先日、ある投資ファンドの方に「どうやって投資する会社を選ぶのか」という質問をしてみました。すると、「社長も社員も、全員が他の何よりも顧客を見ているかどうかで選びます」という答えが返ってきました。
私は、収益性や財務状態やビジネスモデル、あるいは社長の器といった話が出てくるのだろうと思っていたので、その答えは正直いって少し拍子抜けしました。しかし、逆に腹の中にストンと落ちた感じがしました。
私はかねてより、顧客への想い入れの強さ、お客様への情熱の強さこそが、経営力の根源であると思っていました。企業は顧客のためにあります。だからこそ、社会の公器たりえるのだと思います。しかし実際の職場では、組織の論理や社内の力関係など、内向きともいえるエネルギーがあることも事実です。その中で顧客への情熱を保ち、高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。
それは社長も含めた社員全員が顧客との距離を近づけていくことではないでしょうか。顧客と直接対話し、顧客の変化にアンテナを高く上げ続けることを全員が行わなければなりません。顧客の期待を知り、それを超えようとする姿勢を貫こうとし、顧客に誠実に関心を寄せるリーダーの姿は、顧客をファンにし、社員を惹きつけます。例えば顧客と距離があるリーダーは、部下の報告に対して、もっと詳しく!と追加の資料作成を求めてしまいがちですが、顧客の変化に鋭敏なリーダーは、部下に完璧な資料作成など求めないはずです。極論すれば、メモ1枚で意思決定できるでしょう。役員も顧客の変化に敏感であれば、それこそ立ち話で意思決定ができるはずなのです。
1/18付の新聞紙上で、トヨタ自動車が製品タイプ別のカンパニー制を導入することが報じられました。私の想像ですが、豊田章男社長は、単に組織を細かくして意思決定のスピードを速めたかっただけではなく、社員全員を顧客や市場に近づけたかったのではないかと思います。
社長から社員ひとり一人に至るまで、顧客への情熱を持ち続けることこそ、経営の根幹をなすものです。これはどんなに時代が変わっても不変の真理だと思います。