仕事を進めるスピードは「ゆっくりとした速さ」から「全速力」まで、人によりさまざまである。ホワイトカラーの皆さんは、普段、どの位のスピードで仕事をしているだろうか。
仕事の速さをコントロールできるホワイトカラー
たとえば、上司から「クライアントに提出する書類を “4時間後” までに作成して、提出してほしい」と命じられたとする。しかしながら、その書類はあなたの力であれば “3時間” で作成して、提出が可能である。上司の指示による書類修正の時間を考慮しないとした場合、あなたはその書類を何時間後に上司に提出するだろうか。ある方は “4時間後” までと言われたのだから、“4時間後” に提出をするであろう。また、ある方は “3時間” で作成ができるのだから “3時間後” に提出をするかもしれない。なかには “3時間” あれば作れる書類であるが、何とか “2時間半” で作成して提出しようと試みる方もいると思われる。
このように、ホワイトカラーの方が仕事を進めるスピードは、特殊なケースを除き、ある程度自分の意思でコントロールできることが多い。つまり、どの位の速さで仕事をするかの「選択権」は仕事を遂行する本人にあることになる。日本人のホワイトカラーは労働生産性が低いと言われて久しいが、大きな原因のひとつがこの「仕事を進めるスピードを自分の意思でコントロールできる」点にあると思われる。
もちろん、“3時間” で作れる書類を何とか “2時間半” で提出しようと考える社員ばかりであれば、労働生産性の問題がこれほど大きくクローズアップされることはないかもしれない。しかしながら、“4時間後” までと言われたのだから、“4時間後” に提出をすればよいという仕事の進め方が多いのが現実であろう。
そのような仕事の進め方が多くなる理由は、わが国の労働法制が “時間” に対して対価の支払いを求める仕組みであることによる。つまり、「ゆっくりと仕事を行うことで時間外労働が発生すれば、時間外手当の支給により給料額が増える」というのが、現在の日本企業における原則的な給料支払いの仕組みである。ゆっくりと仕事をしたほうが収入増に繋がるため、“3時間” で作れる書類を “2時間半” で提出しようという思考に至りづらいわけである。
全速力で仕事をしていると「新しいチャンス」に恵まれやすい
しかしながら、“3時間” で作れる書類を何とか “2時間半” で提出しようとする仕事の仕方に何のメリットもないのかといえば、決してそのようなことはない。たとえば、仕事を任せる立場から見た場合、“3時間” で作れる書類を “2時間半” で提出しようとする社員に対しては、「新しい仕事」「チャレンジングな仕事」を任せたいものである。そのため、スピーディーに仕事を行おうとしている者には「新しい仕事」「チャレンジングな仕事」が集中する傾向にあり、仕事を通じて自身の大きな成長が実感できることになる。反対に、“3時間” で作れる書類を “4時間” で提出する社員に対して、「新しい仕事」「チャレンジングな仕事」を任せようと考える上席者は存在しない。
また、“3時間” で作れる書類を “2時間半” で作成するためには、さまざまな創意工夫が必要になる。そのため、スピーディーに仕事を行おうとしていると、通常業務を遂行する過程からであったとしてもビジネススキルの向上が見込める。反対に、“3時間” で作れる書類を “4時間” で提出している社員のビジネススキルが向上することは決してない。
パフォーマンスの高い社員と低い社員にはさまざまな相違点が存在するが、そのひとつが「仕事のスピード」「時間管理」に対する姿勢である。パフォーマンスの高い社員は「何とか相手の期待を上回ろう」という思考が強いため、“3時間” で作れる書類を “4時間” で提出するという発想を持つケースが少ない。そのため、新しい仕事のチャンスに恵まれることが多く、一層のハイパフォーマンスを実現できるという “好循環” に恵まれやすい。
しかしながら、パフォーマンスの低い社員が “3時間” で作れる書類を “2時間半” で作成しようという発想を持つケースは極めて少ない。したがって、新しいチャンスに恵まれることが少なく、仕事を通じた成長を実感することも稀である。その結果、「残業をして給料を増やそう」という発想からなかなか抜け出せないという “悪循環” にはまりがちである。皆さんの「仕事のスピード」はどの程度であろうか。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)