「会える人事」は、採用・人事担当職のロールモデルとなるプロフェッショナル人事※へのインタビューと、実際にその方と会えるO2O(オンライン・トゥ・オフライン)イベントを通して、「これからの人事とは何かを考え、どこを目指すのか」について考える企画です。
第2回は、リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも違う3社の人事をご経験され、現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングなどを請け負う人材研究所の代表取締役社長を務める曽和利光氏にご登場いただきます。第1回のファーストリテイリング中西一統氏からのご紹介です。
※プロフェッショナル人事とは、人事の専門知識を持ち、経営戦略と人材戦略を連動させ、ビジネス、人、組織の課題に対する解決策を提案・実現していく人事と定義しています
心理学の大家、河合隼雄先生に憧れて京都大学に進学し、心理学を専攻しました。1995年、新卒で入った会社がリクルートです。入社のきっかけは、リクルートで働いていた先輩に誘われて会社見学に行ったこと。「顧客企業の組織と人材を支援する」リクルートの業務内容は、心理学の知識を応用して生かせるのではないかと感じ、企業の人事を助ける仕事は面白そうだと思い、リクルートへの入社を決めました。
ただ、コンサル部門や営業部門で企業の採用支援ビジネスに携わりたいと入社したのですが、配属されたのは社内と向き合う人事部門でした。それから足かけ15年。自社の採用を中心に人材開発、企画、制度設計、メンタルヘルス対策など幅広く人事業務に従事しました。一時、人材コンサルティング業務を担当した時期もありましたが、9割近くは人事回りの実務に携わってきました。
いちばんは、採用にかけるすさまじいまでの情熱です。「自社の人材よりレベルの高い人を採用しろ」という、創業者の江副浩正さんの採用にかける情熱は、とにかくものすごかった。入社当初携わった新卒採用では、優秀な学生を徹底的に探し出しました。何をしたかというと、「RS」と呼ばれた戦略がありまして。ずばり「ローラー作戦」の略です(笑)。当時だからこそできたのですが、学生を通じてサークルなどのグループの名簿を集めてひとまとめにし、名簿の頭からひたすら電話していく。就職するかもわからないような学生も含めてとにかく会って、見込みのある学生と関係を築いていきます。そして最後に「リクルートに行きたいです」と言ってもらうための意向上げを徹底的に行いました。非効率でもとにかくやり抜くことで、優秀な人材を探し出し、採用してきたのです。
もう一つ、採用において重要だと学んだのが、入社後の社員の配属・配置後におけるインフォーマルなネットワークについてです。優秀な人材を採用して、単に組織の中に入れただけでは、他人と衝突したり摩擦が起きたりすることがあります。ハレーションを起こすことなく彼らを組織で活躍してもらうためには、周囲からの手厚いケアが必要です。リクルートで重視したのは、社員同士のインフォーマルなネットワークを作ること。当時はまだ珍しかったのですが、リクルートに集まった個性豊かな内定者同士で、簡単にいうと仲良くなるイベントや研修を人事主導で実施しました。また、入社してからは、まったく違う部署の社員をメンターにつけ、多様なつながりを持たせました。これにより、同期というヨコのつながりだけではなく、タテ・ヨコ・ナナメの社員をつなげてインフォーマルなネットワークを作るよう誘導したのです。これにより、業務上はもちろん、たとえ退職したとしても、お互いに助け合う強固なネットワークが生まれるのです。実際私も同様で、人材ビジネスで起業した今でもリクルート出身者とは強い関係を保っています。
少し話がそれましたが、社員のインフォーマルなネットワークが機能すれば、退職の防止やメンタルケアの役割を果たすだけでなく、情報や文化の流通ルートにもなり、組織力強化やカルチャー作りに役立ちます。リクルートの人事を15年経験して、そんなことを学びました。
15年間で人事部門のさまざまな職務をローテーションし、あらかたの人事業務は経験しました。そのなかで感じたのは、同じ人事業務でも、採用チームと教育チームでは向いている方向が少々違うことがあった点です。どちらのチームも採用目的はきちんと理解できていましたが、ただ一つ、両チームのメンバー間で深く意識のすり合わせを行うことがあまりなかったからだと思っています。当時でも従業員が5,000人を超える巨大組織ですから、無理のない話だったかもしれません。でも、企業理念が浸透したリクルートのような会社でさえ、みんなが同じ方向を向くのは難しいことなのだと感じました。
