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「決断力」を高める? ~グローバルリーダー育成のヒント~

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2014年09月16日

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事変革コンサルティング  古澤哲也

日本企業のリーダーシップ要件にあって、海外企業の要件にないもの、というのがいくつかある。代表的なものが「決断力」である。海外では、リーダーは決断して当たり前、と思われているようで、決断の結果としてのResult OrientedやPerformance Drivenが要件として含まれていても、決断行為そのものは要求されていない。英語に訳そうとしてもあまりぴったり来るものも見つからない。

そもそも何のための「決断」なのか、をはっきりさせていてない点は要件としてやや問題があるのではないかとも思うが、そこは置いておくとして、それ程までに決断力が弱いということが日本人特有の問題である、ということなのだろう。
では、この差はいったいどこから、生まれるのだろうか。おそらく資源が限られている閉じた市場である日本と、国境はあるものの市場の閉鎖性が低い海外市場との環境の違いから来ているのではないだろうか。
経営的な決断をするということは、限られた資源をどのように配分・活用するかということである。閉じた市場においては、失敗した場合の取り返し余地が少ないため、決断も慎重にならざるを得ない。いや、むしろ決断をぎりぎりまで伸ばし、周囲から見ても「そうするのが一番だ」と思われるような状況になってようやく決断するくらいがちょうど良い。優柔不断なのは、経営的に見れば、むしろ日本の市場環境に適合した美徳なのである。一方で、市場に広がりがある場合、多少失敗しても気持ちを切り替え、「よしっ、次行こう」となるので、決断行為そのものの重要度が低くなるのではないだろうか。つまり、海外市場では、個別の決断に時間をかけるよりも、とりあえずやってみて結果を見てみる、というスタイルが実はもっとも経済効率が良いのである。問題なのはその試行錯誤をどれだけ繰り返しゴールに近づくかであって、だからこそのResult OrientedやPerformance Drivenなのではないだろうか。

もうひとつ日本市場と海外市場の環境の違いで大きい要素として変化のスピードの違いが挙げられる。特に新興市場における変化のスピードは日本とは比較にならない。じっくり考えているうちに、市場環境が変化してしまうので、同じく「とりあえずやってみて結果を見る」アプローチが有効になる。

つまり日本人がグローバルリーダーとして目指すべきは、「決断力を高める」のではなくて「多少精度は低くても良いから、あきらめずにゴールを目指して試行錯誤を繰り返す」ことだといえる。実際、海外で活躍している日本人リーダーを見ると、上記のような姿勢を備えていることが多い。

「決断力を高めろ」と言われても、「そういう性格でもないし、今更性格を変えることもできないし…」と受け止められがちであるが、「あきらめずに試行錯誤を繰り返しなさい」と言われれば、要は自分が頑張れば良いのだからできそうな気もする。そもそも日本人種として特有の弱点を、個人的に克服しなさい、というのも少々酷だろう。

ただし、この際注意したいのは、試行錯誤の結果の振り返りをしっかりと行うことである。そうでなければ、単にばたばたしているだけになってしまう。言い方を変えれば、PDCAのPに時間をかけすぎずに、CAをしっかりと繰り返しなさい、ということになるだろう。

さて、自分自身を振り返ってみると、こういうことを言い訳にして、最近じっくり考えることをサボっている気がしないでもない。

 

※本記事は2012年12月時点の記事の再掲載となります。

 

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事変革コンサルティング  古澤哲也

金融、IT、製造、サービスなど様々な分野における人材マネジメントの導入・定着化を重視した実態変革コンサルティングに従事。
ここ数年は社員意識調査による組織マネジメントの分析(組織の可視化)を通じた企業変革に集中的に取り組んでいる。
現在、マーサージャパンにおける人材アセスメントプラクティスのリーダー大手都市銀行、人事系コンサルティングファームを経て現職。
早稲田大学理工学部卒 国際大学国際経営学修士日経新聞連載コラム「こちら人材マネジメント研究所」監修(2002年~2004年)
著書:『MOTリーダー育成法』(中央経済社、2007年)
共著: 『変革を先取りする技術経営』(企業研究会、2009年)

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