経営人材をどのようにして見極めていくのか
日本企業の人事が最も重要視し、しかし取り組み成果が最も不十分だと認識しているテーマが、次期経営人材の選抜と育成である。このテーマに関してコンサルタントとして長きにわたり携わってきた身としても、まだまだ力不足を感じる次第である。
HRプロが発表した最新の「人事白書2014」では、次世代リーダーの育成(対象者は主に事業部長~課長)に関して、大企業では54%の企業が取り組んでいることが明らかになっている。10数年前が30%弱であったことと比較すると、およそ倍近く増えている。
一方で、私が特に気になった調査結果が次世代リーダー候補者の選定基準方法である。「評価結果による選抜」の41%に続き、「担当部長の推薦」や「役員の推薦」がそれぞれ35%近くあり、その他を大きくひき離す。気になる点とは次の2つである。第一に、これらの選抜方法が言うなれば「社内基準」ということである。社内基準以外でのモノサシとも言える「(外部の)アセスメントツールによる選抜」に関しては、わずか8%であった。そして第二点目が、それゆえに「過去基準」であることである。
「三種の神器」のひとつで、日本企業の特徴である終身雇用を前提とした、あるいは過去の成功や実績が将来にも通じるビジネスモデルやビジネススキルを前提としたもとでは、社内基準による選抜が一定の有効性をもっていたが、非連続的なビジネス環境変化にあり、グローバル化が加速し、人材の流動化も激しさを増す昨今においては、そろそろ限界にきていることがわかる。
過去から現在までの実績を根拠に、あるいは社内で浸透しているモノサシによって、将来の再現性を推測する選抜のあり方そのものが否定されるものではない。しかし、例えばこれまでとは異なる業種から優秀な外部人材を採用し、育成していく、あるいは海外拠点でローカル人材を積極的に雇用していくなど、いわば同質ではない多様な人材を前提とした人的資源管理へと変化していく過程で、将来の経営人材を選ぶ基準がこれまでと同じでよいと考えることには無理がある。
多国籍人材を擁する米国や英国では、自社では持ち得ない客観的なモノサシとなる外部のアセスメントツールによってリーダーを選抜することが、当たり前となっている。日本では入口で、主に新卒を対象に性格適性検査によってふるいにかけて、採用の可否を決定することが一般的であるが、上級層候補を見極めるためのアセスメントの実施は、前述のとおりわずかである。アセスメントにも種々あるが、一般的に客観性が高い順にあげると、適性検査、アセスメントセンター、多面観察、行動インタビューとなる。
例えば米国のある大手企業の一例をご紹介すると、役員クラスの採用を進める際に、職務経歴は文句なし、多くの役員面接でもOK、最終決定にアセスメントを実施したが、結果が好ましくなかったので採用しなかった、ということが実際にはよくある話である。会社の将来を託す重要なポジションの採用だからこそ、過去の実績といった顕在的に表現されている情報よりも、経営者としての資質にもとる価値観や保有能力といった潜在的な情報のほうが、重要視されるのである。
ここまでの話は経営人材の見極め方についてであるが、選抜のあり方が重要である理由は実は、経営人材育成のあり方に大きな影響を与えるからに他ならない。
それでは優れた経営人材は、いかにして生み出されるのだろうか。
経営人材はいかに生み出されるのか
経営人材が一朝一夕で生み出されるものではないことは言うまでもない。GEやIBM、P&Gといった経営人材の育成に力を入れてきた企業の事例からも、それ相応の時間を費やしていることがわかる。一例として、経営人材に育てあげるために候補者にどのような機会を与えてきたかというプロセスをまとめると、大体次のように集約できる。
つまり優秀な経営人材は、意図的、計画的な「仕事経験」 から生み出されるのである。よく知られる調査にロミンガー社の「70:20:10の法則」がある。優れたリーダーが生み出される機会は、仕事上の経験からが7割、上司や周囲から学ぶことが2割、研修から学ぶことが1割。数字の比率だけで見ても、やはり経験が最も大きな要因となる。
少しでも多くの可能性ある人材に、意図的、計画的に経営者への道筋となる仕事経験をさせることが有効ということになるが、2つの物理的な条件をクリアしなければならない。時間と人数である。これだけ大きな仕事経験をさせるということは、それ相応の期間を要することと、そのような経験を与える仕事の機会がないと成立しないからである。
したがって可能性のある人材を早い段階で絞り込み、少しでも若いうちに多くの経験を積んでもらうことが必要である。だからこそ、見極めのためのアセスメントを実施する意味合いが出てくるのである。その見極めの方法は、将来の経営人材としての潜在的可能性を測ることができる、精度の高いアセスメントでなければならないのは言うまでもない。
また、能力開発の観点でも30歳前後での見極めが、本人にとって望ましいことが、慶應義塾大学ビジネススクールの高木晴夫教授の研究からも見いだされる。「拡大」の時期は自分の可能性を試して生きる方向を拡げる生き方をする時期で、「収束」の時期は可能性を試した後に自分の強み、弱み、得意領域、不得意領域が見えてくる。自分自身の棚卸しの時期とも言える。
※高木晴夫教授の研究をもとに筆者作成
あるいは、ジョン・ゼンガー氏とジョゼフ・フォークマン氏が現役のリーダー3万人の360°評価データ25万件を分析したところ、極めて高い業績をあげられるリーダーはリーダーシップ・コンピテンシー16種類のうち、すべてが最高のスコアをとっているのではなく、特定の極めて高いスコア(人によって異なる)が3~5個揃っているだけである、という結論にいたった。
早い段階で自分の強みを知り、その強みにさらに磨きをかけることで高いパフォーマンスを発揮することが可能になるということである。弱点がないからではなく、特定の飛び抜けた強みがあるからこそ可能なのである。日本企業はこれまで平均的な人材像を前提とした育成を続けてきたため、とかく弱みの克服を重要視した育成、減点主義にもとづいた評価をしてきた感がある。
求められるリーダー像そのものにも、時代の変化が影響を与えている。
※この記事はインテリジェンスHITO総合研究所WEBサイトからの転載です。メルマガも配信中
<執筆者紹介>
佐々木 聡(株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 エグゼクティブコンサルタント)
株式会社リクルート入社後、人事考課制度、マネジメント強化、組織変革に関するコンサルテーション、HCMに関する新規事業に携わった後、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社にてマネジメントコースの開発にコンサルタントとして従事。自動車会社、メガバンク、通信会社などリーダーの選抜・育成を中心としたプロジェクトをリードする。その後、株式会社ヘイ コンサルティング グループにおいて人材開発領域ビジネスの事業責任者。2013年7月より現職。