「マタハラ」や「オワハラ」など、最近はさまざまなハラスメントが出てきているが、労務管理で主に問題となるハラスメントは、セクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの2つである。
これらのハラスメントが起きると、被害者はもちろんのこと、職場全体の生産性が低下したり、対外的なイメージが低下したりして、企業にも大きな損失を与える。
このため、今日ではハラスメントへの対応は、人事労務管理の重要課題の1つとなっており、大企業はもちろん、中堅・中小企業でもハラスメントが発生したときの対応枠組みを整備するところが増えている。
ハラスメントの対応プロセスとして基本的なのは次の5つである。
(1)相談・苦情の受付
(2)事実関係の調査・確認
(3)事実の判定
(4)解決策の決定と通知
(5)再発防止措置の実施
いずれも重要な取り組みだが、特に大事なのは(1)の相談・苦情の受付である。なぜなら、(1)での対応を誤ると、申立者の望まぬ方向へ事態が進んだり、プライバシーが守られなかったりして、トラブルが拡大するリスクが大きくなるからだ。ハラスメントが起きたときには初動が大切ということだ。
筆者の経験した例を2つ紹介しよう。
男性社員Aさんから、上司からパワハラを受けたとの申告が受付窓口である人事部長にあった。その男性社員は、かつて同僚とトラブルを起こしたことがある「問題社員」であった。そのことが頭にある人事部長は、ヒアリングの際に、あなたにも落ち度があるのではという態度で接し、Aさんの言い分を否定したり、加害者とされる上司をかばう発言をしたりした。迷った末に申告したのにそのような扱いを受け、会社に対する不信感を抱いたAさんは、以降、この件に関して会社に敵対的な態度で臨むことになった‥‥。
女性社員Bさんから、先輩社員からセクハラを受けたと申告があった。Bさんとしては、ことを荒立てず内密に進めてほしかったのに、窓口となった人事課長は、その意向を確認せず、面談後すぐに先輩社員を呼び出し、事実関係のヒアリングを行った。先輩社員は事実を否定するとともに、「無実を晴らす」ため独自に調査を始めた。このため、Bさんがセクハラの申告をしたことが社内に知れ渡り、さらにウソの申出をしたとの噂が広まった‥‥。
いずれのケースも、申立て後のヒアリングが不適切であったといえる。Aさんには、まず、相手の言うことを丁寧に聴くというカウンセリング的な対応が必要であったし、Bさんには、今後どういう方向で解決してほしいのかを確認する必要があった。また、プライバシー保護には万全を図るべきであった。
最初の段階でどう対応すべきか、基本的なことを理解していれば、その後のトラブルは防げたはずである。では、どのような対応をすべきか、ポイントを整理してみたい。
ハラスメント対応において、初動で必要な事項は次の3点である。
1.申立て者のケア
まずは申し立てた社員のケアを最優先することが重要である。
社員からハラスメントの訴えがあると、対応者から、「あなたにも問題があるとのでは?」とか、「神経質になりすぎでは?」というような発言をするケースがある。
中には、「会社なのだからそのくらい我慢しなきゃ」と自分の考えを押し付けたり、「私の若いころはもっとひどかった」と的外れの経験談を語り始めたりする者もいる。
これでは不安な気持ちを抱いている申立て者のメンタルをますます悪化させるおそれがある。
このような2次被害を防ぐために、まずは申立て者の気持ちを受けとめるとともに、心身の状態を確認することに注力すべきである。 精神的に不安定な状態となっていれば、医療機関などへの受診を促すことも必要となる。
なお、対応はなるべく複数の者で行い、申立て者と同性の人を対応者に含めることが望まれる。
2.申し立てのあったハラスメントの確認
プライバシーには十分に配慮すること、申立てにより不利益な取扱いをしないことを説明したうえで、申し立てのあったハラスメントの確認を行う。
確認するのは、ハラスメントの内容、被害の程度、証拠の有無、誰かに相談したか、管理者の対応、職場の状況などである。
このとき、申立て者の言い分に疑義をはさんだり、否定したりせず、まずはしっかりと耳を傾ける姿勢が求められる。質問をするときも、詰問調になったり、無理に聞き出したりしないようにする。
3.解決に向けての意向の確認
どのような解決の仕方を望むか、申立て者の意向を確認する。
ハラスメント対応をきちんと整備している企業では、通知、調整、調停、調査といった解決パターンを設けていると思うので、それに従って、いずれの方法を選ぶか、申立て者と一緒に検討する。
解決方法をパターン化していないのであれば、下記のように申立て者の匿名性、事実確認の有無、解決の仕方という3つの観点から、方向性を考えるとよいだろう。
申立ての匿名性 | 事実確認の有無 | 解決の仕方 | |
Ⅰ | 確保 | 基本的にしない | 加害者に注意を促す |
Ⅱ | 加害者に公開 | 加害者に行う | 注意・謝罪・配転等 |
Ⅲ | 必要な範囲で公開 | 加害者・関係者に行う | 謝罪・配転・懲戒処分等 |
このとき、とりあえずⅠで対応し、改善が見られなければ、ⅡやⅢに移行するという進め方でもOKだ。
また、被害が深刻と考えられる場合は、申立て者を休業させるなど臨機応変の対応が求められる。
ハラスメントの初動においては、このようにまずは申立て者の立場に立った対応が必要である。もちろん、これは最初の申立て者からのヒアリングにおいてのことであり、その後の加害者とされる社員への事実確認等では、加害者と決めつけず客観的な態度で進めるのはいうまでもない。