アチーブメント株式会社 採用コンサルタント 高木謙治
人事担当者が良かれと思って採用したアルバイトが、現場の社員やスタッフと衝突。「合わない」と言ってすぐにやめてしまい、現場から聞こえてくるのは「なぜこんな人材を採用したのか」という声……。そんな悩みに頭を抱える人事担当者は少なくないようです。では、人事と現場にギャップが生まれるのはなぜなのでしょう? 数百社にのぼる企業の採用コンサルティングを行ってきたアチーブメント株式会社のコンサルタント・高木謙治さんに、その理由と解決方法をお聞きしました!
現場が求める人材像にピタリと合うアルバイトを採用できたと思ったにも関わらず、現場から「他のスタッフと合わない」「きちんと働かない」「すぐにやめてしまった」と不満の声が上がってくることは少なくありません。
こういった時に現場の人が口にするのは、「採用した新人が現場にうまくなじまないのは、人事が現場を知らないせいだ。もし知っていたら、現場に適応できる良い人材を採れるはずだ」ということです。
このような話は、アルバイト採用だけに限ったことではありません。新卒・中途採用では、選考プロセスがアルバイトより多く、より丁寧に擦り合わせを行っているにも関わらず、同様の悩みを抱える人事は少なくありません。
つまり、雇用形態に関わらず、人事と現場の採用ギャップを生む根本的な原因は同じなのです。
面接で求職者の人格や能力、資質を慎重に見て採用したにも関わらず、現場からクレームが上がってくるのは、そこに「現場視点が欠けているから」です。現場になじみ、定着し、気持ちよく働いてくれる人材を採用するためには、人事担当者の“感覚”だけで採用してはいけないのです。
求職や採用は、しばしば「結婚」にたとえられますね。つまり、人事は求職者と現場のお見合いをセッティングする“結婚カウンセラー”のようなもの。採用もお見合いも、引き合わされた者同士がお互いの考えに共感し、意気投合した時にこそうまくいきます。
良い人事とは、相性の良い者同士を見抜き、上手な「マッチング」を生み出すことができる人のことを指すのです。
そんな“目利き”の人事になるコツは、以下の通りです。
◆デキる人事担当者はこれを実践している!
・現場に根ざす価値観や目指すビジョンを把握している。
・求職者に、現場の社員やスタッフ、社内の雰囲気を見せる機会を用意する。
・求人広告を出す前に、現場の社員やスタッフに見せておく。
“結婚カウンセラー”である人事は、いわば「現場の代理人」として、求職者に接することになります。求職者に現場の考え方を理解してもらうためには、人事が現場の価値観やビジョンなどをあらかじめ把握しておく必要があります。
現場では何に価値を見出しているのか。何を目標に働いているのか。こういったことを、人事と現場との間で共有しておくのです。もし、現場に確たる価値観やビジョンが存在しない場合は、明確にするように現場社員に投げかけてみるのもいいかもしれません。全員が共通の意識を持って働くことは、業務をスムーズに回すためにも大変重要です。
そして、その価値観・ビジョンに求職者が共感している、と判断できたら、“お見合い”は「人事が代理人として立ち合うステージ」から、「実際に現場の社員やスタッフと引き合わせるステージ」に進む、というわけです。
なお、事前に求人広告を現場に見せておくのも、現場と認識のすり合わせを行う上で効果的です。同時に、採用を人事任せにしている現場に、「自分も当事者だ」という意識を持ってもらうこともできますよ
。
次は、「現場の社員やスタッフと会わせる意味」についてお話ししましょう。ある人材を採用した時、現場Aではイキイキと能力を発揮できるのに、現場Bではイマイチ……ということは往々にしてあります。人がパフォーマンスを発揮できるかどうかは、職場で掲げられている理念や従業員の発言、態度、行動、考え方、価値観など、その環境が大きく影響するからです。
もし、環境に合わないのであれば、採用後ではなく採用前に気づいた方が、互いに不幸な結末を迎えずに済みます。だからこそ、求職者には現場やそこで働く社員やスタッフを事前に見せておき、どう感じるかを確認しておくのが大切なのです。
◆失敗する採用と成功する採用の違い(1)
●説明会や面接の場所
<失敗パターン>
「応募人数が室内に入り切らないから」「社内が雑然としているから」などの理由で、貸し会議室などを借りて説明会や面接を行う。
<成功パターン>
説明会や面接は社内で行い、現場で働く社員やスタッフの姿から社風を感じてもらう。
●選考プロセスに携わる人
<失敗パターン>
人事担当者が求職者と1:1で話しただけで採用を決める。
<成功パターン>
採用後に働くことになる現場の社員やスタッフと話す機会を設ける。面接では、利益への貢献度だけでなく、価値観・ビジョンに対する共感度の高さなどマッチングの観点で見るようにする。
とはいえ、現場を見せる時にも注意すべき点はあります。
それは、求職者と“お見合い”をする現場にも、しっかりと準備をしてもらうということです。
求職者が現場に来る日は、あらかじめそのことを社員やスタッフに知らせておきましょう。もちろん、無理に気取ったふるまいをしてもらう必要はありません。いつも通りで構わないのですが、例えば廊下ですれ違った時に、その人が求職者であることがわかれば、何気なく「面接なんですね。人事から聞いていますよ。がんばってくださいね」――こんな言葉をかけられるかもしれません。そうすれば、会社に対する印象は非常に良くなるはずです。
◆失敗する採用と成功する採用の違い(2)
●現場の紹介
<失敗パターン>
「社内通知が徹底していなかったため、スタッフらが求職者に対して無関心。現場の空気がギスギスして見える。
<成功パターン>
あらかじめ社内に通知していたため、スタッフらが求職者に声をかけたり、質問に答えたりと和やかなムードを印象付けられる。
もっと言えば、普段から社内の雰囲気が良くなるよう、気を配っておくのがベストです。人は、自分に合わない環境を敏感に察知します。「うちの現場は最近元気がないから、明るい人を入れたい」という現場の希望に沿って人材を採用しても、その人材が明るくいられない環境では、現場の雰囲気は変わりません。まず、自分たちが欲しいと思うような理想の人材に自らなる努力を、現場の社員やスタッフにしてもらわなければならないのです。
採用の場において、現場と価値観・ビジョンを共有し、求職者と現場を引き合わせることがいかに大切か、おわかりいただけたでしょうか? アルバイトであっても、新卒・中途採用であっても、採用を巡って現場と人事がもめている状況は避けたいもの。スタッフみんなが気持ちよく働けて、長く定着する環境があってこそ、業務はスムーズに回るのです。
ここまでは“人事対現場”という視点で話してきましたが、目的意識の共有が大切なのは現場のみならず、企業全体にも言えることです。本来ならば、企業全体でビジョン・目標を設定し、全スタッフが同じところに向かって努力している状態が一番望ましいのです。とはいえ、これは経営者の領分ですが(笑)。
ただ、これまで見てきたように、人事担当者にもできることはたくさんあります。たかがアルバイトの採用と油断せず、現場の社員やスタッフと連携を取り、時には経営者にも協力を求めながら、「みんなで採用したのだ」という意識を持てるように巻き込んでいきましょう。
提供:インテリジェンス「an report」
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