2014年08月05日
マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング部門 千葉 修司
「ウチの社員は危機感・やる気はあるのか?意見を求めても全然発言しない。」
「自ら提案し、責任を持って最後までやり抜くような社員が最近は見当たらない。」
コンサルティングの現場では、組織のリーダーからこのような声をよく耳にする。同様の思いを抱く読者も少なくないのではないだろうか。
不確実性が極めて高い現在の市場環境において、その市場に、日々最も近い場所でしのぎを削っているはずの現場の社員の声は、言うまでもなく貴重であり、確実に拾って活かすことができれば、それは企業体にとって重要な差別化の種となり得る。
しかし、そもそもの声が聞こえない。
だからといって、「君の意見を言いなさい」と繰り返し求めてみても、状況はおそらく変わらないだろう。何故なら上司の声は、「意見を言わない」その原因の根幹に触れるものではないからだ。6ヘクタールの広大な丘一面が42万本の向日葵に覆われる宮城県大崎市にある「ひまわりの丘」に、家族と向かったのは昨年の夏、盆の帰省のことである。
雲ひとつない青空の下、風光明媚を味わうべく胸躍らせて上がった丘で、私と家族は驚きの光景を目にした。
そこには、首がだらりと垂れた一面の向日葵が待っていた。
申し分ない晴天の下、全て下を向いた向日葵。それは実に異様な空間であった。
すぐさまその施設のスタッフに理由を尋ねると、長雨と日照不足が原因であるとの答えが返ってきた。生育期に十分太陽に当たっていない向日葵は、生育後どんなに晴れの日の中にいても、もう顔を上げてはくれない、とのことであった。そのスタッフは、「もう今年は太陽を向くことはない」と言い切った。
この光景に、強い危機感を感じたことを今でも鮮明に覚えている。2009年はリーマンショックの煽りを真正面から受け、世間は暗いニュースに覆われ、経済・経営の世界では、厳しい環境が長く続いた。組織で働く従業員にとっても「金銭/非金銭」を問わず、厳しい処遇が続いた。同じ年、天気の世界で曇りや雨の日が続いたように。
そして、2010年も半年が過ぎようとしている。時に苦渋の決断を繰り返しながら、一部でやや明るい兆しが見え始めているものの、全体としては未だ予断を許さない状況にある。
このような状況下で、あなたの会社の向日葵は、今、組織に太陽を見出せているだろうか?長い間、曇りや雨の日が続いた中で、下を向くことに慣れてしまってはいないだろうか?
もし、社員の声が聞こえてこないと思い当たる節があったなら、以下のような問いと共に組織を振り返る必要がある。
■会社の思いを「伝える」と同時に、社員の声を「聴く」機会はあったか
■社員の提案に「責任」と適当な「権限」を与えて、やり切ることをさせていたか
■社員の提案を、自らの不安から握り潰してはいないか…等
もし、組織から社員の声が消えてしまっているならば、その根本原因を特定し、ソフト・ハードの両面で解決策を講じる他ない。何より大事なのは、根本原因に向き合う姿勢そのものではないだろうか。
全社一丸の努力により、この霧が晴れたその日に見るものが、転職活動に精を出す社員の姿ではなく、彼らが会社のビジョンに向かってまっすぐに進む姿であるよう、会社や周りを信じて団結し、一層の業績拡大に弾みをつけられるよう、今だからこそ内部環境に目を向ける必要があるように思う。
太陽の光は、厳しい暑さであってもいい。灼熱の中で時には自ら裸になり、社員に語り掛け、そして声をよく聴く姿勢が、人の上に立つ人間には不可欠である。臆することなく、光を当て続けることが重要だ。この霧が晴れたその時に、決して、俯いてしまった向日葵にさせぬよう。
※本記事は2011年11月時点の記事の再掲載となります。
マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング部門 千葉 修司
中堅、日系大企業からグローバル企業まで幅広いクライアントに対し、事業戦略立案・実行支援、チェンジマネジメント、人材育成、人事制度改革等のコンサルティングに従事。
最近では、営業力強化支援コンサルティングに注力しており、直近では、高級消費財メーカー数社、通信などの企業に対するコンサルティングプロジェクトに従事している。
組織全体を巻き込んで、組織のビジョン・戦略の策定から、営業プロセスの構築、現場へ落とし込むプロセスを一貫して行うことにより、確実な組織変革を支援する。プロジェクトマネジメント及び、ワークショップセッションにおける講師・ファシリテーション経験多数。
国内大手印刷会社人事部を経て現職。早稲田大学政治経済学部経済学科卒
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