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「働くこと」基礎概念講座6-2 ~「富士山」の上に「太陽」を昇らせよ

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2014年12月07日

「結果とプロセス」どちらが大事か[中]


私が行っている研修のサービスの中で、『キャリアMQ』という診断ツールがある。これは個々の従業員の働くマインドや価値観がどんな傾向性を帯びているかを、65の設問に答える形で判定するものである。その中に次のような一問がある。あなたは、AとBのどちらの考え方に近いだろう───?

 

  A;
  「多少の無理や違和感があっても、
   組織と合意して決めた業務目標をクリアするところに
  働き手の成長がある」。

  B;
  「仕事はやりがいや納得感を最優先に設計されれば、
   結果は後から付いてくるものだ。
   無理な目標設定はかえって働き手のモチベーションを下げてしまう」。

 

Aは「形ある成果を出すこと」を上位に考え(=結果重視)、Bは「きちんとプロセス(過程)を整えること」を上位に考えるもの(=プロセス重視)といえる。
例えば、あなたがいま、いつも厳しい数値目標達成に走らされる部下であれば、「私は断然、Bです」と答えるだろう。しかし、もし自分が経営危機に陥っているベンチャー企業の社長だったらどうだろう。そのとき「私はBです」などと悠長なことは言ってはいられない。

実際のところ、このAとBの回答割合はどうなっているのか。私の顧客企業からデータを取って算出したところ、図のようになった(詳細は拙著『プロセスにこそ価値がある』メディアファクトリー新書)。

6-2a 結果とプロセス

 

一般社員では人数のうえで、ほぼ7割(68%)が「プロセス重視」である。中間管理職となると、状況は逆転して「結果重視」(52%)に振れる。これは経営側に寄っていけばいくほど、結果=利益を出さなければ、会社が回っていかないことの責任意識が強くなるためだろう。あるいは、若い者をヘタに甘やかしてはだめだ、試練をもって成長させなければならない、といった年配者独自の考え方があるのかもしれない。

しかしここで注目すべきは、結果重視とはいえ、中間管理職のなかで「プロセス重視」とする人数の割合は48%であり、半数に近いのだ。これはおそらく、彼らもまた組織のなかでは上司を持つ身であり、「結果を出せ」のプレッシャー下にある身だからとも言える。

「結果とプロセス」のどちらが大事か?───は、とても悩ましげな問題である。「結果もプロセスもどちらも大事」と言ってしまうことは簡単だが、それだけで済ませてしまうと思考や意識が発展していかない。このテーマを深く考えることは、結局、「働くとは何か?」「仕事の幸福とは何か?」につながっていく。

 

 私が顧客企業の人事担当者といろいろと討議をするとき、頻繁に出てくる職場問題の一つが、

  ───「多くが『目標疲れ』している」ということである。

「目標疲れ」とは、毎期毎期、個人に課される数値目標、担当部署が掲げる数値目標を達成せよというプレッシャーに疲れることである。確かに、目標どおりに結果が出れば、達成感があってうれしいし、その努力は給料にも反映されることになる。だが、昨今の経済は必ずしも右肩上がりではなくなり、単純に対前年何パーセント増という目標を立てて結果を出すことが難しくなっている。成果主義制度のもとの「結果を出さなければ」という恒常的な精神的負荷はますます一人一人の社員を悩ませている。

私もサラリーマン時代の経験で知っているが、思うとおりの結果が出ないときは気分が落ち着かない。胃も痛くなるし、頭もさえない。上司との会話もぎこちなくなるし、自分が何かフワフワと漂流している感じで、「このままの状態でいいのかな」と不安にもなる。ましてや年次が上がってきてチームリーダーや管理職ともなれば、今度は自分が目標を部下に課さなければならなくなる。そうしたストレスが「サザエさん症候群」──日曜の夕食時、テレビからあの番組のテーマ曲が流れてくると気分が重くなる──を呼ぶことにもなる。

私が研修の場で「目標疲れ」した若年層社員に見せるのが、次のAさん・Bさん、2人の働き様の図である。

6-2b 結果とプロセス

 

Aさんの状態は逆台形である。とても不安定で、いまにも倒れそうな感じだ。なぜなら、目標が重くのしかかっていて、自分の能力と時間をどう使うかというプロセスが小さくしぼんでいるからだ。こういうあっぷあっぷの状態で、なんとか日々の仕事をやりきっている人が、いまの職場に増えている。仕事が「しんどくてツライ」という心理モードである。

他方、Bさんはとてもどっしりとした形になっている。言ってみれば「富士山の上に太陽が輝いている」状態だ。プロセスが力強く土台をつくり、そこから目標へとつながっている。そして目標の先に目的がある。「目標」と「目的」という言葉は混同して使われがちだが、目標とは単に成すべき数量や状態を言い、目的はそこに「~のために」という意味が加わったものである。Bさんの図で注目すべき点は、上で輝いている目的(=それをやる意味を含んだもの)がモチベーション・やる気を起こし、プロセスを刺激していることだ。

人間は意味から力を湧かせる動物である。だから、結果を出すことのプレッシャーが多少あったとしても、自分のやることに意味を見出していれば忍耐力と継続力をもって頑張ることができる。その力は知恵を豊かにし、プロセスを育む。そして最終的に結果につながっていく。すると、また次の目標に向かっていける。「しんどいけど楽しい。もっと挑戦してみよう!」という気持ちになれるのはこういう好循環がはたらくからである。

  Aさんはいわば、「目標に働かされる働き様」で、
  Bさんは、「みずからの目的に生きる働き様」と言っていいだろう。

「結果とプロセス」どちらか大事かという問いを考えるとき、第三の概念として「目的」を抜きにしてはいけない。何のための「結果を出すこと」なのか、そして「プロセスをつくること」なのか。何のためという目的のもとに、結果やプロセスは手段としてあるからだ。

実際、私は研修の場で、「結果とプロセス」どちらか大事かというグループディスカッションを行っている。すると、堂々巡りの議論になるか、「どちらも大事だね」という表面レベルの議論で終えてしまうケースがたくさん出る。そこで私は受講者に、「抽象的な概念としての『結果・プロセス』ではなく、みなさんが日々追っている結果・プロセスを思い浮かべてください。その結果・プロセスは、具体的に何のためのものなのでしょう?」と設問をしなおす。具体的な目的を念頭に置くことで結果とプロセスのとらえ方が変わったり、抽象論ではなく具体的な議論として深まったりと、ディスカッションは一気に様変わりする。場合によっては、自分が目的不在の中で、結果とプロセスを追っていたことに気づく人も出てくる。それはそれで一大発見である。

結果とプロセス、そして目的。職場でみながじっくり考えてみたいテーマである。
〈合わせて読みたいグループ記事〉
○6-1:「結果とプロセス」どちらが大事か[上]
○6-2:「結果とプロセス」どちらが大事か[中]~富士山の上に太陽を昇らせよ
○6-3:「結果とプロセス」どちらが大事か[下]~「成功」志向から「意味」志向へ

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