マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング部門 中村 健一郎
最近、人材の質の低下を嘆く声を耳にすることが多い。世代論、教育論、社会論、家庭環境等、様々な観点でも語られているが、私は商売柄、企業の採用や育成の悩みとしてよく耳にする。
巷間では、草食系男子、情報病という言葉を用い、「周囲の空気を読んで足並みをそろえる。平均的なところで無難に生きる。外見上の評価を特に気にし、周囲とのコミュニケーションに時間を消費する。」といった人物像が描かれたりもしている。
もし、組織の中で、
■経営者が人材の質や成長を心の底で信じておらず、
■中間のマネジャーが、不景気による環境変化の荒波に晒されて自信を喪失し、
■現場の社員が、周囲の空気を読んで、無難なところで生きようとし、自己の成長にコミットしていない
としたら、このデフレスパイラルを止めようがないではないのではないか。
「新しい価値を創造して、何としてでも価格下落を食い止め、反転上昇のスパイラル(連鎖)を生み出したい」
一昨年11月に、東芝の大角正明執行役常務が管轄するテレビ事業の今後についてコメントした際の言葉を借りるまでもなく、新たな価値を生み出さなくてはデフレの下降線は止まらない。経済のデフレスパイラルの背後には、本質的に人材のデフレスパイラルが関与していると私は思うのである。これを断ち切らなくてはならない。
既に、リーマンショック以来2年が経過。世界の中で、日本が、特に、厳しい低迷に晒され続けている。もちろん、実勢を十分に反映しているとは言い難い為替相場の問題もある。しかし、日本がこのショックから立ち直れないのは、「自身を、組織を、成長させ続けようとする」個人の絶対数の少なさのように思えるのである。
私は、世の中での経済政策を論じる前に、それぞれの組織において、経営者が自社の人材の質と成長を心の底から信じ、環境変化の荒波に立ち向かう決意をしたマネジャーを揃え、現場の社員に成長に向けたコミットメントを醸成する施策を本当に実行しているのかを問い続けたいと思っている。
実は、これを書きながら、バンクーバーオリンピックで、“史上初めて”トリプルアクセル3回を成功させ見事銀メダルを獲得した浅田真央選手の取組みと発言を描いた番組を思い出していた。今期、彼女は、コーチや専門家の言葉によれば、素人目には判らない高みを目指し、限界に挑み、それを乗り越え、そして成功させたのである。その中途で直面した成長の踊り場すらも乗り越えて!
成長の踊り場は非常に苦しいものである。そんな中、彼女は、一貫して「私は挑戦し続ける」という言葉を口にしていた。私は、大きな尊敬の念を抱くと共に、負けていられないと決意を新たにしたことを思い出す。周囲の声に迎合せず、非常に厳しい環境下にあって、成長思考を貫き通した彼女の姿勢に我々は多くを学ぶべきではないだろうか。
※本記事は2011年11月時点の記事の再掲載となります。