マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング部門 寺田 弘志
「どんな人がリーダーに選ばれるべきか?」 入社して数年経った頃に採用する側として初めて臨んだ新卒採用試験のグループ面談での討議テーマであった。先輩の面接官がテーマの説明を終わると、堰を切ったように参加者の学生達が発言していった。「その分野での成功体験」「優れた問題解決能力」「決断力」「皆を引っ張っていけるリーダーシップ」「誰からも慕われる人格者」「リーダーになりたいという意欲」概ねこんな内容だったろうか。しかしながら、これらの発言に続く先輩面接官の更なる質問は今も鮮明に覚えている。
皆の力を借りて自分一人では成しえない仕事ができることに、喜びと感謝を感じることができることが、リーダーにとって最も価値あることである
ということだった。リーダーという立場に立つと、自分一人では如何ともし難い課題ばかりが降りかかってくる。だが、皆と一緒に同じ課題に取り組んでいるときは、「何とかなるだろう」と妙に安心でき、チームが窮地に立った際でもメンバーが不平を言わずに前向きに仕事に取り組んでくれるときは、正直とても有難い。困難に直面した時でも飄々と仕事をしているメンバーの元気な姿をみると、自分もめげている場合ではないと励まされる。皆を引っ張っていくというよりもむしろ、皆に背中を押されている、というのが正直なところだろう。
思うに、リーダーシップというのは、限られた人に恵まれた「資質」なのではなく、誰にでも訪れる「機会」である。だとすると、リーダーという「立場」に求められるのは以下の姿勢ではないだろうか。
個々人の限界を超えたゴールをチームが一体となって目指していく「チャレンジ精神」
自分の限界を超えた場面で自己の未熟を認め、素直に周囲の意見を聞き、学ぼうとする「勇気」
苦しいときに、誰よりも一歩だけ前に踏み出す「思い切り」、もしくはちょっとした「無謀さ」
チームとして成果を生み出せたことを皆に感謝する「謙虚さ」
メンバーの「元気」を自分の中に取り込んで自分とチームをドライブできる「一体感」
昨年のワールドカップを制した日本女子サッカーの澤選手が、「苦しくなったら私の背中を見て」とチームメートに告げたそうである。苦しいときに頼れるリーダーがいたからこそ、チームメートもあれだけ頑張れたのだろうが、「苦しいときこそ皆がわたしの背中を押してくれる」とチームメートを信じて前に進んでいけたからこそ、あれほどの大逆転劇を演じることができたに違いない。リーダーは常に前を見据えていかなければならないのだとすると、背中を通じて周囲の元気をもらい、それを新たな元気に変えて前に進んでいくこと、それこそがリーダーに必要なのである。
※本記事は2012年9月時点の記事の再掲載となります。