~面接のトリセツ~は、Vol.1「インシデントプロセス面接」、Vol.2「コンピテンシー面接」に続いて、Vol.3では「プレゼンテーション面接」を解説します。「プレゼンテーション面接」とは文字通り、候補者にテーマを伝えて面接官の前でプレゼンテーションをしてもらい、その内容や立ちふるまいなどから総合的に評価する面接手法です。
一般的な面接では、面接官が主導権を握り、質疑応答を行います。ただ昨今、面接対策セミナーやハウツー本が充実し、マニュアル通りの受け答えをする候補者が増加。企業は素の候補者を探る新たな面接手法を求めるようになりました。その一つとして「プレゼンテーション面接」は普及しました。
プレゼンテーションの形式は自由。つまり、候補者は自分なりに工夫してプレゼンテーションを行わなければなりません。そのため、質疑応答ベースの面接対策では十分な対応を取るのは難しく、候補者の地力が現れやすいとされています。一般的な面接と比べて、長い時間主体的に話さなくてはならないぶん、人柄や論理的思考力、表現力をより深く推し量れるのがメリットです。
「プレゼンテーション面接」は、民間企業だけでなく、公務員試験でも広く採用されているのも特徴です。東京都や大阪府、名古屋市など多くの行政が、選考過程の一つとして「プレゼンテーション面接」を実施しています。千葉県も2015年6月、「来年度に新設される職員採用上級試験の一般行政B区分で、専門試験を課さずにより人物を重視した『プレゼンテーション面接』を導入する」と、報道発表しました。見直しの狙いとして、「めまぐるしい社会情勢の変化などにも迅速かつ適切に対応できる多様な能力・経験を有する人材の確保」を挙げています。このように「プレゼンテーション面接」は、「マニュアル型の人材より、変化のなかでも対応力、実行力を発揮できる人材を採用したい」というニーズに応える面接手法として広まっています。
具体的な「プレゼンテーション面接」の実施方法
まずは、候補者にテーマを伝えます。事前に伝えたうえで面接に臨んでもらうケースもあれば、面接当日に伝えるケースもあります。事前にテーマを伝える場合は、パワーポイントなどのスライド資料を用意してくる候補者がいるため、スライドを映し出せる環境の有無も伝えておきましょう。このような環境がない場合は、スライド資料を印刷して配布するかどうかも伝えます。
テーマは「自己PR」「これまでの職務経験で学んだこと」「この会社で挑戦したいこと」などが一般的です。企画職や提案営業といった、プレゼンテーションを行う機会が多い職種の採用なら、その職種のケーススタディーをテーマにするのも手。たとえば「顧客に自社製品を導入してもらうための提案内容をプレゼンテーションしてください」という具合に、実務内容に沿ったテーマを与えます。
プレゼンテーションを行う時間設定は、3~10分程度とさまざまです。そのあとに、面接官からの質問に答えてもらう時間を15分程度設けます。
「プレゼンテーション面接」での候補者の主な見極めポイントは、以下の通りです。
そもそもプレゼンテーションの目的は、「限られた時間の中で情報をわかりやすく伝え、理解させ、動機づけさせること」です。そのためには、内容が論理的でなければ相手に伝わりませんし、声が小さかったり、早口で聞き取りづらかったりしても伝わりません。相手の目を見て話しているかどうかや、身ぶり手ぶりなど立ちふるまいによっても、伝わり方は変わってくるでしょう。ただし、プレゼンテーションの上手・下手だけで評価を決めないよう注意してください。なぜなら、プレゼンテーションには「慣れ」が大きく影響するからです。特に中途採用では、過去の職務経験上、プレゼンテーション慣れしている候補者と、そうでない候補者でアドバンテージが生じてしまいます。純粋にプレゼンテーションスキルを測りたい場合は例外ですが、上手・下手ばかりに気をとられないようにしましょう。
次に、実際の「プレゼンテーション面接」の事例をご紹介します。
●名古屋市 平成25年度 職務経験者採用試験
あなたが、これまでの職務経験を通して身につけた能力の中で、最大のセールスポイントとなる能力は何ですか。その能力について、「どのようにして職務経験の中で培ってきたか」、「その能力を、どのように本市の施策(具体的な本市の施策を一つ挙げる)に還元し、活かしていくことができるか」という2つの視点から、具体的にプレゼンテーションしてください。
候補者の能力を市(会社)の施策(経営方針、営業方針など)と絡めてアピールさせる、オーソドックスなテーマの一つです。候補者の能力を説明し、その能力と結びつけた施策が、論理的に無理なく関係しているか(論理的思考力)、プレゼンテーション内容が具体的かつわかりやすく伝わっているか(表現力、企画力、人間性)がポイントとなります。
名古屋市の事例では、候補者の能力と施策を結びつけてプレゼンテーションするように言及していますが、そこまで明確に言わなくても構いません。「これまでの職務経験で身につけた能力についてプレゼンしてください」とだけ書いた出題文でも、論理的思考力のある候補者であれば、自分がアピールしたい能力と、募集ポジションの課題とを結びつけてプレゼンテーションできます。反対に言えば、たとえ候補者がいちばん自信のある能力についてプレゼンテーションしたとしても、それが募集ポジションでまったく役に立たないものであったとしたら、その候補者は「論理的思考力が低い」「事前に市(会社)の情報を調べていない」とジャッジできます。
●大手メーカー
(自社独自のデータを開示し)これらのデータをもとに、どのような商品を開発し、どのように展開していくべきか、1時間でビジネスプランを考えて、プレゼンテーションしてください。
募集ポジションで発生する具体的な課題の解決をプレゼンテーションしてもらいます。候補者のこれまでの職務経験で得たスキルが、自社のフィールドでも通用するかどうか、応用できるかどうかを見極めるのに適しています。ビジネス経験が豊富な人材の選考や、専門性の高い職種の選考に適した事例といえます。プレゼンテーションされる施策の企画力とその実現性が、評価の重点テーマになります。
ケーススタディーを使った面接といえば、~面接のトリセツVol.1~で解説した「インシデントプロセス面接」も同じです。2つの面接手法は何が違うのでしょうか。
「インシデントプロセス面接」では、与えられた事例に関して、候補者が面接官に質問を繰り返し、情報収集しながら課題解決策を考えていきます。質問力、情報整理能力などによって、たどり着く課題解決策の質が大きく変わります。
一方「プレゼンテーション面接」では、最初に提示される情報以外に追加の情報はなく、候補者の経験や知識だけを頼りに課題解決策を考えます。情報が限定されるぶん、論理的思考力や企画力などが課題解決策の内容にはっきりと現れます。
「プレゼンテーション面接」実施のメリットは以下の通りです。
貴社の状況や募集ポジションに合わせて利用してみてください。
(文:HRレビュー編集部:高梨茂)