とはいえ、リクルートでの“濃い”人事経験を通じて、私なりに「理想の組織」とはどういうものか、一つの答えが見えてきました。それは「採用・教育・配置・評価・報酬・代謝」の、人事の諸機能と呼べる六領域が一貫性を持って実施されている組織です。「代謝」とは「採用」の逆で、転職や起業、定年退職、リストラなどによって内部の人材が出ていく、組織の新陳代謝のことを指します。
たとえば採用と配置について考えてみましょう。どの企業も採用にはしっかり力を入れる一方で、採ったあとの配置には力を入れていない企業が多いと感じます。しかし、優秀な人材を採用しても、配置でうまくいかなかったら能力を発揮できません。「この人材は、このポジションでこそ生きる」という、採用と配置に一貫性を持たせることが大切。これが「人事の一貫性」の一例です。
この「人事の一貫性」がある組織をリクルートでも実現したいと思ったのですが、そのためには人事の部長や役員クラスのポジションに就かないと難しい。巨大な組織ですから、簡単にたどり着くポジションではありません。それなら、自分に挑戦させてくれる会社を探そうと思いました。そうして出合ったのがライフネット生命です。同社の総務部長として、人事だけでなく経理や法務などバックオフィス部門を見ることになり、念願だったゼロスクラッチの組織作りに取り組めることになったのです。
当時のライフネット生命はまだ創成期で、従業員は50人ほどのベンチャー企業。事業成長とともに組織も拡大していくフェーズで、大企業であるリクルートとは対極にありました。とはいえ「とにかく優秀な人材を採用する」という採用の根本思想は2社とも同じ。違うのはその手法です。
リクルートでは、優秀な人材を採用することだけにフォーカスしていましたが、ライフネット生命の採用ではそれと同時に、採用を通じた企業のブランディングも重視していました。当時の社長(現会長)の出口治明さんは常々、「採用活動は社外との重要な接点。優秀な人材を採用するだけでなく、採用活動を通じてどんなメッセージを発信するかで会社のスタンスが決まるんだ」と言っていました。
社会的にインパクトがあったのが、新卒採用で実施した「重い課題」です。学生にエントリーシートならぬ「エントリー論文」を提出してもらうというもの。斬新な取り組みとして多くのメディアに取り上げていただいたおかげで、ライフネット生命のことを広く知ってもらうことができました。
「重い課題」を実施した背景には、新卒採用が抱える一つの問題があります。それは「新卒採用はとても非効率である」ことです。人気企業の内定率は1%を下回り、99%の学生が落ちます。つまり、採用倍率100倍という採用活動に、企業も学生も割に合わないコストをかけているということです。そこで、ライフネット生命は「本気で当社で働きたい学生」だけに受けてほしいと考え、「重い課題」を課すことにしました。採用へのエントリー自体は1万人以上いたので、通常なら3,000人くらいは選考に進んでもよさそうなものですが、「重い課題」を出したことによって、実際の応募人数はわずか50人。しかし、この50人は狙い通り、「本気で当社で働きたい」と思っている学生ばかりでした。高いハードルを設けたことで、本気の人だけをあぶり出し、優秀な学生を効率よく採用することができたのです。
オープンハウスは、荒井正昭さんというカリスマ的な創業社長が組織をけん引して急成長を遂げている企業です。トップダウンで組織的に馬力を出して稼いでいく、それまでの2社とはまったく違う企業文化を持っていました。私は組織開発と人事採用の責任者として着任しました。。
着任当時、同社の採用はうまくいっているように見えました。採用におけるいちばんのミッションは営業としてガツガツ働ける人材を一定数採ること。これはある程度クリアできていたのです。その秘訣は、トップ営業マンを採用担当に起用すること。エース級の営業マンが自分と同じタイプの人材を見極めて採用することで成功していました。
では、何が難しかったかというと、営業以外の採用です。オープンハウスは営業が一枚岩になることで売り上げを伸ばし、急成長してきました。しかし、一部上場が視野に入るような組織規模になってくると、営業一色の組織構成ではバランスが悪く、組織のパフォーマンスを最大化できません。上場企業になる転換期を迎えて、一様性から多様性の組織へ変革するための、採用に変更しなければならなかったのです。
営業以外の人材を採用するために、面接官に採用志望者(学生)と同じ性格診断テストを受けてもらい、採用志望者と同じタイプの面接官を面接にあてるようにしました。これにより、採用志望者に「共感の持てる人が働いている会社だな」思ってもらえ、選考を辞退されることが減り、欲しい人材を採用できるようになりました。
