面接の質を高めるために人事担当者が取り組むべきこととは? 連載「ダメ面接官の10の習慣」では、ダメな面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウをお伝えします。第3回のテーマは「ダメ面接官は賢そうに振る舞う」です。
面接は企業と候補者が「お互いに評価しあう場」です。しかし、面接官は意識的に気をつけていないと「候補者をジャッジしてあげよう」という上から目線な態度になりがちなものです。
そしてそうした面接官には、「候補者に負けたくない」「候補者にリスペクトされなければいけない」などと無意識に思い込み、「候補者が話す分野について自分がどれだけ理解しているか」を顕示してしまう傾向が見られます。つまり、候補者に賢く見えるよう振る舞おうとするのです。募集ポジションの現場経験が豊富な、デキる社員が面接官の場合、とくにその傾向が顕著になります。
しかし、面接で大切なのは、候補者の知見や能力を見極めることです。面接は、面接官が自己顕示をする場ではありません。
面接官が賢そうに振る舞うときに陥りがちな行動パターンのひとつに、「候補者が言ってもいないことを勝手に想像し、埋め合わせて理解したつもりになること」があります。たいていの場合、面接官は募集ポジションについて正しく理解している人材が選ばれます。上から目線で話を聞いていると、候補者が話す内容に対し、「はいはい、そういうことね」というふうに、候補者が言っていないことまで勝手に想像して情報を埋め合わせ、わかったつもりになってしまうのです。
たとえば、営業職の面接で候補者から「私はこのような商品を、このような顧客に、この期間で、これだけ売り上げました」と聞いたとします。すると上から目線の面接官は、この情報だけで「あの商品をここまで売れるのであれば、このような工夫をしているだろう」「この能力やスキルを持っているはず」「こういう性格かもしれない」と、勝手に想像してしまいます。しかし、候補者は「表面的な結果」しか述べておらず、「工夫」「能力」「スキル」「性格」などについて判別できる情報は何も述べていません。
しかし、面接の場面では厄介になることの多い、この「情報を先読み(勝手に想像)し埋め合わせる」ということを、意識的に行わないようにするのはむずかしいものです。なぜなら、日常のコミュニケーションでは、むしろとても大切な能力だからです。
日本には、「あうんの呼吸」「以心伝心」「一を聞いて十を知る」「おもんぱかる」といった言葉があるように、相手がすべてを言わなくても、内容を先読みし把握しようとする文化があります。これはビジネスシーンでも見られ、日本企業で働く有能な人であれば、かなり鍛えられている能力でしょう。職場で一から十までいちいち聞かなければ相手の言おうとしていることを理解できないようでは困ります。そのため、面接の場でもデキる社員は「つい」候補者をおもんぱかり、じゅうぶんに話をさせず、理解したつもりになるのです。おもんぱかることがいけないわけではありません。候補者に必要なことをきちんと話してもらわないことがいけないのです。
候補者にきちんと話してもらうため、面接官は自分がどれだけ熟知している内容であっても、まるでその道の素人であるかのように話を聞く姿勢をとりましょう。私はこれまで、新卒と中途を合わせて約2万人と面接し、同じような話を何度も聞いてきました。しかし、どんな話でも初めて聞いたような姿勢を貫くことができます。
たとえば、ラクロスの話。私はこれまでにラクロス部出身の学生数百人と面接してきたので、どのようなスポーツなのかは百も承知ですが、今後もラクロス部出身の候補者に対しては「へえ、ラクロスってどんなスポーツなんですか?」と聞きます。ラクロスについて知っているからといって、候補者が説明する機会を省略するのは良いことではありません。説明させることで、候補者がラクロスという競技をどのように定義しているのかを知ることができます。そして、どのように説明するかによって、候補者のラクロスに取り組む姿勢がわかり、その姿勢を通じて志向や価値観も見えてきます。単にルールを説明する人、大学から始めた人でも優勝が狙えるカレッジスポーツと言う人、激しくぶつかりあう格闘技的要素を持ったスポーツだと言う人など、さまざまな表現があり、それらに候補者のパーソナリティーが表れます。ですから、候補者の話す内容をどれだけ知っていたとしても、「知らないふり」をして聞くことが大切なのです。
私は面接官指導をする際、よく「バカになったつもりで聞け」と言っています。実はこれは、相手の志望度を高める効果も期待できる、一石二鳥の手法です。なぜならたいていの場合、その会社への志望度は、候補者が「面接官が自分を認めてくれた」と思ったときに高まるからです。反対に、面接官に論破され「参りました……」と降参させられた候補者が内定を受諾してくれた、というような事例はあまり聞きません。
知らないふりをして聞くと、「へえー」「すごいなあ」「そうなんだ」という自然な相づちを打つことができ、候補者の話を素直に聞けます。候補者は、自分の存在の必要性を実感する「自己重要感」を覚え、「この人は自分のことを尊敬してくれている」とうれしく思うはずです。面接官は自分が語りたい気持ちをぐっと抑え、「バカ」なふりをして目の前の候補者の話をしっかり聞いてください。むろん、誰もが知っているような内容を「それって何ですか?」と聞くのは逆効果になるので、やりすぎないようご注意を。
著者プロフィール: 曽和 利光 氏
リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも異なる3社の人事を経験。現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングを請け負う株式会社人材研究所の代表を務める。
編集:高梨茂(HRレビュー編集部)
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