年金機構から125万件の個人情報漏洩、と報道されると、それを詐欺のネタに使おうとする不審電話が相次いだ、というニュースが、すぐに流れてくる。
個人情報を狙っている犯罪者は多い。彼らは、来年から利用が始まるマイナンバーで紐づけられる個人情報(マイナンバー法では、特定個人情報という)を抜きたい、と、すでに知恵を絞っていることだろう。
個人情報を狙っている犯罪者は多い。彼らは、来年から利用が始まるマイナンバーで紐づけられる個人情報(マイナンバー法では、特定個人情報という)を抜きたい、と、すでに知恵を絞っていることだろう。
ネット上の「占い」「診断」と個人情報
ところで、Facebook を利用している人ならば、「ほにゃらら占い」「なんとか診断」などのアプリを何度も目にしたことがあるはずだ。Facebook だけではなく、ネット上にはこの手の無料の占い・診断がごろごろしていて、氏名や生年月日を入力させるものも多い。
氏名・生年月日は個人情報である。だが、本人が提供することに合意したのであれば、占いサイトが取得しても、法的には問題ない。また、事前に本人の同意があれば、個人情報を第三者に提供する、たとえば、名簿業者に流すことも違法ではない。
そのようなサイトで個人情報を集めてマーケティングに使っていることもあるのだが、個人情報の提供に敏感な人でも、占いというのは案外盲点になってしまうようだ。
占いのときは、正確な本名や生年月日を入れないと意味がない。相性占いだと、自分の好きな人の氏名や生年月日まで入れてしまったりする。
Facebook の診断アプリは、本人だけでなく、友人の個人情報まで取得してしまうものもあり、かなり以前から警鐘を鳴らされているのだが、いっこうに下火にならない。
タダで占いを利用しているつもりが、実はタダで、自分の個人情報だけではなく、友人の個人情報まで業者に渡している、という状況なのである。
「マイナンバー占い」で特定個人情報を取得できるか
では、マイナンバーを含んだ氏名や生年月日などの個人情報(特定個人情報)を、このような占い・診断で、本人から合法的に提供してもらうことは可能だろうか。マイナンバーとは、マイナンバー法に基づき、日本に居住しているすべての人に割り振られる12桁の番号だ。今年10月から順次本人にその番号が通知される。
もしも、ネット上に「マイナンバー占い」というものが設置され、「あなたのマイナンバーと氏名・生年月日を入力すれば今年のあなたの運勢がわかります」と謳っていたとする。
「マイナンバー占い」のサイトを設置した側からすると、不正アクセスなどのめんどうなことをする必要もなく、専門知識がなくても、ごく簡単な技術で、本人の同意を得てマイナンバーを集めることができる。
だが、これは違法なのである。
マイナンバーを含んだ特定個人情報となると、たとえ、番号の持ち主であろうと、自分の番号なのだから、自分の好きに利用する、というわけにはいかない。
マイナンバー法では、マイナンバーの利用範囲は、税・社会保障・災害対策の3分野に限定されている。それ以外の目的で、他人のマイナンバーを取得することは認められていない。
占い・診断というのは、マイナンバーを利用できる分野ではないから、たとえ本人が同意していたとしても、マイナンバーの入力を求めることは、法的に認められない。
そのようなサイトがもしできたとしても、サイト設置者は、すぐに手が後ろに回ってしまうことになるだろう。
マイナンバー法には、重い罰則が定められており、「人を欺き、人に暴行を加え、人を脅迫し、または、財物の窃取、施設への侵入等により個人番号を取得」した場合は、「3年以下の懲役、または150万円以下の罰金、または懲役と罰金の両方」が課せられることになっている。
では、占いにつられて、自分のマイナンバーをうかうかと提供したほうはどうなるのか。
あなたの会社の従業員が、スマホでそのようなサイトにアクセスし、「マイナンバーを使うってなんとなく新しいし、特別な番号なのだから特別な内容がわかるかもしれない」そう期待して、入力してしまうことも十分考えられる。
これに関しては、とくに罰則があるわけではないが、マイナンバーを再交付してもらう手続きが必要になる。そのためには、市町村役場に出向かなければならない。
会社側からすれば、つまらないことで仕事を休んだり、遅刻早退されてしまうことになる。ぎりぎりの人数で回している職場が多い中、これは冗談ごとではない。
企業の経営者・人事労務担当者であれば、自社の従業員がこのような基本的なミスをおかさないよう、マイナンバーの知識を教育する必要があるのだ。
特定個人情報の安全管理のためにきちんとした規程を作っても、安心していてはいけない。案外、このような一見ばかばかしいところから、情報は漏れてしまうものなのである。
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香(り れいか)