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意識的にキャリアを見つめなおす

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2014年10月21日

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング

アソシエイトコンサルタント 安尾 真明

大学や前職の同期など、気の置けない友人と飲んでいるとき、近況報告も含めてふと仕事の話題になることが多い。同期は社会人になって早ければ10年程度、修士/博士卒であっても5年程度の期間が経っており、一定領域で経験を積んで、仕事が楽しくなってきた、という頃合いである。一通り近況を話すと、今後キャリアをどう積んでいくか、という話に花が咲く。周囲には既に転職を経験した友人もちらほらいて、環境が変わってどのようなことを経験しているのかを聞くことが楽しい。

キャリアという言葉は人によって指していることが異なるため、諸説ある定義から抜粋して「職業人生に係る活動全体を通じて担う職務の連続」と本文中では位置付けておく。そうすると、異なるキャリアを積むということは、転職や、職業は同じくして会社を変える転社など、働く場所を明確に変えることは当然含まれる。もう少し小さい範囲では、社内の異動や、プロジェクトベースで仕事が変わるような働き方の人にとってはプロジェクトが変わることも含まれると考えてよいだろう。

キャリアを考える、ということへの反応
転職する友人も増えていく一方で、転職という言葉にネガティブな反応を示す(示し続けている)友人もいる。極端な場合だと、キャリアを自分で選択する、ということ自体に背徳感のようなものを伺えることもある。その背景は「苦労して内定をもらった(せっかく採用してもらった)」「どこに転職できるのか分からないから不安」ということがあるらしい。前者はいわゆる一流と呼ばれる大企業、後者は定型的な作業を主とする業務を担当している人に多いという所感がある。別にこの姿勢自体が良い悪いということではない。もちろん今いる環境に満足している場合は全く問題ない。ただ、そうでない場合もある。キャリアの方向転換をするタイミングがいずれか訪れる、という可能性そのものを考慮せず、自分の選択肢から外しているということが、もったいないと感じるのである。

 

誰もがキャリアの転換点について備えておくべき
キャリア転換のタイミングとしては、外部環境により強制的に引き起こされるものもあれば、内的なものもある。

冒頭にもあるが、社内での異動は意図せずに引き起こされ得るものの一つであるし、組織再編や部門の買収・売却等は個人として如何ともし難い環境変化として発生することであるが、最早珍しいことではない。

内的なものとしては、仕事をする中で自分が貢献する領域を変えたいと感じたり、ライフスタイルを変えたいという仕事以外の要因から影響を受けたりすることもあるだろう。

私の友人の年齢層を前提とすると、今後の職業人生は、会社勤めの定年で辞めたとしても30-40年はある。どこかでキャリアの変化点が訪れる可能性は高いのだ。それであれば、いつかはキャリアを変えるということも選択肢として持ち、自分にとってよりよいキャリアを積むための心づもりをしておくというのは悪くは無い、と著者は考えている。

 

常にキャリアについて考えなければいけないのか
では意図的にキャリアを積むことへの関心が薄い場合に、いつも自分のキャリアをどうすべきか考えるような状況に変化しなければいけないかと言えば、そうとも思わないというのが著者の主張である。キャリアを積むということは、当然自分が持っている資源(時間)を投資することが必要になる。投資主体を組織に置き換えて考えると、資源配分を考えることは戦略を考えることとほぼ同義であり、この戦略が毎日変わるようなことがあればとんでもない組織だと誰もが考えるであろう。個人でも同じことが言える。日々そのようなことを考えて仕事に取り組んでいては、ろくに集中もできず、本末転倒である。また、キャリアのゴールを明確にして、計画を立て、無駄なくキャリアを積むというのも言うのは簡単だが、そんなことは到底不可能であることも、共感して頂ける(著者が特別怠惰なわけではない)だろう。つまり、キャリアの転換点になりそうな時だけ、もしくは転換点を迎えた時だけは意図的に方向性を決め、あとは置かれた環境に身を任せるというのも良いと思う。ということを書きながら、その考えに近いメッセージを発していた書籍を思い出した。経営学の中で、人に係るトピックを主たる研究対象としている金井壽宏博士の一冊*である。

* 働くひとのためのキャリア・デザイン(PHP新書)

 

キャリアをデザインするタイミング
著者が興味深かったのは、その書籍の中で引用されているNigel Nicholsonのトランジション・サイクル・モデルである。これはキャリアのサイクルを4段階に抽象化したものであり、第1段階:preparation(準備)、第2段階:encounter(遭遇)、第3段階:adjustment(順応)、第4段階:stabilization(安定化)から成るとしている。詳細は書籍を参照頂きたいが、着目したい内容は、第1段階が不十分だと、今後迎える職業人生に過度に期待しすぎたり、不安になったりすることで、後段のサイクルまで影響し、悪循環に陥りやすくなるということである。

また、このサイクルを善循環として回すには4段階全てがうまくいく必要があるが、自分の計り知れない影響も考えると難しい。ただ善循環を回すことができる可能性を少しでも上げるために、少なくともこの第1段階だけは意図的に備えておくのがよいのではないだろうか、というのが書籍を読んで感じたところである。

 

人事がサポートできること
このメールマガジンの読者の方の中には企業組織の人事をご担当されている方もいるかと想定している。人事としては、組織が求める人材がサイクルのstabilization(安定化)の段階に到達しくれることが重要であろう。このサイクルが最終段階に行くまでに人事が係れること、という視点でも書籍内に述べられている。代表的なものとして、第1段階では仕事の現実をありのままに知らせること、第2段階では仕事への配属と訓練、第3段階では即座のフィードバック、第4段階では目標設定、役割の進化の評価、などが挙げられている。

人事制度設計支援をさせて頂いているとき、評価は等級や報酬に比べて蔑ろにされがちである。ただ、自分が今どこにいて、今後どこに向かえばいいのかを知るためにはとても重要な位置づけであり、第3段階以降(順応、安定化)のサイクルには欠かせないことは、想像に難くない。

補足までに、今まさに佳境であろう新卒採用に視点を移すと、第1段階をスムーズにクリアするための上記内容が重要であることを示唆する調査があった。労務行政研究所が2013年7月に公表している「入社3年で離職する新人のリアル」調査レポート(調査元はリクルート マネジメント ソリューションズ)である。入社3年以内に転職した人のうち、入社後にネガティブギャップがあると回答した人が約5割(転職していない人では約3割)、配属後の適応感が無いと回答した人が約6割(同約4割)である。これはまさにサイクルの第1段階、第2段階に当たる悪循環が離職にも影響すると言えるだろう。

当たり前だが、キャリアの積み方は100人いれば100通りあるものだ。ただ、こういった抽象化されたものを辿りながら、改めて自分の、もしくは社員のこれまでの轍を振り返り、現時点の居場所を知ることで、これからのキャリアを意識的に想像してみるというのは、今を充実させるためにも悪くないのではないだろうか。と今度友人たちに説明してみようと思う。

 

 

組織変革・グループ組織再編時における人事制度設計・導入支援、組織・人事デューデリジェンス等のプロジェクトに参画。

神戸大学 理学部 化学科卒、同大学院 自然科学研究科修了。デロイトトーマツコンサルティングを経て2011年より現職。

 

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