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ストレスチェック義務化に向けて知っておきたい注目ワード「レジリエンス」とは

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2015年10月14日

メンタルヘルス対策の充実・強化を目的とした「労働安全衛生法の一部を改正する法律(通称:ストレスチェック義務化)」が2015年12月より施行され、従業員数50名以上の全事業所では、ストレスチェックの実施が義務化されます。

このストレスチェック義務化にあわせて、あらためて注目を集めているキーワードが「レジリエンス(resilience」です。レジリエンスは、元々は物理学の用語であり、「弾力」や「跳ね返す力」という意味を持っています。近年では精神医学や心理学の領域でも使用されるようになり、ストレスを受けた時に「跳ね返す力」という意味で使われるようになりました。

世界的ベストセラー『ワーク・シフト』の著者としても知られるロンドン・ビジネススクール教授、リンダ・グラットン氏もこのレジリエンスを取り上げた書籍『未来企業』を執筆。そのなかではレジリエンスを「逆境力」と表現しています。

ダボス会議で一躍注目を浴びるキーワードに

 
レジリエンスというキーワードが一気に知られるようになったきっかけは、2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)。各国の国力評価の研究結果のなかで、レジリエンスの高い国ほど国際競争力が高く、また危機管理能力にも優れているというレポートが提出されたことで注目を浴びるようになりました。

現在レジリエンスの考え方は政治経済だけでなく、組織運営や人材育成など、多方面で取り入れられています。特に変化と競争が激しいグローバル企業などを中心に、レジリエンスを高める動きは加熱しており、IBMやゴールドマン・サックス、ジョンソン・エンド・ジョンソンといった名だたるグローバル企業をはじめ、国内企業でも人材育成の一環としてレジリエンス研修が導入されています。

レジリエンスの考え方

 
レジリエンスには3つのステージがあるとされています。1つ目が、ストレスや失敗、逆境を経験した後に精神を深く落ち込ませない「底打ち」。2つ目が、落ち込んだ気持ちをスムーズに元の状態に回復させる「立ち直り」。そして3つ目が、困難を乗り越えた経験を振り返り、そこから学ぶ「教訓化」です。

レジリエンスの3つのステージを図解したものが以下の図です。

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(久世浩司著『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方』を参考に編集部にて作成)

大切なのはネガティブな感情を引きずらず、いつも通りの自分をすぐに取り戻すこと。そして、マイナスからプラスに転じた経験を、第三者の立場から俯瞰し、自身のノウハウに変えることだとされています。

「一流」と呼ばれる人たちのレジリエンスは総じて高い

 
「底打ち」「立ち直り」「教訓化」を自然と実践しているのが、プロスポーツ選手だとされています。試合中にミスをしたり、練習中にけがをしたりしても、そこでくよくよせず、次に自分に何ができるかを即座に考え、同じミスを繰り返さないように励む。これはまさにレジリエンスが高い状態だといえるでしょう。

また、プロスポーツ選手と同様に、社会的に成功を収めている起業家や、各分野のトップセールスなども同じような傾向が見られるといいます。ただ、このレジリエンスは特別な才能などはではなく、後天的なもの。つまり、やり方さえ分かれば誰でも高められる「技術」というのが定説です。

ネガティブな感情と向き合い、レジリエンスを高める

 
例えば、達成が困難に思える役割を上司から任されることになったとします。当然、「やりたくない」「面倒だ」といった感情が浮かんでくるでしょう。しかし、そこで考えをストップさせるのではなく、「何がやる気をそぐ原因なのか」「どうなれば面倒だと思わなくなるか」と考えること、これこそがレジリエンスを高める第一歩につながるといいます。ネガティブな感情ときちんと向き合い、コントロールする技術を身につけることが大切なのです。

何かにつけて「できません」「やる気が起きません」という社員がいた場合、そこで必要なのは「なぜ?」を問いかけ、考えさせることだといいます。表層的な感情論から一段階掘り下げて考えると、乗り越えることは不可能だと思っていた大きな壁に、実は自分でも上れそうな階段があることに気づく場合があるそうです。その発見こそが「底打ち」であり、階段を一段ずつ上らせることが「立ち直り」につながり、そしてこれらの経験を後で振り返ったときに、「ああ、あのときはこうだったのか」と気づくことができれば、レジリエンスが鍛えられたことになるといいます。

レジリエンスが高い個人が集まる組織は強くなる

 
レジリエンスが高い個人が集まれば、組織のレジリエンスも自然と高くなります。レジリエンスの高い組織とは、具体的には以下の3つにあてはまるものを指します。

  • 「個人にやる気がある(感情)」
  • 「人と人がちゃんとつながっている(人間関係)」
  • 「生み出した知恵や知識が生かされている(知恵・知識)」

こうした要素がそろう企業であれば、急激な市場の変化や、ライバルの台頭にも柔軟に対処できるとされています。市場から高く評価されるイノベーティブな製品やサービスを生み出す企業にベンチャーが多いのも「少人数だからこそ、社員一人一人が当事者意識を強く持ちやすい」「小規模だからこそ、緊密なコミュニケーションがとれる」といった要素を満たしやすい企業体のため、という見方もできるかもしれません。

日本企業にはレジリエンスを高める余地が大いにある

 
記事冒頭でダボス会議について触れましたが、同会議での研究結果で、日本は高い国際競争力を持つ一方、レジリエンスは極端に低いと述べられています。理由はいくつか考えられますが、要因の1つとして考えられるのが、日本の「和」を大切にする文化です。

日本では、時に「和」を尊重し過ぎるが故に、自分が失敗を犯すことを極端に怖がる傾向にあるといいます。そのため「失敗したくない」という感情が先走って焦りや不安を増長させるケースや、周囲と自分を比較して強いストレスを感じ、申し訳ないという気持ちが肥大化してしまいがちです。

しかし、仮に失敗したとしても、そこから早く立ち直る技術を身につけてさえいれば、失敗を極端に恐れずに挑戦的な姿勢を持ち続けることができます。また、レジリエンスの概念がより普及し、トレーニングを積むことで精神疾患などの問題も解消されるかもしれません。一人一人がレジリエンスを高めることができれば、組織にとっても大いにプラスになるでしょう。

文:大城達矢(HRレビュー編集部)

 

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