株式会社インテリジェンス 執行役員 横道 浩一
東日本大震災から1年が経過し、国内では徐々に復興が進みつつある2012年。国外では、中国での反日感情の高まりや欧州危機の問題などの暗いニュースもありました。今回は、2012年の採用市場を振り返った上で2013年の動向を予測するとともに、今後、質の高い人材を確保するために必要なことを、弊社執行役員の横道が語ります。
2012年の採用市場を振り返る場合、7月までと8月以降の時期に分けて考えるとわかりやすいと思います。リーマンショック以降、回復基調にあった景気は2011年の東日本大震災で一時的に減退したものの、2012年の上期はその揺り戻しによって内需が伸びました。外食業界では震災により中断していた出店計画を一気に再開したほか、小売・流通業界では震災による消費スタイルの変化や単身世帯の増加を背景とした中食ニーズの拡大に応えるべく、小型スーパーやコンビニの出店を加速しました。それに伴って採用ニーズが高まり、有効求人倍率は上昇を続けます。ピークの7月には、有効求人倍率(季節調整値)は0.83(※1)、パートだけを見ると1.13まで上がりました(※2)。まさに採用ニーズに沸いた上期、企業にとっては非常に人材を確保しづらい状況が続きました。
~下期は下降局面へ~
しかし、7月以降は震災からの回復期で伸びていた内需は息切れし、採用の勢いも減速し始めます。また、長引く欧州危機の中、日中関係の悪化、エコカー補助金の終了などが続いたこともあり、特に製造業では減産や工場閉鎖などが相次ぎました。これにより雇用は縮小、影響は工場周辺における飲食等のサービス業へも波及しました。こうして、有効求人倍率も徐々に下降トレンドへ向かいました。
では、2013年はどうなっていくのか? 現時点で発表されているさまざまなシンクタンクの経済見通しを統括して考えると、春ごろには世界経済の不振は底を打ち、緩やかな成長局面に入っていくと思われます。
国内を見ると、2014年からの消費税増税に伴う駆け込み需要が見込まれるほか、復興需要の本格化も想定され、内需も次第に高まっていくのではないでしょうか。
そうしたことを考慮すると、有効求人倍率(パート)は1.00くらいまでは下がると思いますが、一年を通して0.9~1.1くらいの間をずっと推移していくのではないかと思います。企業にとっては人材を採用しにくい状況が続くということになりますね。
上述のような状況下で、企業が採用活動を行っていくには、どのようなところに気をつけていけばよいのでしょうか。ここで注目したいのが、企業と求職者それぞれに見る最近の変化です。
現在、雇用者人口(役員を除く雇用者)が約5,000万人で、そのうち約1,700万人が非正規社員となっています。すなわち、3人に1人が非正規社員ということです。この数字からも想像できるように、労働市場における非正規社員の存在感や重要性は高まってきており、次第に正社員と非正規社員の業務や役割などの境界は、あいまいさを増しています。その結果、企業は非正規社員に対して“欲張り”になってきており、正社員並みのスキルや労働意欲を求めるケースも出てきました。
このように企業が求める求職者像と、求職者の意識が大幅に変わりつつある今、これまでと同じ手法のままでは企業が良い人材を確保するのは難しいでしょう。求職者に対する要求レベルを高めるのであれば、企業側もそれ相応に、求職者がメリットを感じるような「働く環境」を整えなくてはならないということです。
例えば、あるファーストフード店では、アルバイトのために店舗の近くに必ずマンションの一室を用意しています。サークルの部室感覚で、アルバイト達がそこに集まっていつでも交流できるようにし、スタッフ間の良好な関係構築を支援しているのです。
また、あるカフェでは、アルバイトに対してもしっかりとした教育を行うため、「マナーが身につくから、就職にも有利」といった理由で、学生たちから常に人気を集めています。
働く環境を整えるという点では、評価制度をしっかり整えることも重要です。ちゃんと評価されている、そしてそれが報酬に反映されると思えば、スタッフのモチベーションも上がり、職場に活気が生まれますから。
ここに挙げたように、アルバイト経験を通して得られる給与以外のメリットを、いかに打ち出していけるか。これが今後、採用力に差を生むことになると思います。
企業を取り巻く環境の変化は加速度的に複雑化し、経営は過去の成功手法に頼るだけでは立ち行かなくなっています。同様に、採用もまた「時給を高くすれば良い人材が集まる」といった過去の成功体験だけに縛られることなく、常に変化する求職者の志向性の変化を敏感にとらえ、対応していくことが重要になっているのです。