるためには、例えば、以下のような工夫が必要であると思う。

1.日々の小さな成長/進捗を見える化し、一定期間(週/月/年に1回)ごとに自分の能力を定点観測してみる。 例えば、毎年同じセミナーに参加するとか、試験を受けてみるとか、または、決まった運動や行動をするなど、自分なりの定点を持つことで、自分の中の小さな変化に気づくようになり、成長すること自体が楽しくなる。
2.先人/ロールモデル/指導者(上司など)/ライバルから学ぶ。1の「自分の視点」に加え、2の「他者の視点」を主体的に取り入れることによって、自分の成長過程を修正する、または、自分の殻をやぶり、飛躍的な成長を遂げることも可能になる。
3.1や2の工夫をしながらも、時には肩の力を抜き時間をかけて、自分のやりたいことややるべきことを確認する、または見直す。成長しようとむやみに頑張っていると、いつの間にか、「素直さ」の対極である、我を張っている自分に気づくことがある(ちなみに、「頑張る」の原意は「我を張る」という説がある)。このようなときは、何のために成長しようと頑張っているのか、自分のなすべきことは何なのか、を振り返ってから、前に進むようにする。

社会人として、「素直さ」に基づく成長エネルギーを持ち続けることも、または、親(または上司)として子供(または部下)からそれを引き出すことも容易ではないが、どちらもなかなかうまくいかないなあと感じたときは、成長エネルギーの源泉である「素直さ」を培うためには相当な努力や忍耐が必要であることにも思いを巡らせるようにしている。

 

※本記事は2013年1月時点の記事の再掲載となります。

 

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事変革コンサルティング部門  伴登 利奈

外務省(経済局、条約局(現 国際法局)、北米局、ドイツ勤務等)を経て現職。
マーサーでは、日系企業に対する海外拠点の人事競争力診断、グローバル人材マネジメントの構築支援、人事制度改革支援、M&Aに伴うデューデリジェンスや人事制度統合、グローバルエンゲージメントサーベイの実施、グループ会社の事業再編支援等のコンサルティングに従事。横浜国立大学経済学部卒業、ドイツ・ケルン大学留学(EU経済専攻)

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