マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング
アソシエイトコンサルタント 安尾 真明
大学や前職の同期など、気の置けない友人と飲んでいるとき、近況報告も含めてふと仕事の話題になることが多い。同期は社会人になって早ければ10年程度、修士/博士卒であっても5年程度の期間が経っており、一定領域で経験を積んで、仕事が楽しくなってきた、という頃合いである。一通り近況を話すと、今後キャリアをどう積んでいくか、という話に花が咲く。周囲には既に転職を経験した友人もちらほらいて、環境が変わってどのようなことを経験しているのかを聞くことが楽しい。
キャリアという言葉は人によって指していることが異なるため、諸説ある定義から抜粋して「職業人生に係る活動全体を通じて担う職務の連続」と本文中では位置付けておく。そうすると、異なるキャリアを積むということは、転職や、職業は同じくして会社を変える転社など、働く場所を明確に変えることは当然含まれる。もう少し小さい範囲では、社内の異動や、プロジェクトベースで仕事が変わるような働き方の人にとってはプロジェクトが変わることも含まれると考えてよいだろう。
冒頭にもあるが、社内での異動は意図せずに引き起こされ得るものの一つであるし、組織再編や部門の買収・売却等は個人として如何ともし難い環境変化として発生することであるが、最早珍しいことではない。
内的なものとしては、仕事をする中で自分が貢献する領域を変えたいと感じたり、ライフスタイルを変えたいという仕事以外の要因から影響を受けたりすることもあるだろう。
私の友人の年齢層を前提とすると、今後の職業人生は、会社勤めの定年で辞めたとしても30-40年はある。どこかでキャリアの変化点が訪れる可能性は高いのだ。それであれば、いつかはキャリアを変えるということも選択肢として持ち、自分にとってよりよいキャリアを積むための心づもりをしておくというのは悪くは無い、と著者は考えている。
* 働くひとのためのキャリア・デザイン(PHP新書)
また、このサイクルを善循環として回すには4段階全てがうまくいく必要があるが、自分の計り知れない影響も考えると難しい。ただ善循環を回すことができる可能性を少しでも上げるために、少なくともこの第1段階だけは意図的に備えておくのがよいのではないだろうか、というのが書籍を読んで感じたところである。
人事制度設計支援をさせて頂いているとき、評価は等級や報酬に比べて蔑ろにされがちである。ただ、自分が今どこにいて、今後どこに向かえばいいのかを知るためにはとても重要な位置づけであり、第3段階以降(順応、安定化)のサイクルには欠かせないことは、想像に難くない。
補足までに、今まさに佳境であろう新卒採用に視点を移すと、第1段階をスムーズにクリアするための上記内容が重要であることを示唆する調査があった。労務行政研究所が2013年7月に公表している「入社3年で離職する新人のリアル」調査レポート(調査元はリクルート マネジメント ソリューションズ)である。入社3年以内に転職した人のうち、入社後にネガティブギャップがあると回答した人が約5割(転職していない人では約3割)、配属後の適応感が無いと回答した人が約6割(同約4割)である。これはまさにサイクルの第1段階、第2段階に当たる悪循環が離職にも影響すると言えるだろう。
当たり前だが、キャリアの積み方は100人いれば100通りあるものだ。ただ、こういった抽象化されたものを辿りながら、改めて自分の、もしくは社員のこれまでの轍を振り返り、現時点の居場所を知ることで、これからのキャリアを意識的に想像してみるというのは、今を充実させるためにも悪くないのではないだろうか。と今度友人たちに説明してみようと思う。
組織変革・グループ組織再編時における人事制度設計・導入支援、組織・人事デューデリジェンス等のプロジェクトに参画。
神戸大学 理学部 化学科卒、同大学院 自然科学研究科修了。デロイトトーマツコンサルティングを経て2011年より現職。