同時に、採用した人材を組織に定着させ、組織全体のパフォーマンスを高めるために、「配置」の見直しに着手しました。500人を超える全社員にある組織診断テストを受けてもらい、その結果と個別面談などをもとに、社員同士の相性を考慮して再配置した結果、退職率を下げ、部署ごとのパフォーマンスを高めることができたのです。
はい。3社は、組織規模も事業フェーズも違いますし、社風が大きく異なりましたね。自由な雰囲気でボトムアップ型のリクルートと、トップダウン型のオープンハウス、金融やコンサルティングファーム出身者が多い専門家集団のライフネット生命。それぞれの事業フェーズや社風の違いにともない、多様な組織課題、採用課題の解決に取り組みました。この経験を糧に、2011年、人事業務のコンサルティング、アウトソーシングなどを請け負う「人材研究所」を設立しました。
理想の組織を作るためには、「採用・教育・配置・評価・報酬・代謝という人事の各領域に一貫性があること」が重要だと考えています。その中心が採用であることは確かですが、採用することばかりに注力していては、組織は機能しません。採用の一歩先を見通し、採用活動を通じてどのように組織を変えていくかまで考え、実践していく。このような、組織作りに積極的に関わろうとする「攻め」の姿勢を人事担当者は持つべきです。
「攻め」というと、候補者を集めて採用することばかりに目が向きがちですけれど、それは人事の諸機能の一部分です。採用の後に続く「教育・配置・評価・報酬・代謝」まで意識してこそ、「攻めの人事」といえるのではないでしょうか。人事業務には経営者や現場リーダーの意向が強く表れるかもしれませんが、そこをなんとか調整し、人事担当者がもっと責任を持って業務に取り組むべきです。皆さん、ぜひ一緒に「攻めの人事」を目指しましょう。
次回のイベントでは、組織を作るためのノウハウについて、より詳しくお話ししたいと思います。
1971年生まれ。愛知県出身。
京都大学教育学部卒業後、1995年、株式会社リクルートに入社。人事部に足かけ15年所属し、人事部ゼネラルマネジャーとして活躍。その後、ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を歴任し、採用を中心に人事の諸機能に一気通貫で携わる。2011年10月に株式会社人材研究所を設立し、代表取締役社長に就任。人と組織の可能性を追求する研究や啓蒙活動を行っている。
ロバート・B・チャルディーニ(著)
誰もが持っている「心理的バイアス」を正しく理解しておくことで、コミュニケーションにおけるボタンの掛け違いをなくし、同じ内容を伝えるにしてもより効果的に伝えることができるようになる。そんな気づきが得られる一冊です。人事の仕事は、会社や事業が求める「組織行動」を従業員にとってもらう、いわば「人を動かす」「説得する」仕事。そのためのヒントが満載ですので、さまざまな場面で役立つと思います。
今回インタビューにご登場いただいた曽和氏の講演会を開催いたします。 記事には掲載できなかった内容や、より具体的なお話をご聴講いただけます。
また、講演の後には懇親会を予定しています。曽和氏をはじめ、当日ご参加される人事・採用担当者同士の横のつながりを作り、情報交換を行える場としてご活用いただけます。皆様のご参加をお待ち申し上げます。 (※応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。ご了承ください)
タイトル | 採用で組織を変え、企業文化を作る。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスで学んだノウハウ公開 |
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開催日時 | 2015年11月10日(火)17:30~19:00(開場17:15) |
会場 | 渋谷駅周辺(当選者の方に後日メールにて、ご案内させていただきます) |
参加費 | 無料 |
登壇者 |
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定員 | 30名 ※応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。ご了承ください |
対象 | 経営者、人事業務に従事している方 |
プログラム |
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