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日本が負けているのは「経営者を育てる力」だけ~強い経営者育成に取り組もう~

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2015年10月20日

 かつて、日本企業の製品の品質の高さやオペレーションの正確さ、社員の勤勉さや愛社精神の強さなどが世界で称賛された時期がありました。今、私たちは世界の新しい波に対応するための試行錯誤中ではありますが、かつて称賛され、自負していた力を失ったわけではありません。依然として、誇りを持つに足る強さを保っていると思います。

 では、どこが明らかに負けているのでしょうか? それは、私たちが持っている元来の強みを、新しい世界で舵取りする力=経営力であり、それはすなわち「経営者を育てる力」ということだと思います。

 私がこのように感じる根拠は、2000年前後から多くの企業でスタートした「経営人材を育てる」プログラムをお手伝いしてきた実感からです。実は、私たちは2つの間違いをしてきたのではないか、と思っています。

 一つはプログラムの対象者が選抜された課長前後クラスということが非常に多かった点です。経営人材を育てるという目的にしては時期が早すぎ、直接的に経営人材を輩出するプログラムになりきれませんでした。日本はミドルが強いのが特徴ですから「やっぱりミドルを強くしないといけない」とか、「今更部長や役員に研修でもないだろう」という従前の考え方に引っ張られていたように思います。課長クラスが経営幹部になるには通常かなりの時間がかかります。課長クラスの若手を経営者育成プログラムの対象にするなら、プログラムの卒業生を抜擢登用したり、タフでチャレンジングなアサインメントに送り込まれることで成長を加速させなければいけませんでしたが、それは残念ながら十分に機能しませんでした。経営者として力を発揮すべき部長以上のエグゼクティブを対象にし、鍛えることも行っていませんでした。

 もう一つは、経営トップの本気のコミットがなかなか得られてこなかった、ということです。いうまでもなく経営者は経営者にしか育てられません。経営者が一人、もしくは少数で、あとは専門分野の代表者、という経営チームでもよかった時代は、経営者はマンツーマンで次の候補を、時間をかけて選び、育てればよかったのです。しかし、これだけスピードと複雑さが求められ、M&Aが当たり前の世界では、プロフェッショナルな経営者が同時にたくさん必要です。そうなるとOJTでは数も質も追いつきません。だからこそプログラムが必要だったわけです。しかし、どんなに欧米のグローバルメジャー企業の経営者育成の情報が伝わったとしても、日本企業のトップと欧米メジャー企業のトップが後継者の育成にかける情熱と時間の差は未だに埋まっているとは思えません。

 先日も、GEのグローバル事業のトップを歴任された方にお話をお伺いしました。
「社長になった年は、研修だけで数回ニューヨークに呼ばれた。」
「全世界で150人のオフォサーになった時の研修は3週間だった」
「その後も、自分の事業の成長戦略を2時間あまり語り尽くし、嵐のような質疑に応答するやりとりでで鍛えられた」
「プレゼンを聞いたジャック・ウエルチは、多くても三手、つまり最多で3つの質問で詰めてくる。3つ目までに挽回できないとかなりやばい」
このように研修の場が他のリーダーとエネルギッシュな対話をし、一方で強いプレッシャーを感じる場なのだと思います。もはや研修ではなく、サバイバルの場です。過去の2つの間違いを、今こそ正すことが必要だと思います。

 私たちに残された時間はそんなに長くありません。この後4~5年が本当に勝負の時です。今こそ部長以上のエグゼクティブに、経営職能のプロフェッショナルを育成するサバイバル・プログラムを、経営トップの100%コミットで立ち上げていくことが必要ではないでしょうか。

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