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住宅補助の廃止

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2015年09月04日

日本では不動産価格や家賃が高いこともあり、企業が給与として住宅手当を支給したり、福利厚生の一環として家賃補てんなどの住宅補助を行ったりしている。

これら住宅関連施策の特徴は、比較的規模が小さな企業でも実施しているケースが多いことである。厚生労働省の平成19年就労条件総合調査によれば、次のとおりである。

・1,000人以上  66.0%
・300~999人   62.7%
・100~299人  54.1%
・30~99人    44.6%

通常福利厚生制度といえば、大企業と中小企業との格差が激しいものだが、これに関しては例外といえる。

実施割合が多いだけでなく、費用負担も大きい。経団連の2013年度福利厚生費調査によると、法定外福利費に占める住宅関連費は48.9%で、1人当たり月額12,225円である。

そのため、昨今の厳しい経営環境にあって、住宅関連費は人件費削減のターゲットとなっている。やや古いデータだが、「2002年福利厚生・退職給付総合調査」(企業福祉・共済総合研究所)の「廃止・縮小したい制度」では、

1位:社宅
2位:独身寮
3位:住宅手当・家賃補助
4位:借り上げ社宅
5位:借り上げ独身寮

という具合に、ベスト5を住宅関連費が占めている。ちなみに「導入・拡充したい制度」には、ベスト10で見ても1つも入っていない。

前置きが長くなったが、今回は住宅補助の廃止について検討してみる。なお、住宅手当の廃止については、以前のコラムで触れたのでそちらを参考にしていただきたい。

さて、住宅補助の中身を整理すると、代表例は次のものである。

●借り上げ社宅を提供して、社員から家賃を徴収するもの
●社員が借りた住宅の家賃の何割かを補助するもの
●住宅を購入した社員に一定期間手当てを支給するもの

これらの住宅補助が賃金に当たるかどうかは支給の実態によるが、その廃止や減額が不利益変更になることは確かだろう。
したがって、労働契約法第9・10条の「就業規則による労働契約の内容の変更」に準じた取り扱いが必要で、不利益変更のためには、次の2点が求められる。

① 変更後の規則を労働者に周知させること
② 変更内容が、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的であること

このため、変更内容として一方的な制度廃止のみというのは、経営環境が相当程度悪化していないかぎりは難しく、何らかの代替措置が必要となろう。

代替措置としては、以下のものが挙げられる。

ア.他の福利厚生を充実させる
イ.住宅手当を充実させる
ウ.基本給や諸手当を増額させる

このうち、アは福利厚生費の枠内での転用であり、最も基本的な対応といえる。法定外福利費の中でも近年増加している育児関連やヘルスケアサポートの「財源」とする企業も見られる。
ただ、転用先の費目にもよるが、住宅補助の受益者と転用による受益者とが異なってしまうのは問題である。
そこで、アの場合には、カフェテリアプラン等により、種々の福利厚生メニューを選択できるようしておくのがベストである。

イは、住宅補助との関連で住宅手当を充実させるもので、すでにある住宅手当に統合するというイメージである。住宅補助と住宅手当とが併存している企業が取りうる選択肢だ。
住宅手当のない企業の場合は新たに設けてもよいが、近年の住宅手当廃止の流れからすると慎重な検討を要する。いったん賃金として制度化したものは廃止や縮小が困難になるからだ。
また、廃止の目的にもよるが、住宅に関連する給付であることは変わらず、問題先送りの感があるのは否めない。

ウは、これまでの補助分を、基本給や諸手当の原資とするものである。ただ、住宅補助は比較的短期的で、かつ対象者もそれほどは多くないこと、所得税の対象となること、割増手当算出の基礎額が増えること、設定の仕方が難しいことなどから、おすすめの方策とはいえない。

以上から、アの方策が最も現実的で社員の理解も得られやすいと考えられる。住宅補助を廃止するときは、まずは他の福利厚生への転用を軸とすべきであろう。

 

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