『国の年金分』に『基金独自の年金』を上乗せして支払う厚生年金基金。その解散の影響については、次のような説明を受けることが多い。「基金が解散をした場合、『基金独自の年金』がなくなるというデメリットがありますが、『国の年金分』は国が支払いを引き継ぐので、その点では不利益を被ることがありません」。実は、これが必ずしも事実ではないことはあまり知られていない。
厚生年金基金解散の“支払制限”というデメリット

国の年金支払いルールでは“支払い制限”も

国が支払う年金はさまざまなケースで支払額を減らす、支払いを止めるなどの“支払い制限”を掛けるものである。しかしながら、厚生年金基金が『国の年金分』を払う場合には、そのような“支払い制限”を掛けないことが多い。そのため、基金の解散により『国の年金分』の支払い元が国にかわり、国の年金支払いルールが適用された結果、“支払い制限”に抵触してしまい、国からは支払いを受けられないという現象が起こることがある。

典型的な事例をご紹介しよう。初めに、厚生年金基金から年金を受け取りながら在職しているケースである。この場合、勤務先からは給料を受け取り、同時に基金からは年金を全額受け取れることがある。もしも、この基金が解散をした場合、基金が支払っていた『国の年金分』は国が支払いを引き継ぐので、勤務先から受け取る給料と国から受け取る老齢厚生年金の両方で生活ができるようにも思える。

しかしながら、もしも社会保険に加入をして勤務している場合には、国の支払う老齢厚生年金は減額されてしまうことがある。社会保険に加入して働いている場合、国の老齢厚生年金には「給料額」「ボーナス額」「年金額」の3つの金額の合計が基準を超えると年金の支払いを減らすという“支払い制限のルール”があるためである。年金がまったく払われないことも少なくない。そのため、基金解散後に在職している場合には、基金が支払っていた『国の年金分』は国からは今までどおりは受け取れないケースが発生することになる。

次に、「失業給付」を受け取っているケースである。厚生年金基金から年金を受け取っている方の中には、同時にハローワークから「失業給付」を受け取っているケースがある。「失業給付」とは失業をした方が次の仕事を見つけるまでの間、生活に困ることのないように支払われる給付のことである。もしも、この基金が解散をした場合、基金が支払っていた『国の年金分』は国が支払いを引き継ぐので、ハローワークから受け取る「失業給付」と国から受け取る老齢厚生年金の両方で生活ができるようにも思える。

支払制限のルールに注意

しかしながら、ハローワークの「失業給付」を受け取っている最中は、65歳未満の人は原則として国から老齢厚生年金を受け取ることができない。「失業給付」を受け取っている最中の場合、国は65歳未満の老齢厚生年金を支払わないという“支払い制限のルール”があるためである。そのため、基金解散後は「失業給付」を受け取っている限り、基金が支払っていた『国の年金分』は国からは一切受け取れないことになる。

最後に、国から障害年金、遺族年金など「老齢年金“以外”の年金」を受け取っているケースである。たとえば、障害をお持ちの方の中には、国から障害年金を受け取り、同時に厚生年金基金から年金を受け取っている方がいる。この基金が解散をした場合、基金が支払っていた『国の年金分』は国が支払いを引き継ぐので、今までもらっていた障害年金と基金が支払っていた『国の年金分』に相当する老齢年金の2つの年金を国から受け取れるようにも思える。

しかしながら、原則として、国の障害年金と老齢年金は同時に受け取ることができない。国の年金には種類の違う年金は同時に受け取れないという“支払い制限のルール”があるためである。そのため、国からは障害年金か老齢年金のいずれかを選んで受け取らざるを得ないことになる。もしも、障害年金を受け取ることを選んだ場合、基金が支払っていた『国の年金分』は、基金解散後、国からは一切受け取れないことになる。

厚生年金基金の解散には、単に『基金独自の年金』がなくなるというデメリットだけでなく、『国の年金分』が今までどおり受け取れなくなる可能性があるという“もう一つの大きなデメリット”が存在する。もちろん、国の年金支払い条件は全国民共通なので、基金のある会社に勤めていた方だけが不当に不利益を被るわけではないのだが、今まで受け取れていたものが受け取れなくなることには変わりがない。基金のある会社に勤めていた方は、基金解散には“2つのデメリット”があることをよく理解したいものである。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬 (中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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