今年は就職活動の解禁が遅くなったが、11月に入り、来春、卒業する学生たちの多くは内定を得て、一安心しているところだろう。
売り手市場が鮮明になったとはいえ、それなりの苦労を経て、縁を得た会社なのだから順調に過ごしてほしいものだが、現実は数年内に辞めてしまう人がたくさんいる。
先日発表された厚生労働省の「新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)」によると、大学卒業後3年後の離職率は32.3%となっている。若年者は3年間で3割辞めてしまうといわれているが、まさにその通りなのだ。
ところで、その年ごとの内訳を見ると、1年目13.1%、2年目10.3%、3年目8.9%となっている。高卒は、1年目19.8%、2年目11.7%、3年目8.6%(計40.0%)である。
これをみてわかるように、一口に3年と言っても、1年目に辞める者が最も多い。2年目以降の退職も、1年目からの不満が積もり積もってというケースが多いだろうから、早期離職の予防には入社1年目のケアが特に重要になると考えられる。
ちなみに大卒の業種別のワースト5は、「その他」66.6%、「宿泊業、飲食サービス業」53.2%、「生活関連サービス業、娯楽業」48.2%、「教育、学習支援業」47.6%、「サービス業(他に分類されないもの)」39.1%である。
定着率を高めることの重要性は企業も認識しており、それなりの努力はしている。ただ、どちらかといえば、人事制度の改定や労務管理の改善という主要課題が先にあり、その副次的な効果として定着率の向上があるように思える。いわば目的でなく結果であり、定着率向上にピタリと照準を合わせての取り組みは少ないと感じている。
本コラムでは、あらためて定着率向上に「本気で取り組むこと」の重要性を指摘したい。まずは、定着の必要性を理解するために、離職率が高いことでどのようなコストが余計に発生するかを考えてみよう。
離職率が高いことによるコストには、①採用コスト、②育成コスト、③風評被害コストの3つが主にある。
① 採用コスト
通常、企業は退職者の補充をしなければならないため、そこに新たな採用コストが発生する。直接的な採用費だけでなく、面接や選考に社員を割く必要があり、それを時給換算すれば結構なコストになるはずだ。
ちなみに「2015年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」では、採用費総額の平均は575.4万円で、入社予定者1人あたりの採用費は45.5万円とのこと。これは広告費やセミナー運営費、外注費など、直接的な費用だけなので、採用活動に割く人件費その他諸々を含めれば倍くらいになってもおかしくはない。
もう1つ注意が必要なのは、大企業はスケールメリットで1人あたり採用費を抑えられるが、規模が小さくなるほどこれが増大することだ。中小企業は基本的に、採用活動は「割に合わない」のである。一度、自社のコストを計算してみてほしい。
② 育成コスト
新入社員研修などのOFF-JTコストもあるが、むしろ現場のOJT負担が大きい。一通りの仕事ができるまでに上司や先輩が指導にかける時間・労力は馬鹿にならないはずで、若年者が退職してしまうと、また一からやり直しということになる。
こういったことが続くと、現場としても新人育成に力を注がず、一向に若手が育たないという悪循環に陥りかねない。育成コストは看過できないほど大きいと認識すべきである。
③ 風評被害コスト
上記と違って明確なコストとして認識しづらいが、風評被害によるコストは、想像以上に甚大になる可能性がある。
中でも重大なのは、優秀な人材が集まらなくなるリスクだ。これによって逸失する利益は計り知れず、言い換えると多大なコストを払っているということである。
最近の学生が、ブラック企業の判断の目安として注目するのは3年後離職率である。会社四季報では目立つ位置に掲載され、ハローワークでも昨年から大学新卒者向けの求人に情報提供が求められるようになった。
特に上に示したような離職率が元々高い業種だと、一般的な数値よりもかなり高くなるため、学生に敬遠されるリスクが高まる。
離職率を公表していない企業であっても、社員が長続きしないことは顧客や取引先にはわかるものだ。取引先などから、「使い捨ての会社」などマイナスイメージをもたれて得することはない。特に地方の名士的な企業などは噂になりやすく、人材確保以外にも商売に悪影響を与えかねない。
こういったコストを見積もって、1人辞めることが、たとえば200万円の損失になるとする。見方を変えると、離職者を1人減らすことで200万円の利益増につながるということだ。売上高利益率が2%だとすると、1億円の売り上げを上げるとの同じである。1億円の売り上げがどれだけ大変かは、ここでいうまでもない。そう考えると、定着率を上げることのメリットは大きいことが理解できるだろう。
売上責任や利益責任を認識しにくい人事部門であるが、定着管理に関しては、疑似的に責任を明確化できる。そのようなイメージをもって、改善に取り組むのも効果的と思う。